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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「ガーディアン第3特殊部隊、第7部隊共に、任務を完了致しました。作戦開始前にスナイパーの増援があり、ラウレス・レヴァートン・フェナー大佐と、アリ・ウィン少佐が現場のシニア・オフィサーの任に当たって下さいました。こちらにもスナイパーにも、死者はありません」
戦闘員の言葉を耳にした一哉が、「ふぅん」と感嘆の声を漏らした。
ベルファストの地上戦には、戦闘員達が知り得ぬ脅威の存在、フィクサーが、何体か投入されていたと予想される。
スナイパーの増援がなければ、全滅の報告が入っていただろう。
一哉は「さすが」と一言発し、開けたままだった防護服のファスナーを上げた。
解決すべき問題からずれてしまった全員の目線を戻そうと、本来遂行すべき任務へと、自らが意識を集中させる。
そこには、組織やレインの過去に関する事情から、沙羅とブラッドの気を逸(そ)らすという意図が含まれていたが、あくまで任務遂行を第一とした体裁を装っている一哉から、そういった心底(ホンネ)は読み取れない。
「滅多にお目にかかれない、噂のスナイパー幹部が二人も動いて下さるとはね。合流するのが楽しみだぜ」
そう言い、一哉と沙羅の出陣準備を整えていたサポーターから、潜入用装備を2セット受け取って、1セットを沙羅に放る。
落とさず受け取った沙羅が、ブラッドを見上げた。
「ブラッド、行こう」
沙羅は精悍(せいかん)な面持ちで立ち上がり、能力呼応金属(オーリキャルク)で造られたナイフを、慣れた手つきで装着する。
最小限の犠牲で任務を完了する無血の勝利(ブラッドレス・ゲイナー)を目標としている彼女は、銃器を一切持たない。
「レインが自分を傷つけてまで開いてくれた、大切な突破口だもん。無駄には出来ない」
聯を見咎めたままのブラッドは、今もって動かない。
そんな彼の視線を奪い、戦気を削いだのは、発作的に胸を押さえ、苦悶を浮かべたレインの表情だった。
軍服を掴み、苦しげに悶えるレインの横顔を目にしたブラッドは、短く息を吐くと髪を乱し上げ、歯痒そうに俯く。
――俺がここに残ってレインの傍にいたとしても…問題は解決しない。
苛立つ気持ちを抑えようと、ブラッドは冷静に胸中を整理する。
――俺が行かなきゃ、ラウレスやアリ、沙羅ちゃん達にも負担がかかる。
――それに…。
ブラッドは顔を上げ、今一度レインを見つめる。
――レインはきっと、それを望まない。
「そいつは…レインは、俺達にとって全てだ」
聯を正視し、それと解るほどに威圧的な口調で言い含めるブラッドの背後では、戦闘員の蛮声(ばんせい)や足音が、継続的に響いている。
火急の事態に一刻の猶予もない事はブラッドにも解っていたが、それでも、言わずにはいられない。
「俺と他に二人、レインの護衛(ガード)が来てることを忘れるなよ。レインを一時的にでもあんたに預けるのは、あんたを信用してるからじゃない」
至誠(しせい)を尽くしたブラッドの警告を聞き留めた一哉は肩を竦め、聞こえよがしに悪態をつく。
「ご立派〜。大した忠義心だな…涙が出ちゃうぜ。そいつのどこに、そんな魅力があるんだか」
ブラッドは入口の方へ歩を進めると、扉付近にいた一哉の頭を上から押さえつけ、柔らかい赤毛をクシャクシャに乱した。
「俺だって聞きたいね。あんな得体の知れないボスのどこに、お前が惚れてんのか」
ボンバーヘッドと化した頭を手櫛で直しながら、一哉がボヤく。
「直したばっかだったんだぜ、髪…。せっかくキマってたのに…」
二人に駆け寄った沙羅が聯を振り返った。
栗色の長い髪が円を描き、ふんわりと靡く。
「行ってくるね、聯」
高熱に魘(うな)されているレインに目を留め、沙羅は後顧(こうこ)の憂いを滲ませたが、強く拳を握ると、決起したように扉から出て行った。
三人が立ち去った部屋の中に残されたのは、聯とレイン、それに数人の戦闘員達だった。
聯は、昏睡するレインを静かに見下ろし、汗で額にはり付いた彼の黒髪を、指先で丁寧に撫で梳かす。
聯の両腕に伝わる熱は、常人の耐え得る温度を遥かに超えている。
ウィルスに蝕まれた身体を修復するのにやっとで、言葉を放つ事すら出来ずにいる彼は、自分が今、誰に抱かれているのかさえ、判別出来ていないだろう。
レインの火照った頬を撫で、強く抱き寄せる。
無抵抗に胸元へ顔を埋めるレインの瞼に、聯はそっと唇を寄せた。
苦痛に喘ぐレインのふっくらとした花唇(かしん)は、薄く開かれている。
熱い吐息を漏らすそれに、唇で触れて…塞ぐ。
「…ん、…」
レインが儚げな吐息を漏らした。
「ガーディアン第3特殊部隊、第7部隊共に、任務を完了致しました。作戦開始前にスナイパーの増援があり、ラウレス・レヴァートン・フェナー大佐と、アリ・ウィン少佐が現場のシニア・オフィサーの任に当たって下さいました。こちらにもスナイパーにも、死者はありません」
戦闘員の言葉を耳にした一哉が、「ふぅん」と感嘆の声を漏らした。
ベルファストの地上戦には、戦闘員達が知り得ぬ脅威の存在、フィクサーが、何体か投入されていたと予想される。
スナイパーの増援がなければ、全滅の報告が入っていただろう。
一哉は「さすが」と一言発し、開けたままだった防護服のファスナーを上げた。
解決すべき問題からずれてしまった全員の目線を戻そうと、本来遂行すべき任務へと、自らが意識を集中させる。
そこには、組織やレインの過去に関する事情から、沙羅とブラッドの気を逸(そ)らすという意図が含まれていたが、あくまで任務遂行を第一とした体裁を装っている一哉から、そういった心底(ホンネ)は読み取れない。
「滅多にお目にかかれない、噂のスナイパー幹部が二人も動いて下さるとはね。合流するのが楽しみだぜ」
そう言い、一哉と沙羅の出陣準備を整えていたサポーターから、潜入用装備を2セット受け取って、1セットを沙羅に放る。
落とさず受け取った沙羅が、ブラッドを見上げた。
「ブラッド、行こう」
沙羅は精悍(せいかん)な面持ちで立ち上がり、能力呼応金属(オーリキャルク)で造られたナイフを、慣れた手つきで装着する。
最小限の犠牲で任務を完了する無血の勝利(ブラッドレス・ゲイナー)を目標としている彼女は、銃器を一切持たない。
「レインが自分を傷つけてまで開いてくれた、大切な突破口だもん。無駄には出来ない」
聯を見咎めたままのブラッドは、今もって動かない。
そんな彼の視線を奪い、戦気を削いだのは、発作的に胸を押さえ、苦悶を浮かべたレインの表情だった。
軍服を掴み、苦しげに悶えるレインの横顔を目にしたブラッドは、短く息を吐くと髪を乱し上げ、歯痒そうに俯く。
――俺がここに残ってレインの傍にいたとしても…問題は解決しない。
苛立つ気持ちを抑えようと、ブラッドは冷静に胸中を整理する。
――俺が行かなきゃ、ラウレスやアリ、沙羅ちゃん達にも負担がかかる。
――それに…。
ブラッドは顔を上げ、今一度レインを見つめる。
――レインはきっと、それを望まない。
「そいつは…レインは、俺達にとって全てだ」
聯を正視し、それと解るほどに威圧的な口調で言い含めるブラッドの背後では、戦闘員の蛮声(ばんせい)や足音が、継続的に響いている。
火急の事態に一刻の猶予もない事はブラッドにも解っていたが、それでも、言わずにはいられない。
「俺と他に二人、レインの護衛(ガード)が来てることを忘れるなよ。レインを一時的にでもあんたに預けるのは、あんたを信用してるからじゃない」
至誠(しせい)を尽くしたブラッドの警告を聞き留めた一哉は肩を竦め、聞こえよがしに悪態をつく。
「ご立派〜。大した忠義心だな…涙が出ちゃうぜ。そいつのどこに、そんな魅力があるんだか」
ブラッドは入口の方へ歩を進めると、扉付近にいた一哉の頭を上から押さえつけ、柔らかい赤毛をクシャクシャに乱した。
「俺だって聞きたいね。あんな得体の知れないボスのどこに、お前が惚れてんのか」
ボンバーヘッドと化した頭を手櫛で直しながら、一哉がボヤく。
「直したばっかだったんだぜ、髪…。せっかくキマってたのに…」
二人に駆け寄った沙羅が聯を振り返った。
栗色の長い髪が円を描き、ふんわりと靡く。
「行ってくるね、聯」
高熱に魘(うな)されているレインに目を留め、沙羅は後顧(こうこ)の憂いを滲ませたが、強く拳を握ると、決起したように扉から出て行った。
三人が立ち去った部屋の中に残されたのは、聯とレイン、それに数人の戦闘員達だった。
聯は、昏睡するレインを静かに見下ろし、汗で額にはり付いた彼の黒髪を、指先で丁寧に撫で梳かす。
聯の両腕に伝わる熱は、常人の耐え得る温度を遥かに超えている。
ウィルスに蝕まれた身体を修復するのにやっとで、言葉を放つ事すら出来ずにいる彼は、自分が今、誰に抱かれているのかさえ、判別出来ていないだろう。
レインの火照った頬を撫で、強く抱き寄せる。
無抵抗に胸元へ顔を埋めるレインの瞼に、聯はそっと唇を寄せた。
苦痛に喘ぐレインのふっくらとした花唇(かしん)は、薄く開かれている。
熱い吐息を漏らすそれに、唇で触れて…塞ぐ。
「…ん、…」
レインが儚げな吐息を漏らした。
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