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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
聯は、彼の唇に、頬に、閉じた瞳に…優しくキスを落とし、愛しむように抱き寄せる。
されるがままに聯の行為を受け入れていたレインが、再び力無く、広い胸元に顔を埋めた。
瞠目結舌の光景を目の当たりにした戦闘員達は陰(かげ)に回り、互いに忙しなく視線を交わし合っている。
聯は、レインの頬を撫でさすりながら、彼等に歩み寄る。
「隣室の準備は?」
声を掛けられた戦闘員の一人が、文字通り飛び上がった。
「は…はいッ、と、隣に…可能な限りの治療設備を、よ、用意してあります」
裏返った声でたどたどしく答えた男を、他の戦闘員達が「バカ」とでも言いたげに睨む。
「ありがとう。では引き続き警護を頼もう。ついて来てくれ」
いつもの穏やかな口調でそう言い、聯は隣室に向かう。
その背中に従いながら、戦闘員達は暗々裏(あんあんり)に、再び忙しく視線を交わし合っていた。
抵抗部隊やフィクサーとの激しい戦闘が繰り広げられたであろう地下施設周辺には、小規模なドーム状の窪みが幾つも出来ていた。
北海道の稚内より更に北に位置するベルファストは、夏が訪れて蒸し暑い日本とは違い、日によっては冬の寒さである。
凍るような空気の中、冷たい雨が爆炎を静かに鎮火させ、現場には不気味な静寂が立ち込めていた。
UW部隊(型にはまらない戦争形態に対応可能な戦闘部隊)が地下施設入口を偵察する中、予定外にも現場の指揮を執(と)ってくれていた臨時のシニア・オフィサー二人が、ガーディアンの機体から出て来た三人を、雨に濡れるのも構わずに待っていた。
腰まで伸びた美しいブロンド、きめ細やかな白い肌、黄金の瞳が印象的な男と、襟に少しかかる程度の短い黒髪、黒い肌の、温和そうな深蒼の瞳を持つ男。
どちらもレインより少し背が高い程度で、やや細身だが、隙無く鍛えられた逞しい体格をしている。
黒い軍服に身を包んだ二人はまだ若く、20代前半くらいに見える。
歩み寄るブラッドへ顔を向けたブロンドの青年が、訝しげに顔を顰めた。
「レインはどうした」
そう言って、咎めるようにブラッドを睨む。
「貴様がついていながら…。何をしていた」
ブロンドの青年が放つ、極めて険悪な空気に堪えかねたもう一人の青年が、柔和な態度で宥(なだ)める。
「まぁまぁラウレス。ガーディアンのお二人に、先(ま)ずはご挨拶しないと」
ラウレスと呼ばれた男が、不満げに黒髪の男を見遣った。
「一番不満があるのはお前だろう、アリ。不遜にもこの男は、お前を降ろしてレインの護衛についたんだぞ。自信過剰にも程がある」
弱腰でありながらも、人の良さそうな笑顔は崩さず、アリが応じる。
「い、いや…。私がついていても。電脳スペースの中じゃ、ブラッドだって手の出しようがなかったでしょうし、ブラッドだったからこそ、レインの意識が戻ったんじゃ…ない、でしょうか」
語尾が弱くなったのは、ラウレスの強烈な視線に勢いを削がれたからだ。
アリの意見にやたら頷くブラッドの鉄面皮(てつめんぴ)が、ラウレスの怒りに火をつける。
「少しは反省しろ、ブラッド!大体、どうして戦闘型の貴様が出てくるんだ! お前で良かったなら、俺がレインについたものを…」
ブラッドは「まぁまぁ」とでも言うように両手を前に出し、柳に風と受け流す。
「反省してるって。悪かった。レインはガーディアンの軍機の中だ。戦闘に出てくるよりは、まだ李に預けた方がマシかと思ってな」
「なっ…GADの李総帥に? 貴様、何てことを…ッ」
ブラッドはそそくさと一哉と沙羅の方に身体を向け、憤怒に戦慄(わなな)くラウレスに背中を向けた。
――コイツとまともに口論なんぞしてたら、明日の朝までここで立ち往生だ…。
――こういう場合は、俺以外の誰かに意識を向けさせちまうのが手っ取り早い。
ブラッドは、ここ1年程の付き合いで、ラウレスの操縦法を(身を削って)自得していた。
幸い、彼等とは初対面となる沙羅と一哉は、どちらも見目がいい。
とかく「美」に拘(こだわ)るラウレスを惹きつけるには、申し訳ないが、この二人はうってつけだった。
ブラッドは沙羅と一哉の背中を押し、ラウレスとアリに向かい合わせると、ごく自然な流れで橋渡し役に身を転じる。
「こっちがラウレス、隣がアリだ。レイン専属護衛(ガードナー)…いわゆる幹部ってヤツだな。どっちも能力者だし強いから、まぁ頼りにしてくれ」
聯は、彼の唇に、頬に、閉じた瞳に…優しくキスを落とし、愛しむように抱き寄せる。
されるがままに聯の行為を受け入れていたレインが、再び力無く、広い胸元に顔を埋めた。
瞠目結舌の光景を目の当たりにした戦闘員達は陰(かげ)に回り、互いに忙しなく視線を交わし合っている。
聯は、レインの頬を撫でさすりながら、彼等に歩み寄る。
「隣室の準備は?」
声を掛けられた戦闘員の一人が、文字通り飛び上がった。
「は…はいッ、と、隣に…可能な限りの治療設備を、よ、用意してあります」
裏返った声でたどたどしく答えた男を、他の戦闘員達が「バカ」とでも言いたげに睨む。
「ありがとう。では引き続き警護を頼もう。ついて来てくれ」
いつもの穏やかな口調でそう言い、聯は隣室に向かう。
その背中に従いながら、戦闘員達は暗々裏(あんあんり)に、再び忙しく視線を交わし合っていた。
抵抗部隊やフィクサーとの激しい戦闘が繰り広げられたであろう地下施設周辺には、小規模なドーム状の窪みが幾つも出来ていた。
北海道の稚内より更に北に位置するベルファストは、夏が訪れて蒸し暑い日本とは違い、日によっては冬の寒さである。
凍るような空気の中、冷たい雨が爆炎を静かに鎮火させ、現場には不気味な静寂が立ち込めていた。
UW部隊(型にはまらない戦争形態に対応可能な戦闘部隊)が地下施設入口を偵察する中、予定外にも現場の指揮を執(と)ってくれていた臨時のシニア・オフィサー二人が、ガーディアンの機体から出て来た三人を、雨に濡れるのも構わずに待っていた。
腰まで伸びた美しいブロンド、きめ細やかな白い肌、黄金の瞳が印象的な男と、襟に少しかかる程度の短い黒髪、黒い肌の、温和そうな深蒼の瞳を持つ男。
どちらもレインより少し背が高い程度で、やや細身だが、隙無く鍛えられた逞しい体格をしている。
黒い軍服に身を包んだ二人はまだ若く、20代前半くらいに見える。
歩み寄るブラッドへ顔を向けたブロンドの青年が、訝しげに顔を顰めた。
「レインはどうした」
そう言って、咎めるようにブラッドを睨む。
「貴様がついていながら…。何をしていた」
ブロンドの青年が放つ、極めて険悪な空気に堪えかねたもう一人の青年が、柔和な態度で宥(なだ)める。
「まぁまぁラウレス。ガーディアンのお二人に、先(ま)ずはご挨拶しないと」
ラウレスと呼ばれた男が、不満げに黒髪の男を見遣った。
「一番不満があるのはお前だろう、アリ。不遜にもこの男は、お前を降ろしてレインの護衛についたんだぞ。自信過剰にも程がある」
弱腰でありながらも、人の良さそうな笑顔は崩さず、アリが応じる。
「い、いや…。私がついていても。電脳スペースの中じゃ、ブラッドだって手の出しようがなかったでしょうし、ブラッドだったからこそ、レインの意識が戻ったんじゃ…ない、でしょうか」
語尾が弱くなったのは、ラウレスの強烈な視線に勢いを削がれたからだ。
アリの意見にやたら頷くブラッドの鉄面皮(てつめんぴ)が、ラウレスの怒りに火をつける。
「少しは反省しろ、ブラッド!大体、どうして戦闘型の貴様が出てくるんだ! お前で良かったなら、俺がレインについたものを…」
ブラッドは「まぁまぁ」とでも言うように両手を前に出し、柳に風と受け流す。
「反省してるって。悪かった。レインはガーディアンの軍機の中だ。戦闘に出てくるよりは、まだ李に預けた方がマシかと思ってな」
「なっ…GADの李総帥に? 貴様、何てことを…ッ」
ブラッドはそそくさと一哉と沙羅の方に身体を向け、憤怒に戦慄(わなな)くラウレスに背中を向けた。
――コイツとまともに口論なんぞしてたら、明日の朝までここで立ち往生だ…。
――こういう場合は、俺以外の誰かに意識を向けさせちまうのが手っ取り早い。
ブラッドは、ここ1年程の付き合いで、ラウレスの操縦法を(身を削って)自得していた。
幸い、彼等とは初対面となる沙羅と一哉は、どちらも見目がいい。
とかく「美」に拘(こだわ)るラウレスを惹きつけるには、申し訳ないが、この二人はうってつけだった。
ブラッドは沙羅と一哉の背中を押し、ラウレスとアリに向かい合わせると、ごく自然な流れで橋渡し役に身を転じる。
「こっちがラウレス、隣がアリだ。レイン専属護衛(ガードナー)…いわゆる幹部ってヤツだな。どっちも能力者だし強いから、まぁ頼りにしてくれ」
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