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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


研究所内部。

資料によれば、エントランス付近は、不審者を見落とさぬ程度の、少し狭めのロビーになっていたはずだ。

だが内部には崩落した壁や瓦礫が集積し、もはや原形を留めてはいなかった。

「無駄な犠牲を出したな…油断した」

濃厚な血臭と硝煙に満ちた空間に、人間が動いている気配はない。
惨憺(さんたん)たる状況を目の当たりにし、ラウレスは臍(ほぞ)を噛む。

「地下にはフィクサーが何体かいるはずだ。端末を見ながら気をつけて進め。トラップも一応視てあるつもりだが、「R-J」のような例外(ブラック・ギフト)が用意されているかもしれない」

そう言ってサーベルを構えたラウレスは、遅れて研究所に入ってきた沙羅と一哉、それにアリの気配を捉え、周囲にそれ以外の生物が視えない事を確認する。

荒廃した所内に足を踏み入れた沙羅は、煤煙(ばいえん)の中にブラッドとラウレスの姿を認め、声をかけようと口を開いた――刹那。

背筋にゾクリと冷たいものが走り、反射的に左へと身を躱す。

寸秒違わず、一哉も後方へ身を翻(ひるがえ)した――黒い焔が、二人のいた場所を抉(えぐ)りながら猛進し、爆音と共に瓦礫へ衝突した。

四散した黒焔からは放射線状に熱波が放出されたが、俄かに現れた白光が二人の身体を覆い、それを弾き返す。

白光は熱に衰えることなく、未だ煌々(こうこう)と沙羅達の全身を包んでいる。

――防壁(プロテクト)。

「マシウスですか…。これは困りましたね」

ようやく追いついて来たらしいアリが、相変わらずの呑気な口調でそう言い、ポリポリと頬を掻いた。

「レインがいれば何とかなると思うんですけど…現状ではちょっと。自信無いですね」

太平楽(たいへいらく)な彼の口上を、しかし沙羅達は、長閑(のどか)になど聞いていられない。

次々と襲い来る黒焔に対応し切れず、パニックに陥った沙羅は、悲鳴を上げていた。

「ちょ、ちょっとッ! 何なのこれっ! 何っ? きゃああッ!」

直角に屈折し、壁にぶつかる直前で方向転換までした黒焔は、不自然なほど的確に沙羅達を狙ってくる。

だが、その発生源たる存在は今もって感知出来ず、彼女には黒焔を食い止める手立てが見出せない。

しかし、一方的な襲撃の中にあっても沈着を失わない一哉は、自分を覆う白光が、黒焔すらも弾き飛ばす最高レベルの防壁であることを心得ていた。

最も強力な防壁は、有色でなく白光を放つ。

一哉は部屋全体に意識をめぐらせ、見えない敵の位置を入念に探っていた。

そして、彼は「それ」の存在を、本能的に察知する。

一哉が地面に両手をつくと、主の意思に呼応した大地は無数の刃へと変じ、姿無き黒焔の主に向かって驀進(ばくしん)した。

天を衝(つ)かんと伸び出(い)でる長大な刃の筵(むしろ)を、何かが躱した。

それによって敵の位置を把握した沙羅はナイフを抜き放ち、その方向へと疾駆する。

能力呼応金属(オーリキャルク)が沙羅のスピリッツに応(こた)え、微かに震動した。

紫電一閃。
ナイフは虚空を切る。

そこに浮かぶ黒い影を、彼女は確かに見定めていた。

すかさずに振り翳(かざ)されたラウレスの一太刀を通り抜け、ゆらりと消えたその影は、再び大気中に溶けていく。

逃がすまいと追撃をかけようとした沙羅は、しかし突如、見えざる何かに弾かれ、後方に吹っ飛んだ。

「沙羅ッ!」

衝撃と共に壁が崩れ、湿った外気が部屋に流れ込む。

崩れ落ちた瓦礫から何とか這い出した沙羅だったが、彼女に目立った外傷はない。

沙羅は不思議そうに己の身体を点検し、自分を覆う仄(ほの)かな白光を熟視する。

――暖(あった)かい…。
――怪我も、してないし…痛くない。

「大丈夫ですか?」

やおら眼前に現れたアリが、沙羅に片手を差し出した。
ぼんやりしながらもその手を掴み、沙羅は立ち上がる。

――すごい。
――もしかして、これ…アリの能力?

「沙羅!大丈夫か」

一にも二にも沙羅に走り寄る一哉の後を追うようにして、ラウレス、ブラッドも駆け寄ってくる。
ブラッドはラウレスと視線を交わし、沙羅と一哉の肩を叩いた。

「二人は俺と一緒に地下へ行くぞ。ラウレス、アリ…終わったらすぐ戻る。それまで持ち堪えてくれ」

不敵に笑んだラウレスが、長いブロンドをかき上げた。


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