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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「誰に向かって言っている…お前こそ気をつけるんだな」
サーベルを構え、黄金のスピリッツを漲らせる。
「お前に何かあると、レインが悲しむ。…レインのそんな顔は見たくない」
ラウレスの隣に歩み寄ったアリが、淑(しと)やかに手を振った。
「行ってらっしゃい、皆さん。お気をつけて」
ブラッドは一つ頷き、走り出す。
「藤間、沙羅ちゃん。行くぞ」
後を追う一哉に、沙羅が続く。
しかし沙羅は、ラウレスとアリの事が気掛かりで、走りながらも、幾度も背後を振り返っていた。
見えない何かが、ラウレスと対峙している。
ロビーに当たるフロアを抜けると、遂(つい)に二人の姿は見えなくなった。
地下へ続く階段を目指し、三人は廊下を駆ける。
マシウスの襲撃によって死地と化した入口付近とは異なり、壁に亀裂は見られるものの、通路に死者の姿は無い。
赤いハザードランプが点滅する閑散とした空間に、疾走する三人の硬い足音が響き渡る。
「R…あ〜…、マシウスは、フィクサーの中でも特別なんだ」
ブラッドはそう言い、肩越しに二人を見遣る。
「精神体(アストラル)ってヤツで…ぶっちゃけ倒しようがない。幽体(ゴースト)みたいなものと考えればいい。あれには命が存在しないんだ」
沙羅は一驚し、思わず声を上げる。
「ゆ、幽霊ってこと?」
少し間を空け、ブラッドが頷く。
「ま、そんなもんだろうな。ただ、それよりは実体化が強い。あいつは自分の身体を欲しがってて、それでいつもレインを狙ってくる」
本来存在しないはずの地下へのルートを確保する為に、先発部隊が破壊工作を行った一画は、広範囲に亘(わた)って穿たれ、全長400メートルにも及ぶ長い階段が、地下まで架け渡されていた。
急ごしらえとは思えぬほど頑丈に設置された階段は、彼等が予想していたよりずっと幅が広く、二メートル近くある。
この先は前人未踏の地だ。
予測不能の敵地へと向け、警戒を強めながらも、三人は疾(と)く駆け下りて行く。
「マシウスは、レインの遺伝子データで造られたから、レインを欲しがるのか」
一哉が問う。
前方を注視したまま、ブラッドが頷く。
「多分な。あいつの狙う身体は、いつも一つだ」
地下から吹き上げる強風と三人の重みで、階段が心許(こころもと)なく震動する。
光の及ばぬ深海の如き静寂の中を進みながら、ブラッドが付言する。
「マシウスばっかりはレインでも倒しようがなくて、俺とレインの二人で戦って、五回も取り逃がしてる。あいつの唯一の弱点は、レインの放つ焔なんだ。理由は…よく解らん」
暗闇に脅えつつ、沙羅も会話に加わる。
「それじゃ、あの二人…」
首肯するブラッドの姿は闇黒(やみくろ)に隠れ、沙羅には目視出来ない。
「勝つってことはまず無い。なにせ相手は死なないんだ」
闇の中にブラッドの声が響く。
進むにつれて気圧は下がり、鼓膜が押される。
沙羅は唾を飲み込んで耳抜きをし、甲高い耳鳴りと戦いながら、更に下へと進んで行く。
「死なないって…。ったく、何でもありだな。化物博覧会だぜ」
一連の会話の締め括(くく)りとばかりに一哉がボヤいた。
彼の率直な感想に微苦笑しつつも、ブラッドは今一度、現状を確認するように要諦(ようてい)を述べる。
「とにかく今は、ツォンとノーマンを捕らえる事が最優先だ。レインの治療法にしても、マシウスの消去法にしても…知っている人物は一人しかいない」
14年間、それ以降も今に至るまでずっと、レインを苛む男――ノーマン・メラーズ。
本当なら今すぐに喉を掻っ切って、自分の手で殺してやりたいと、ブラッドは思う。
高熱に魘(うな)され、聯に抱き上げられたレインの姿を想起し、焦燥に駆られながら、ブラッドは顔を顰める。
「地下施設は広い。が、ラウレスの透視(スルー)のお陰で、ツォンとノーマンのいるシェルターまでの道は確認済みだ。フィクサーだのヒューマノイドだの、遺伝子操作のクリーチャーがワンサカ出てくるとは思うが、先へ進むことだけに集中しろ。ここまで来て逃がしたくない。雑魚(ザコ)には構わず、奥まで一気に行くぞ」
地下から冷風が吹き上げてきた。出口は近い。
足元に光が差してきたところでブラッドは右肘を曲げ、その手の甲から鋭い鉤爪を発現させた。
階段が途切れ、三人の視界が豁然(かつぜん)と開ける。
地下400メートルの深層に広がる、巨大な研究施設。
軍機が並列する広漠としたエアポートに、三人は立っていた。
「誰に向かって言っている…お前こそ気をつけるんだな」
サーベルを構え、黄金のスピリッツを漲らせる。
「お前に何かあると、レインが悲しむ。…レインのそんな顔は見たくない」
ラウレスの隣に歩み寄ったアリが、淑(しと)やかに手を振った。
「行ってらっしゃい、皆さん。お気をつけて」
ブラッドは一つ頷き、走り出す。
「藤間、沙羅ちゃん。行くぞ」
後を追う一哉に、沙羅が続く。
しかし沙羅は、ラウレスとアリの事が気掛かりで、走りながらも、幾度も背後を振り返っていた。
見えない何かが、ラウレスと対峙している。
ロビーに当たるフロアを抜けると、遂(つい)に二人の姿は見えなくなった。
地下へ続く階段を目指し、三人は廊下を駆ける。
マシウスの襲撃によって死地と化した入口付近とは異なり、壁に亀裂は見られるものの、通路に死者の姿は無い。
赤いハザードランプが点滅する閑散とした空間に、疾走する三人の硬い足音が響き渡る。
「R…あ〜…、マシウスは、フィクサーの中でも特別なんだ」
ブラッドはそう言い、肩越しに二人を見遣る。
「精神体(アストラル)ってヤツで…ぶっちゃけ倒しようがない。幽体(ゴースト)みたいなものと考えればいい。あれには命が存在しないんだ」
沙羅は一驚し、思わず声を上げる。
「ゆ、幽霊ってこと?」
少し間を空け、ブラッドが頷く。
「ま、そんなもんだろうな。ただ、それよりは実体化が強い。あいつは自分の身体を欲しがってて、それでいつもレインを狙ってくる」
本来存在しないはずの地下へのルートを確保する為に、先発部隊が破壊工作を行った一画は、広範囲に亘(わた)って穿たれ、全長400メートルにも及ぶ長い階段が、地下まで架け渡されていた。
急ごしらえとは思えぬほど頑丈に設置された階段は、彼等が予想していたよりずっと幅が広く、二メートル近くある。
この先は前人未踏の地だ。
予測不能の敵地へと向け、警戒を強めながらも、三人は疾(と)く駆け下りて行く。
「マシウスは、レインの遺伝子データで造られたから、レインを欲しがるのか」
一哉が問う。
前方を注視したまま、ブラッドが頷く。
「多分な。あいつの狙う身体は、いつも一つだ」
地下から吹き上げる強風と三人の重みで、階段が心許(こころもと)なく震動する。
光の及ばぬ深海の如き静寂の中を進みながら、ブラッドが付言する。
「マシウスばっかりはレインでも倒しようがなくて、俺とレインの二人で戦って、五回も取り逃がしてる。あいつの唯一の弱点は、レインの放つ焔なんだ。理由は…よく解らん」
暗闇に脅えつつ、沙羅も会話に加わる。
「それじゃ、あの二人…」
首肯するブラッドの姿は闇黒(やみくろ)に隠れ、沙羅には目視出来ない。
「勝つってことはまず無い。なにせ相手は死なないんだ」
闇の中にブラッドの声が響く。
進むにつれて気圧は下がり、鼓膜が押される。
沙羅は唾を飲み込んで耳抜きをし、甲高い耳鳴りと戦いながら、更に下へと進んで行く。
「死なないって…。ったく、何でもありだな。化物博覧会だぜ」
一連の会話の締め括(くく)りとばかりに一哉がボヤいた。
彼の率直な感想に微苦笑しつつも、ブラッドは今一度、現状を確認するように要諦(ようてい)を述べる。
「とにかく今は、ツォンとノーマンを捕らえる事が最優先だ。レインの治療法にしても、マシウスの消去法にしても…知っている人物は一人しかいない」
14年間、それ以降も今に至るまでずっと、レインを苛む男――ノーマン・メラーズ。
本当なら今すぐに喉を掻っ切って、自分の手で殺してやりたいと、ブラッドは思う。
高熱に魘(うな)され、聯に抱き上げられたレインの姿を想起し、焦燥に駆られながら、ブラッドは顔を顰める。
「地下施設は広い。が、ラウレスの透視(スルー)のお陰で、ツォンとノーマンのいるシェルターまでの道は確認済みだ。フィクサーだのヒューマノイドだの、遺伝子操作のクリーチャーがワンサカ出てくるとは思うが、先へ進むことだけに集中しろ。ここまで来て逃がしたくない。雑魚(ザコ)には構わず、奥まで一気に行くぞ」
地下から冷風が吹き上げてきた。出口は近い。
足元に光が差してきたところでブラッドは右肘を曲げ、その手の甲から鋭い鉤爪を発現させた。
階段が途切れ、三人の視界が豁然(かつぜん)と開ける。
地下400メートルの深層に広がる、巨大な研究施設。
軍機が並列する広漠としたエアポートに、三人は立っていた。
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