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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「このタイミングで…またFIXERなんて言うなよ」
張り詰めた緊張感の中、内心では不測の事態を収拾できたことにちょっぴり安堵しつつ、一哉が言った。
レインは昏睡状態、ブラッドは重傷、沙羅は…さっきみたいなトランスをまた起こせるとは限らない。
一哉はと言えば、ずっとやせ我慢をしてはいるものの、内臓にまで及ぶ痛手を回復し切れず、立っているのがやっとという有様だ。
「さっきの二体はまだ弱い方だった。もっと強いのが今、この状態で出てきたら…ちょっとキツいな」
そうボヤきながらも余裕を感じさせるブラッドの隣で、一哉が苦笑する。
「アレで弱い…ね。キツいな、そりゃ」
「無理するなよ藤間。お前…立ってるのがやっとなんだろ」
隠していたはずのダメージをブラッドにあっさりと看破され、一哉は反射的に虚勢を張る。
「な、何言ってんだよ。俺は全然…余裕に決まってんだろ」
しかしブラッドは、そんな彼の健気な反論を許さない。
「肋骨、腰骨、右足首、左腕。…折れた肋骨は多分、内臓に刺さってるはずだ。いくらお前でもそれじゃ、回復に時間がかかるだろ」
――ど、どうしてそんな詳細に…ッ。
思わず動揺を表出しながらも、一哉はエントランスを見据える。
足音はもう、すぐ近くまで迫っている。
「だから何だってんだ。レインと戦った時に比べりゃ、こんなの。怪我の内にも入んねぇよ」
彼の口から出た言葉は本心だった。
レインに負わされてきた死傷を思えば、一哉にとって、こんなものは擦過傷(かすりきず)にも等しい。
「藤間…」
尊敬の念すら含んだ視線で一哉を見遣ったブラッドは、片手を鼻先に添えて口元を覆うと、しみじみと感嘆を漏らした。
「レインに…よほど酷くやられてたんだな、お前。…それなのにこいつを…。……。お前ってヤツは…」
度重なる誤解に眩暈を感じ、一哉はよろめく。
「ちょっと…。違う。やめてくれ…。俺は本当に、そいつが大ッ嫌いだ。…その勘違い、マジでやめて…」
廊下から近づく人影。
気配は絶たれているが、戦闘員(コンバタント)レベルの威圧感(プレッシャー)ではない。
とは言え三人は、見えざる相手から、殺気を感じ取ってはいなかった。
フィクサーじゃ、ない…?
そう思い、一哉はハッと肩を揺らす。
「…!」
その人物に逸早く気づいた一哉が、構えていた両腕を下ろした。
廊下から伸びた黒い影が、ようやく実体を現す。
沙羅は括目し、彼の名を呼んだ。
「ッ、ル…聯(ルエン)…!?」
熱で歪んだ扉枠をくぐってやって来たのは、この場に似合わぬ雅やかな男だった。
瓦礫の中で穏やかに笑んだ彼は、グレンチェックのシックなスーツに同ブランドのネクタイ、トゥにメダリオンの入った靴という、英姿颯爽たる風体だ。
「そんなに警戒しなくても、私だけだよ」
淑(しと)やかに瞳を細め、聯は両手を広げて見せた。
「ど、どうして…」
未だ状況を把握できず、沙羅が呟く。
GUARDIAN(ガーディアン)総帥ともあろう人物が、死体だらけの戦場に一人で現れるなんて、誰がどう考えても不自然である。
困惑する沙羅と一哉、そしてブラッドへと視線を流した聯は、その腕に抱かれたレインを目にすると、僅かにだが顔を曇らせた。
本当に一瞬だけの反応だったが、一哉はそれを看過しない。
妬心に胸を焼かれ、きつく唇を噛む。
――なんでいつも、レイン(あいつ)だけ。
――聯が興味を示すのはいつも唯一人。
――この世界でたった一人だけだ。
聯がレインに接する時の、ほんの些細な所作の一つ一つが、一哉の心に小さい棘を残す。
ブラッドに向かって、聯が言う。
「表にGUARDIAN(うち)の軍機を停めさせてもらったよ。こちらとの連絡がつかなかったのでね」
フィクサー登場という最悪の事態を免れた事にとりあえず安堵しつつ、ブラッドが応じる。
「ああ…悪い。ちょっとトラブルがあったもんで。まぁ、この惨状を見れば…大体解るだろ?」
自由闊達(かったつ)な彼らしい、砕けた口調でそう言い、肩を竦めるブラッドに、聯が首肯した。
「そちらの戦闘員(コンバタント)には気の毒だった」
聯はそう言うと周囲を見渡し、真摯な面差しに憂いを含ませる。
「この部屋の惨状はレインの焔によるものだね…彼は?」
「…。電脳スペースでトラップにかかったらしい。恐らく…精神汚染(ウィルス)を受けた」
「精神汚染(ウィルス)?」
「このタイミングで…またFIXERなんて言うなよ」
張り詰めた緊張感の中、内心では不測の事態を収拾できたことにちょっぴり安堵しつつ、一哉が言った。
レインは昏睡状態、ブラッドは重傷、沙羅は…さっきみたいなトランスをまた起こせるとは限らない。
一哉はと言えば、ずっとやせ我慢をしてはいるものの、内臓にまで及ぶ痛手を回復し切れず、立っているのがやっとという有様だ。
「さっきの二体はまだ弱い方だった。もっと強いのが今、この状態で出てきたら…ちょっとキツいな」
そうボヤきながらも余裕を感じさせるブラッドの隣で、一哉が苦笑する。
「アレで弱い…ね。キツいな、そりゃ」
「無理するなよ藤間。お前…立ってるのがやっとなんだろ」
隠していたはずのダメージをブラッドにあっさりと看破され、一哉は反射的に虚勢を張る。
「な、何言ってんだよ。俺は全然…余裕に決まってんだろ」
しかしブラッドは、そんな彼の健気な反論を許さない。
「肋骨、腰骨、右足首、左腕。…折れた肋骨は多分、内臓に刺さってるはずだ。いくらお前でもそれじゃ、回復に時間がかかるだろ」
――ど、どうしてそんな詳細に…ッ。
思わず動揺を表出しながらも、一哉はエントランスを見据える。
足音はもう、すぐ近くまで迫っている。
「だから何だってんだ。レインと戦った時に比べりゃ、こんなの。怪我の内にも入んねぇよ」
彼の口から出た言葉は本心だった。
レインに負わされてきた死傷を思えば、一哉にとって、こんなものは擦過傷(かすりきず)にも等しい。
「藤間…」
尊敬の念すら含んだ視線で一哉を見遣ったブラッドは、片手を鼻先に添えて口元を覆うと、しみじみと感嘆を漏らした。
「レインに…よほど酷くやられてたんだな、お前。…それなのにこいつを…。……。お前ってヤツは…」
度重なる誤解に眩暈を感じ、一哉はよろめく。
「ちょっと…。違う。やめてくれ…。俺は本当に、そいつが大ッ嫌いだ。…その勘違い、マジでやめて…」
廊下から近づく人影。
気配は絶たれているが、戦闘員(コンバタント)レベルの威圧感(プレッシャー)ではない。
とは言え三人は、見えざる相手から、殺気を感じ取ってはいなかった。
フィクサーじゃ、ない…?
そう思い、一哉はハッと肩を揺らす。
「…!」
その人物に逸早く気づいた一哉が、構えていた両腕を下ろした。
廊下から伸びた黒い影が、ようやく実体を現す。
沙羅は括目し、彼の名を呼んだ。
「ッ、ル…聯(ルエン)…!?」
熱で歪んだ扉枠をくぐってやって来たのは、この場に似合わぬ雅やかな男だった。
瓦礫の中で穏やかに笑んだ彼は、グレンチェックのシックなスーツに同ブランドのネクタイ、トゥにメダリオンの入った靴という、英姿颯爽たる風体だ。
「そんなに警戒しなくても、私だけだよ」
淑(しと)やかに瞳を細め、聯は両手を広げて見せた。
「ど、どうして…」
未だ状況を把握できず、沙羅が呟く。
GUARDIAN(ガーディアン)総帥ともあろう人物が、死体だらけの戦場に一人で現れるなんて、誰がどう考えても不自然である。
困惑する沙羅と一哉、そしてブラッドへと視線を流した聯は、その腕に抱かれたレインを目にすると、僅かにだが顔を曇らせた。
本当に一瞬だけの反応だったが、一哉はそれを看過しない。
妬心に胸を焼かれ、きつく唇を噛む。
――なんでいつも、レイン(あいつ)だけ。
――聯が興味を示すのはいつも唯一人。
――この世界でたった一人だけだ。
聯がレインに接する時の、ほんの些細な所作の一つ一つが、一哉の心に小さい棘を残す。
ブラッドに向かって、聯が言う。
「表にGUARDIAN(うち)の軍機を停めさせてもらったよ。こちらとの連絡がつかなかったのでね」
フィクサー登場という最悪の事態を免れた事にとりあえず安堵しつつ、ブラッドが応じる。
「ああ…悪い。ちょっとトラブルがあったもんで。まぁ、この惨状を見れば…大体解るだろ?」
自由闊達(かったつ)な彼らしい、砕けた口調でそう言い、肩を竦めるブラッドに、聯が首肯した。
「そちらの戦闘員(コンバタント)には気の毒だった」
聯はそう言うと周囲を見渡し、真摯な面差しに憂いを含ませる。
「この部屋の惨状はレインの焔によるものだね…彼は?」
「…。電脳スペースでトラップにかかったらしい。恐らく…精神汚染(ウィルス)を受けた」
「精神汚染(ウィルス)?」
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