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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
ブラッドからの至極手短な紹介を受け、一歩前へ踏み出したアリが、深々と丁寧なお辞儀をした。
面映ゆそうな奥ゆかしい表情で、沙羅と一哉に語りかける。
「お噂はかねがね。お二人とも、レインと同系統の能力者だとか…すごいですね。ご一緒できて光栄です。どうぞ宜しく…」
まるで拝むように手を合わせられ、沙羅と一哉は困惑気味に顔を見合わせた。
「樹沙羅です。えっと…あ、あたしも…光栄です」
きちんと会釈を返す沙羅とは対照的に、やや胸を反らせたような「俺様スタイル」で応じた一哉は、ぶっきらぼうに名前だけを口にする。
「…藤間一哉」
間に立っていたブラッドを片手で退(ど)かしたラウレスが、今までとは一変した穏やかな口調で、二人に語りかける。
「この男(ブラッド)が不出来で、色々と迷惑をかけてしまったようだ…二人には申し訳ない」
ラウレスに直視された沙羅は、ポッと紅葉を散らす。
絹のような肌をした繊細で美しいラウレスの顔立ちは、どちらかと言うと女性的で、間近で向き合うと、妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。
「こちらはまた、戦場に似つかわしくない。噂以上に可憐なお嬢さんだ」
恭しく沙羅の手を取ったラウレスが、小さな手の甲にそっとキスをした。
不慣れな扱いに吃驚し、硬直する沙羅の手を両手で包むと、ラウレスは彼女を正視し、張りのある美声でそっと囁く。
「美しい女性を護るのは男の務め。お嬢さんは、俺達が必ずお護りしよう」
「……」
ヨーロピアンな彼の、歯が浮くような台詞の連打に二の句が継げない沙羅は、完全に石化(フリーズ)している。
一哉が激昂する一刹那前に、ブラッドは、これ以上話がややこしくなるのは御免だとばかりに、沙羅とラウレスを引き離した。
「ごめんな沙羅ちゃん。ラウレスは…あ〜…そう、フェミニスト…なんだ。俺的には女誑(たら)しと言いたいとこなんだけど、本人曰くそういう事だから」
心外な発言に眉を吊り上げたラウレスは、厭(いと)わしそうにブラッドの横顔を睨む。
「女誑し(ドン・ジュアン)は貴様だ。…T'es gonfle.(厚顔無恥め)」
他機関のエージェントがいる手前、ラウレスは一応の配慮を見せ、自国(フランス)語でブラッドを非難したが、沙羅と一哉はフランス語をほぼ完全に習得している為、その意味を理解している。
蹴然(しゅくぜん)とした沙羅の反応からそれを悟ったブラッドは、彼女の肩をポンと一つ叩くと、わざと剽(ひょう)げた仕草で一笑し、思案顔だった沙羅を微笑ませた。
怒気を発する機を逃した一哉だったが、彼の中の「沙羅防護センサー」は間違いなく作動したらしい。
沙羅を引き寄せ、自分のやや後方に隠すようにしてから、幹部の二人に問いかける。
「フィクサーは何体出てきたんだ」
神妙な態度で問いかけながらも、一哉は内心で毒づく。
――類(レイン)は友(変人)を呼ぶ…
――やっぱりナイプって、変なヤツばっかりだな。
彼の胸中など窺い知らぬ二人が顔を見合わせた。
指を折りながら記憶を辿っていたアリが、先に口を開く。
「15体…でしたかね。確か」
ラウレスが首を振る。
「いや…17だ。お前の目が届く前に、俺が2体斬った」
ラウレスは研究所の入口を振り返り、説明がてら言葉を続ける。
「研究所内部は既に、俺とアリで偵察済みだ。地下施設エントランス周辺をUW部隊が偵察しているが、俺には大体視えた。まぁ…このメンバーなら問題ないだろう」
一哉はラウレスの横顔を見つめ、以前耳にした、ナイプの能力者の噂を想起する。
実名は無かったが、ただ、そういう能力者がスナイパーにいるという噂だ。
「超能力者(サイキック)がやるような透視(スルー)から、数秒先の未来を視ることまで出来る視覚能力者(ロード・アイ)…あんたがそうか」
ポツリと呟いた一哉に顔を向け、懐疑的な態度を見せながらも、ラウレスは頷く。
「そうだ。…よく知っているな」
ラウレスの、黄金の瞳。
全てを見透かすという能力に相応しい、不思議な色合いをしたそれは、心に滔々(とうとう)と沁み入ってくるようだ。
己の深部(こころ)を晒すまいと、一哉は慌てて顔を背ける。
「藤間一哉、か」
改めて一哉を見直したラウレスが、ふと微笑んだ。
知的で凛乎(りんこ)とし、瑞々しい生気に満ちた一哉は、同性から見ても魅力的で、未成熟ながら、既に雄の色気すら漂わせている。
何より、彼の風貌は男臭くなく、粗野でもなく、都会的で洗練されている―…これはラウレスにとって、非常に重要なポイントだった。
「可愛いな。あと五年もしたら、ブラッドなんかより余程いい男になる」
突然引き合いに出され、偏見に満ちた判定を下されたブラッドが苦笑する。
「お前な…。良くないぞ、そーいうトコ…」
ブラッドからの至極手短な紹介を受け、一歩前へ踏み出したアリが、深々と丁寧なお辞儀をした。
面映ゆそうな奥ゆかしい表情で、沙羅と一哉に語りかける。
「お噂はかねがね。お二人とも、レインと同系統の能力者だとか…すごいですね。ご一緒できて光栄です。どうぞ宜しく…」
まるで拝むように手を合わせられ、沙羅と一哉は困惑気味に顔を見合わせた。
「樹沙羅です。えっと…あ、あたしも…光栄です」
きちんと会釈を返す沙羅とは対照的に、やや胸を反らせたような「俺様スタイル」で応じた一哉は、ぶっきらぼうに名前だけを口にする。
「…藤間一哉」
間に立っていたブラッドを片手で退(ど)かしたラウレスが、今までとは一変した穏やかな口調で、二人に語りかける。
「この男(ブラッド)が不出来で、色々と迷惑をかけてしまったようだ…二人には申し訳ない」
ラウレスに直視された沙羅は、ポッと紅葉を散らす。
絹のような肌をした繊細で美しいラウレスの顔立ちは、どちらかと言うと女性的で、間近で向き合うと、妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。
「こちらはまた、戦場に似つかわしくない。噂以上に可憐なお嬢さんだ」
恭しく沙羅の手を取ったラウレスが、小さな手の甲にそっとキスをした。
不慣れな扱いに吃驚し、硬直する沙羅の手を両手で包むと、ラウレスは彼女を正視し、張りのある美声でそっと囁く。
「美しい女性を護るのは男の務め。お嬢さんは、俺達が必ずお護りしよう」
「……」
ヨーロピアンな彼の、歯が浮くような台詞の連打に二の句が継げない沙羅は、完全に石化(フリーズ)している。
一哉が激昂する一刹那前に、ブラッドは、これ以上話がややこしくなるのは御免だとばかりに、沙羅とラウレスを引き離した。
「ごめんな沙羅ちゃん。ラウレスは…あ〜…そう、フェミニスト…なんだ。俺的には女誑(たら)しと言いたいとこなんだけど、本人曰くそういう事だから」
心外な発言に眉を吊り上げたラウレスは、厭(いと)わしそうにブラッドの横顔を睨む。
「女誑し(ドン・ジュアン)は貴様だ。…T'es gonfle.(厚顔無恥め)」
他機関のエージェントがいる手前、ラウレスは一応の配慮を見せ、自国(フランス)語でブラッドを非難したが、沙羅と一哉はフランス語をほぼ完全に習得している為、その意味を理解している。
蹴然(しゅくぜん)とした沙羅の反応からそれを悟ったブラッドは、彼女の肩をポンと一つ叩くと、わざと剽(ひょう)げた仕草で一笑し、思案顔だった沙羅を微笑ませた。
怒気を発する機を逃した一哉だったが、彼の中の「沙羅防護センサー」は間違いなく作動したらしい。
沙羅を引き寄せ、自分のやや後方に隠すようにしてから、幹部の二人に問いかける。
「フィクサーは何体出てきたんだ」
神妙な態度で問いかけながらも、一哉は内心で毒づく。
――類(レイン)は友(変人)を呼ぶ…
――やっぱりナイプって、変なヤツばっかりだな。
彼の胸中など窺い知らぬ二人が顔を見合わせた。
指を折りながら記憶を辿っていたアリが、先に口を開く。
「15体…でしたかね。確か」
ラウレスが首を振る。
「いや…17だ。お前の目が届く前に、俺が2体斬った」
ラウレスは研究所の入口を振り返り、説明がてら言葉を続ける。
「研究所内部は既に、俺とアリで偵察済みだ。地下施設エントランス周辺をUW部隊が偵察しているが、俺には大体視えた。まぁ…このメンバーなら問題ないだろう」
一哉はラウレスの横顔を見つめ、以前耳にした、ナイプの能力者の噂を想起する。
実名は無かったが、ただ、そういう能力者がスナイパーにいるという噂だ。
「超能力者(サイキック)がやるような透視(スルー)から、数秒先の未来を視ることまで出来る視覚能力者(ロード・アイ)…あんたがそうか」
ポツリと呟いた一哉に顔を向け、懐疑的な態度を見せながらも、ラウレスは頷く。
「そうだ。…よく知っているな」
ラウレスの、黄金の瞳。
全てを見透かすという能力に相応しい、不思議な色合いをしたそれは、心に滔々(とうとう)と沁み入ってくるようだ。
己の深部(こころ)を晒すまいと、一哉は慌てて顔を背ける。
「藤間一哉、か」
改めて一哉を見直したラウレスが、ふと微笑んだ。
知的で凛乎(りんこ)とし、瑞々しい生気に満ちた一哉は、同性から見ても魅力的で、未成熟ながら、既に雄の色気すら漂わせている。
何より、彼の風貌は男臭くなく、粗野でもなく、都会的で洗練されている―…これはラウレスにとって、非常に重要なポイントだった。
「可愛いな。あと五年もしたら、ブラッドなんかより余程いい男になる」
突然引き合いに出され、偏見に満ちた判定を下されたブラッドが苦笑する。
「お前な…。良くないぞ、そーいうトコ…」
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