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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「謙遜すんなよ。さすがは新人類だな」
一哉の胸裏などいざ知らず、ブラッドは、ただ素直に彼女を熱賛する。
沙羅はますます目を白黒させ、必死に弁明する。
「ほ、本当なんだってば。あたし、ほんとは全然…。いつもは自分の風に吹き飛ばされちゃって、前にさえ放てなくて…」
助け舟を出してやろうと、一哉が容喙(ようかい)した。
「そうそう。この間も豪快に転がってたよな。下着丸出しでさ」
助け舟を装った泥船の登場に吃驚した沙羅は、乗船拒否だとばかりに一哉を非難する。
「なッ!? ええッ!? …ひ、人が必死にトレーニングしてんのに…っ。一哉、どこ見てんのッ!?」
一哉は持ち前の斜に構えた冷静さで、淡々と応じる。
「見るも見ねぇも。あんだけ何回も出されると、色気とかそういう次元の話じゃなくなってくるだろ。沙羅さ、もーちょいトレーニングの服装、考えた方がいいぞ」
「あッ…あたしの趣味じゃないし! あれは聯(ルエン)が勝手に…」
「聯は沙羅に、妙な女の子意識を持ってるからな〜。女の子は女の子らしく、みたいな。ま、実の娘同然なんだろうからさ」
「えぇ〜。ヤだ、あんなお父さん」
「レインといい、沙羅といい…。聯って、生意気で聯のこと嫌いなヤツが好きなのかな」
「あたし、生意気じゃないもんっ!」
「…。へぇ?」
二人のやりとりを穏やかな表情で眺めるブラッドの腕中で、レインが寝返りを打った。
静かな寝息、呑気な寝顔。
満身創痍のブラッドとは対照的に、透けるようなレインの白肌には、傷痕一つ残っていない。
俄かに、ドッと疲労感が押し寄せ…。ブラッドは嘆息した。
――レインといい、この二人といい。
――「新人類(ニュー・ヒューマン)」ってのは、何て言うか…
――タフで…マイペース。
「ブラッド」
押し問答の末に結局は頭を下げ、沙羅を宥めるに至った一哉が、ブラッドに歩み寄る。
「ケガ酷そうだけど…平気かよ」
火傷を負ったブラッドの右半身は赤く爛れ、紫色の痣も目立つ。
骨にまで達しているだろう打撲傷を幾つも目に留め、一哉が顔を顰めた。
「そのバカ、もう大丈夫なんだろ? 地面にでも転がしとけよ。怪我人の腕の中でのうのうと寝コケやがって。何が俺と沙羅のお守りだ。こっちはてめぇに殺されかけてんだっつーの」
憤りを隠せない様子の一哉に、ブラッドは微苦笑する。
「ま、まぁまぁ…こいつに代わって、俺が謝るから。悪かったな、藤間」
目が覚めていたとしても、レインが一哉に謝罪するなんて奇跡は、モーゼが海を真っ二つにしようとも起こり得ないだろう。
「ここにも医務室(メディカルルーム)はあるんだろ? 治療した方がいいんじゃねぇの」
本来は敵同士であるとはいえ、背中を預けて戦った相手に対する礼儀としての気遣いを見せる一哉に、ブラッドは微笑を返す。
親しげに「サンキュ」と礼を言い――しかし、徐に首を振る。
「お前達ほど早くはないが、俺も自己再生(オート・ヒーリング)付きなんだ…放っておいても治る。それより今は、衛星へのアクセスが切り離せたかどうかを確認する方が先だ。ここは…」
ブラッドは、レインの攻撃で灰燼(かいじん)に帰したコンピュータ・ルームを一望し、中央に聳え立つメイン・コンピュータに目を向けたが、それは熱で溶解し、もはや原形を留めていなかった。
「もう使えねぇし。…一度軍機に戻ろう。機内からなら、本部にアクセスできる」
一哉は膝を折り、メイン・コンピュータの残骸らしき破片を摘み上げると、冷やかにレインを蔑視する。
「つくづく面倒くせぇ男だな、コイツは」
沙羅はそんな一哉の態度に瞳を瞬かせ、不思議そうに呟く。
「変なの。一哉、さっきまでは『俺ならレインを悲しませるようなことはしない!』みたいな事言ってたくせに。…もしかして、好きなコ苛めちゃう系?」
「んな…!」
ちょっとしたモノ真似までついた、最愛の従姉妹からの痛烈な揶揄(やゆ)に晒され、一哉が赤面する。
我が意を得たりとばかりに、沙羅は飛び跳ねながら言い募る。
「知らなかった。一哉ってレインの事嫌いなのかと思ってたら…好きだったんだ。素直じゃないんだ〜」
一哉としては「心外だ」と、即刻彼女を談じ込めたいところだが、あの時口を吐いて出てしまった発言が慙愧(ざんき)に堪えず、動揺から言葉がつかえ、まるで繕っているようになってしまう。
「さ、さ沙羅ッ、違うぞっ! 誰がこんなヤツッ…」
はしゃいでいた沙羅が、ぴたりと足を止めた。
廊下から、風と共に漂ってくる血臭。
そして、硬く響く人の足音。
戦闘員の死体が無数に横たわっているだろう通路を通り抜け、何者かがこちらへ向かって来る。
「謙遜すんなよ。さすがは新人類だな」
一哉の胸裏などいざ知らず、ブラッドは、ただ素直に彼女を熱賛する。
沙羅はますます目を白黒させ、必死に弁明する。
「ほ、本当なんだってば。あたし、ほんとは全然…。いつもは自分の風に吹き飛ばされちゃって、前にさえ放てなくて…」
助け舟を出してやろうと、一哉が容喙(ようかい)した。
「そうそう。この間も豪快に転がってたよな。下着丸出しでさ」
助け舟を装った泥船の登場に吃驚した沙羅は、乗船拒否だとばかりに一哉を非難する。
「なッ!? ええッ!? …ひ、人が必死にトレーニングしてんのに…っ。一哉、どこ見てんのッ!?」
一哉は持ち前の斜に構えた冷静さで、淡々と応じる。
「見るも見ねぇも。あんだけ何回も出されると、色気とかそういう次元の話じゃなくなってくるだろ。沙羅さ、もーちょいトレーニングの服装、考えた方がいいぞ」
「あッ…あたしの趣味じゃないし! あれは聯(ルエン)が勝手に…」
「聯は沙羅に、妙な女の子意識を持ってるからな〜。女の子は女の子らしく、みたいな。ま、実の娘同然なんだろうからさ」
「えぇ〜。ヤだ、あんなお父さん」
「レインといい、沙羅といい…。聯って、生意気で聯のこと嫌いなヤツが好きなのかな」
「あたし、生意気じゃないもんっ!」
「…。へぇ?」
二人のやりとりを穏やかな表情で眺めるブラッドの腕中で、レインが寝返りを打った。
静かな寝息、呑気な寝顔。
満身創痍のブラッドとは対照的に、透けるようなレインの白肌には、傷痕一つ残っていない。
俄かに、ドッと疲労感が押し寄せ…。ブラッドは嘆息した。
――レインといい、この二人といい。
――「新人類(ニュー・ヒューマン)」ってのは、何て言うか…
――タフで…マイペース。
「ブラッド」
押し問答の末に結局は頭を下げ、沙羅を宥めるに至った一哉が、ブラッドに歩み寄る。
「ケガ酷そうだけど…平気かよ」
火傷を負ったブラッドの右半身は赤く爛れ、紫色の痣も目立つ。
骨にまで達しているだろう打撲傷を幾つも目に留め、一哉が顔を顰めた。
「そのバカ、もう大丈夫なんだろ? 地面にでも転がしとけよ。怪我人の腕の中でのうのうと寝コケやがって。何が俺と沙羅のお守りだ。こっちはてめぇに殺されかけてんだっつーの」
憤りを隠せない様子の一哉に、ブラッドは微苦笑する。
「ま、まぁまぁ…こいつに代わって、俺が謝るから。悪かったな、藤間」
目が覚めていたとしても、レインが一哉に謝罪するなんて奇跡は、モーゼが海を真っ二つにしようとも起こり得ないだろう。
「ここにも医務室(メディカルルーム)はあるんだろ? 治療した方がいいんじゃねぇの」
本来は敵同士であるとはいえ、背中を預けて戦った相手に対する礼儀としての気遣いを見せる一哉に、ブラッドは微笑を返す。
親しげに「サンキュ」と礼を言い――しかし、徐に首を振る。
「お前達ほど早くはないが、俺も自己再生(オート・ヒーリング)付きなんだ…放っておいても治る。それより今は、衛星へのアクセスが切り離せたかどうかを確認する方が先だ。ここは…」
ブラッドは、レインの攻撃で灰燼(かいじん)に帰したコンピュータ・ルームを一望し、中央に聳え立つメイン・コンピュータに目を向けたが、それは熱で溶解し、もはや原形を留めていなかった。
「もう使えねぇし。…一度軍機に戻ろう。機内からなら、本部にアクセスできる」
一哉は膝を折り、メイン・コンピュータの残骸らしき破片を摘み上げると、冷やかにレインを蔑視する。
「つくづく面倒くせぇ男だな、コイツは」
沙羅はそんな一哉の態度に瞳を瞬かせ、不思議そうに呟く。
「変なの。一哉、さっきまでは『俺ならレインを悲しませるようなことはしない!』みたいな事言ってたくせに。…もしかして、好きなコ苛めちゃう系?」
「んな…!」
ちょっとしたモノ真似までついた、最愛の従姉妹からの痛烈な揶揄(やゆ)に晒され、一哉が赤面する。
我が意を得たりとばかりに、沙羅は飛び跳ねながら言い募る。
「知らなかった。一哉ってレインの事嫌いなのかと思ってたら…好きだったんだ。素直じゃないんだ〜」
一哉としては「心外だ」と、即刻彼女を談じ込めたいところだが、あの時口を吐いて出てしまった発言が慙愧(ざんき)に堪えず、動揺から言葉がつかえ、まるで繕っているようになってしまう。
「さ、さ沙羅ッ、違うぞっ! 誰がこんなヤツッ…」
はしゃいでいた沙羅が、ぴたりと足を止めた。
廊下から、風と共に漂ってくる血臭。
そして、硬く響く人の足音。
戦闘員の死体が無数に横たわっているだろう通路を通り抜け、何者かがこちらへ向かって来る。
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