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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


ブラッドと聯、向かい合う両者の間には、互いに煙幕を張ったような緊迫感がある。
表面上は社交的関係を保っているが、胸中は腹の探り合いだ。

警戒心を抱きながら、ブラッドは入念に聯の様子を窺っていた。

――李が何も知らず、ここに現れたとは考えにくい。

レインが自我を失い暴走するという想定外のイレギュラーに、懸念を抱いたんだろうと予想をつける。

――だが、一体何処でその事実を知った?

俄かに二人の間に割り入った沙羅が聯を見上げ、強い口調で糺(ただ)した。

「バベル研究所のノーマンっていう博士の仕業だって。知ってるんだよね、聯」

「沙羅!」

聯に詰め寄る沙羅を、一哉が諭す。

「聯はずっと上層部の情報整理に回ってたんだ。現場のことはレインに一任されてた。聯には何の責任もねぇし、こうやってここに来たのは、俺達を心配して…」

「FIXERの事は? 知ってるんでしょ? ツォンもノーマン博士も、聯と同じREDSHEEPって組織の人間なの?」

「ッ…沙羅!」

組織の名を口にし、剰(あまつさ)えそれを聯に問い質すという愚挙(ぐきょ)に及んだ彼女をこれ以上暴走させてはなるまいと、一哉は沙羅の腕を引き、聯から引き離そうとする。

しかし沙羅は抵抗し、一哉の抑止を撥ね除けようと身を捩じらせる。

「だって…ッ。全部知ってたの? わざとこんな事したの!? 廊下、通ってきたんでしょ? 沢山の人が傷ついたんだよ。どうして…」

言中に込み上げた涙が、沙羅の視界を揺らした。

GUARDIANに入って以来、沙羅の中にずっと渦巻いていた感情。

――真実を知りたい。
――本当の事を、真っ直ぐに見極めたい。

世界を陰から支配し、策動する混沌の力が在るなら、それが一体何なのか、何を目的としているのか…それを知りたい。

この数時間に垣間見た悪夢は、沙羅にとって大き過ぎる衝撃となっていた。
ただ目を瞑り、黙している事など、最早出来るはずが無かった。

――その力が、もしGUARDIAN(自分たち)と…
――聯と関係しているとしたら。
――それはつまり…。

「FIXERに関しては想定済みだったよ。だからこそ、レインに君達を預けたんだ」

聯は一哉の手に触れ、静かに首を振った。

一哉は不服そうに聯を見上げたが、彼の意向に従い、渋々ながらも沙羅から手を離す。

「FIXERというのは、ノーマン博士が造り出した対能力者用の人造戦闘員(アーティフィシャル・コンバタント)の通称だ。ツォン・バイの策略の陰にノーマン博士がいるという情報は確かなもので、同時に、彼等が能力者を狙っているという情報も傍受していた。FIXERは通常の戦闘には行使されない、極秘のプロジェクトの一環だからね。沙羅と一哉は彼等との交戦経験がない。FIXERと君達をいきなり対戦させるのは、あまりに危険だと判断した。君達に万が一があっては、GUARDIANだけでなく、関係者全員が困る。…解るね?」

柔和で心地いい聯の声は、相手の心に染み入るような独特のバリトンだ。
後ろ暗さを感じさせない聯の笑顔が、沙羅を困惑させる。

「しかし…電脳スペースに於いて圧倒的な勝率を誇るレインを、昏睡状態にまで陥らせるようなウィルスをノーマン博士が持っていた事は…想定外だった」

そう語る聯の胸裏は静穏ではない。

――ウィルス――精神汚染?
――勝手な真似を…。
――ノーマンの研究報告は、全て組織に上げられていたはずだ。
――ノーマンはレインの個体情報(パーソナル・データ)を管理し、彼に様々な処置を施せる人間…。

だからこそ生かす価値があったのだと、聯は思う。

しかしそれは、あくまで従順なものであって、聯の意思に反するものであってはならない。

「どうやら…現状は、私の意図していたものとは別の方向に進んでしまったようだ」

そう言いながら、聯は沙羅の頬にそっと指先を滑らせた。
鳶(とび)色の瞳から零れた大粒の涙を、丁寧に拭う。

「すまなかった…。恐い思いをさせたね。君達が無事だったとはいえ、SNIPERにも多くの犠牲者を出してしまった」

厳(おごそ)かに謝罪の言葉を呈した聯は、沈痛な面持ちで俯いている。

「聯…」

彼の篤実(とくじつ)な態度や殊勝な言葉に怒気を削がれ、詰責する気力を失ってしまった沙羅は、徐々に自省を感じ、黙り込んでしまう。

「レインの様子は?」

聯は不意に顔を上げ、ブラッドに問いかける。
ブラッドはレインを見下ろし、渋面をつくりながら言う。

「意識はたぶん戻ったはずだ。だけど…」

意識が戻っても尚、自分で身体を動かすことさえ儘ならなかったレインの姿を想起し、ブラッドは言葉を詰まらせる。


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