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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
繊細で儚げな雰囲気のある「芸術タイプ」を好むラウレスは、ブラッドのように野性的で大雑把で、年下のくせにふてぶてしい(ラウレス曰く)男が嫌いなのだ。
何より、最愛のレインがブラッド(なんか)に心を許しているという、嘆かわしい事実。それが一番解(げ)せない。
レインの隣に立つのは、自分以外の誰かであったとしても、レインに相応しい(ラウレスの感性に合った)美青年であってほしいと、彼は切望していた。
そうでなくては、折角の「Le Bel Homme(彼という美景)」が損なわれてしまうからだ。
こういった思考は彼独特のものだろうが、フランス大富豪の一人息子として、芸術の街で育った彼からすれば、至って当然の理論である…らしい。
だが、当のレインはブラッドに惚れ込んでいる上、寝室まで共にしている。
ラウレスから見れば、この状況はまこと忌々しき事態だ。
レインの目を覚ましてやらなくてはならないという非常にお節介な責任感すら、彼は感じている。
建物内部から出てきた偵察部隊が、それに気づいたアリに両手を振り上げた。
アリは優しい笑みを湛えながら、嫋(たお)やかに沙羅達を見渡す。
「そろそろ行きませんか、皆さん。なにか緊急事態みたいですよ」
百貨店の施設案内(アナウンス)ばりにエレガントなアリの言葉が終わるや否や、周囲一帯が鳴動し、研究所内から、銃を乱射する音、悲鳴、爆音が聞こえてきた。
「……!」
研究所へ顔を向けたラウレスが、腰に帯びていた剣を抜き放つ。
白い柄に黄金の装飾がされ、サファイアが埋め込まれた、美しいサーベル。
降りしきる雨粒を弾いた曲刀の刃先が、艶めかしく煌(きらめ)いた。
「俺の視覚から逃れた…? ブラッド、行くぞ」
ラウレスとブラッドに続き、沙羅と一哉も走り出す。
しかしアリは、彼等の後を追ってはいるものの、悠揚迫らぬ様子で歩行している。
後方のアリを見遣った一哉は、彼の思惑が図れずに首を傾げ、隣の沙羅に問いかける。
「あいつ…アリだっけ。すぐ死にそうに見えるけど。大丈夫なのかな」
そう言い終えてから、一哉は「彼女」というパーソナリティーを失念していたことに気がついた。
案の定、沙羅はきょとんとした顔つきで一哉を眺め、アリを振り返ると、事ともないように開陳(かいちん)する。
「大丈夫なんじゃない。だって、スナイパーの幹部って皆、すごく強いんでしょ」
会心の笑みすら見せる沙羅の言葉に、勿論根拠は無い。
「…そ、そうだな」
一哉は頷く他なく、とりあえず沙羅に笑顔を返した。
先行するブラッドとラウレスは既に戦闘態勢に入り、警戒を強めながら、爆炎の中で視線を交わしていた。
「ノーマンは能力者研究のプロだ。お前の視覚能力(ロード・アイ)にも何か仕掛けてきてるかもしれない。ここから先は気をつけろよ」
「…いや。あれは特別だ、ブラッド。俺が視逃(みのが)していても不思議じゃない」
対象を見通す透視(スルー)はラウレスの能力の中でも一番簡単なもので、生物、無生物の区別無しに、あらゆるものを透かし視る事が出来る。
研究所内部は既に、透視による予備調査が済んでいたはずだった。
だが、ごく稀に、彼の視覚能力に例外を齎(もたら)す存在がある。
それを、ラウレスは心得ていた。
「フィクサーのR-J(ジョシュ・マシウス)。お前も何度か戦ったことがあったな」
マシウスは唯一名前を持つフィクサーで、いわゆる選りすぐり(アウスレーゼ)だ。
ナイプ幹部の間では「Reign-jacker(レイン・ジャッカー)」として認識される、傍(はた)迷惑なレイン・ストーカーでもあり、彼等の日常会話では「R-J」と略称される。
幹部なら誰しも、レインの護衛(ガード)として任に就(つ)いた際、R-Jと遭遇し、対戦を余儀なくされた経験を持っている。
手強い相手だが、何より特筆すべきは、戦闘好きを公言するブラッドですら、その名を聞けばテンションが下がってしまう程の、絶大な薄気味悪さだろう。
「レインと二人がかりで五回だぜ。…藤間と沙羅ちゃんには重い な」
ブラッドが煩(わずら)わしそうに言った。
ラウレスは憂鬱を漂わせながら、やむなく窮余(きゅうよ)の一策を呈す。
「俺とアリで引き受ける。お前は二人を連れて地下へ行け」
ラウレスは軍服の胸元に手を入れると、掌に納まるくらいの小さなポータブル端末機を取り出した。
それにメディアチップを差し込み、ブラッドへ投げ渡す。
片手で受け取ったブラッドは、それを防護服のポケットに押し込みながら頷き、いよいよ目前となった施設内を勇躍と臨み見た。
繊細で儚げな雰囲気のある「芸術タイプ」を好むラウレスは、ブラッドのように野性的で大雑把で、年下のくせにふてぶてしい(ラウレス曰く)男が嫌いなのだ。
何より、最愛のレインがブラッド(なんか)に心を許しているという、嘆かわしい事実。それが一番解(げ)せない。
レインの隣に立つのは、自分以外の誰かであったとしても、レインに相応しい(ラウレスの感性に合った)美青年であってほしいと、彼は切望していた。
そうでなくては、折角の「Le Bel Homme(彼という美景)」が損なわれてしまうからだ。
こういった思考は彼独特のものだろうが、フランス大富豪の一人息子として、芸術の街で育った彼からすれば、至って当然の理論である…らしい。
だが、当のレインはブラッドに惚れ込んでいる上、寝室まで共にしている。
ラウレスから見れば、この状況はまこと忌々しき事態だ。
レインの目を覚ましてやらなくてはならないという非常にお節介な責任感すら、彼は感じている。
建物内部から出てきた偵察部隊が、それに気づいたアリに両手を振り上げた。
アリは優しい笑みを湛えながら、嫋(たお)やかに沙羅達を見渡す。
「そろそろ行きませんか、皆さん。なにか緊急事態みたいですよ」
百貨店の施設案内(アナウンス)ばりにエレガントなアリの言葉が終わるや否や、周囲一帯が鳴動し、研究所内から、銃を乱射する音、悲鳴、爆音が聞こえてきた。
「……!」
研究所へ顔を向けたラウレスが、腰に帯びていた剣を抜き放つ。
白い柄に黄金の装飾がされ、サファイアが埋め込まれた、美しいサーベル。
降りしきる雨粒を弾いた曲刀の刃先が、艶めかしく煌(きらめ)いた。
「俺の視覚から逃れた…? ブラッド、行くぞ」
ラウレスとブラッドに続き、沙羅と一哉も走り出す。
しかしアリは、彼等の後を追ってはいるものの、悠揚迫らぬ様子で歩行している。
後方のアリを見遣った一哉は、彼の思惑が図れずに首を傾げ、隣の沙羅に問いかける。
「あいつ…アリだっけ。すぐ死にそうに見えるけど。大丈夫なのかな」
そう言い終えてから、一哉は「彼女」というパーソナリティーを失念していたことに気がついた。
案の定、沙羅はきょとんとした顔つきで一哉を眺め、アリを振り返ると、事ともないように開陳(かいちん)する。
「大丈夫なんじゃない。だって、スナイパーの幹部って皆、すごく強いんでしょ」
会心の笑みすら見せる沙羅の言葉に、勿論根拠は無い。
「…そ、そうだな」
一哉は頷く他なく、とりあえず沙羅に笑顔を返した。
先行するブラッドとラウレスは既に戦闘態勢に入り、警戒を強めながら、爆炎の中で視線を交わしていた。
「ノーマンは能力者研究のプロだ。お前の視覚能力(ロード・アイ)にも何か仕掛けてきてるかもしれない。ここから先は気をつけろよ」
「…いや。あれは特別だ、ブラッド。俺が視逃(みのが)していても不思議じゃない」
対象を見通す透視(スルー)はラウレスの能力の中でも一番簡単なもので、生物、無生物の区別無しに、あらゆるものを透かし視る事が出来る。
研究所内部は既に、透視による予備調査が済んでいたはずだった。
だが、ごく稀に、彼の視覚能力に例外を齎(もたら)す存在がある。
それを、ラウレスは心得ていた。
「フィクサーのR-J(ジョシュ・マシウス)。お前も何度か戦ったことがあったな」
マシウスは唯一名前を持つフィクサーで、いわゆる選りすぐり(アウスレーゼ)だ。
ナイプ幹部の間では「Reign-jacker(レイン・ジャッカー)」として認識される、傍(はた)迷惑なレイン・ストーカーでもあり、彼等の日常会話では「R-J」と略称される。
幹部なら誰しも、レインの護衛(ガード)として任に就(つ)いた際、R-Jと遭遇し、対戦を余儀なくされた経験を持っている。
手強い相手だが、何より特筆すべきは、戦闘好きを公言するブラッドですら、その名を聞けばテンションが下がってしまう程の、絶大な薄気味悪さだろう。
「レインと二人がかりで五回だぜ。…藤間と沙羅ちゃんには
ブラッドが煩(わずら)わしそうに言った。
ラウレスは憂鬱を漂わせながら、やむなく窮余(きゅうよ)の一策を呈す。
「俺とアリで引き受ける。お前は二人を連れて地下へ行け」
ラウレスは軍服の胸元に手を入れると、掌に納まるくらいの小さなポータブル端末機を取り出した。
それにメディアチップを差し込み、ブラッドへ投げ渡す。
片手で受け取ったブラッドは、それを防護服のポケットに押し込みながら頷き、いよいよ目前となった施設内を勇躍と臨み見た。
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