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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
前後不覚に陥るほどの眩暈、頭痛、吐き気――あまりの痛苦に気を失いそうになり、レインが小さく喘いだ。
そのまま地面に崩れ落ち、膝をついて肩を震わせるレインの身体を、焔が覆った。
彼の焔もまた、自発的に彼を護っている。
「ッ…う」
「レイン…!」
一心を込めたブラッドの呼び掛けに、レインが肩を揺らす。
「レイン、お願い! …戻って!」
沙羅が叫ぶと同時に、彼女を中心として爆発的に発せられた風が、コンピュータ・ルームに充満した硝煙と熱を一気に吹き飛ばした。
崩落した壁の隙間から舞い込む、ひんやりと心地いい空気。
――白い光。
沙羅から放たれた光と風は、三人を優しく愛撫し、暗く血腥(ちなまぐさ)い空間を清め、柔らかく照らしていく。
「…! ッ…」
白光を目にしたレインは、黒髪を掻き乱すようにして頭を抱え込んだ。
――何も見えない。
――何も…感じられない。
何者かに奪われ、虚無の中に閉じ込められていた感覚が、徐々にレインの身体に戻ってくる。
光。白い光。
――音…?
誰かの…声?
「レイン!」
この声は知っている。
この声は…。
ずっと、会いたかった。
随分長く感じた。
――早く、手を。
「…ラッ、ド…」
不明瞭な視界には砂嵐のようなノイズが混ざり、ともすれば途切れそうになる。
頭痛と眩暈に苛まれ、上手く言葉が出てこない。
自分自身へのコントロールが利かず、身体は重くて、歩み寄ろうと足掻いても四肢が動かない。
未だ切れぬ糸に束縛され、自分の意思が届かない。
――掴みたい。
早く腕を――伸ばしたいのに。
「…ッ、ブラッド…!」
苛立ちを滲ませたハスキーなレインの声はいつもより掠れて、溜息のように唇から零れ落ちた。
レインの周囲に渦巻いていた焔が、立ち消えた。
両手を地面についたまま動けずにいるレインの頭上に、大きな影が落ちた。
その影の主から滴り落ちる血は円を描き、苦痛に震えるレインの手元に広がる。
意識も視界も朦朧としていて、それが何なのかすら、レインには理解できない。
「…レイン」
ゆっくりと膝をついたブラッドは、優しくレインの肩に触れ、ようやく彼に触れられた事に感極(かんきわ)まったのか、微かに身震いし、そして安堵の溜息をついた。
レインを力強く抱き締め、彼の首元に顔を埋める。
「レイン。俺は…ここにいる」
「……」
血まみれの逞しい腕が、レインのぼやけた視界に映った。
ぎこちなく白い指を動かし、その腕を掴む。
ブラッドの破れた防護服に顔を埋め、レインは小さく息を漏らした。
「…ブラッド…」
か細い声。
しかし、彼の口から漏れたのは、確かにブラッドの名だった。
ブラッドはレインが堪らなく愛おしくなって、乱れた黒髪に、柔らかい頬に、何度もキスを落とす。
レイン特有の甘い香気が、ブラッドの鼻腔を擽(くすぐ)った。
レインを抱く腕に更に力を込め、彼がどれだけ己にとって大切な存在かを再認識する。
こんなにも誰かを想う自分が滑稽だったが、どうしようもなく湧き上がる愛しさは止めようがない。
「…死ぬかと思ったぜ」
――身体より、心が。
――引き裂かれて死にそうだった。
――もう二度と…あんなレインを見るのは御免だ。
前後不覚に陥るほどの眩暈、頭痛、吐き気――あまりの痛苦に気を失いそうになり、レインが小さく喘いだ。
そのまま地面に崩れ落ち、膝をついて肩を震わせるレインの身体を、焔が覆った。
彼の焔もまた、自発的に彼を護っている。
「ッ…う」
「レイン…!」
一心を込めたブラッドの呼び掛けに、レインが肩を揺らす。
「レイン、お願い! …戻って!」
沙羅が叫ぶと同時に、彼女を中心として爆発的に発せられた風が、コンピュータ・ルームに充満した硝煙と熱を一気に吹き飛ばした。
崩落した壁の隙間から舞い込む、ひんやりと心地いい空気。
――白い光。
沙羅から放たれた光と風は、三人を優しく愛撫し、暗く血腥(ちなまぐさ)い空間を清め、柔らかく照らしていく。
「…! ッ…」
白光を目にしたレインは、黒髪を掻き乱すようにして頭を抱え込んだ。
――何も見えない。
――何も…感じられない。
何者かに奪われ、虚無の中に閉じ込められていた感覚が、徐々にレインの身体に戻ってくる。
光。白い光。
――音…?
誰かの…声?
「レイン!」
この声は知っている。
この声は…。
ずっと、会いたかった。
随分長く感じた。
――早く、手を。
「…ラッ、ド…」
不明瞭な視界には砂嵐のようなノイズが混ざり、ともすれば途切れそうになる。
頭痛と眩暈に苛まれ、上手く言葉が出てこない。
自分自身へのコントロールが利かず、身体は重くて、歩み寄ろうと足掻いても四肢が動かない。
未だ切れぬ糸に束縛され、自分の意思が届かない。
――掴みたい。
早く腕を――伸ばしたいのに。
「…ッ、ブラッド…!」
苛立ちを滲ませたハスキーなレインの声はいつもより掠れて、溜息のように唇から零れ落ちた。
レインの周囲に渦巻いていた焔が、立ち消えた。
両手を地面についたまま動けずにいるレインの頭上に、大きな影が落ちた。
その影の主から滴り落ちる血は円を描き、苦痛に震えるレインの手元に広がる。
意識も視界も朦朧としていて、それが何なのかすら、レインには理解できない。
「…レイン」
ゆっくりと膝をついたブラッドは、優しくレインの肩に触れ、ようやく彼に触れられた事に感極(かんきわ)まったのか、微かに身震いし、そして安堵の溜息をついた。
レインを力強く抱き締め、彼の首元に顔を埋める。
「レイン。俺は…ここにいる」
「……」
血まみれの逞しい腕が、レインのぼやけた視界に映った。
ぎこちなく白い指を動かし、その腕を掴む。
ブラッドの破れた防護服に顔を埋め、レインは小さく息を漏らした。
「…ブラッド…」
か細い声。
しかし、彼の口から漏れたのは、確かにブラッドの名だった。
ブラッドはレインが堪らなく愛おしくなって、乱れた黒髪に、柔らかい頬に、何度もキスを落とす。
レイン特有の甘い香気が、ブラッドの鼻腔を擽(くすぐ)った。
レインを抱く腕に更に力を込め、彼がどれだけ己にとって大切な存在かを再認識する。
こんなにも誰かを想う自分が滑稽だったが、どうしようもなく湧き上がる愛しさは止めようがない。
「…死ぬかと思ったぜ」
――身体より、心が。
――引き裂かれて死にそうだった。
――もう二度と…あんなレインを見るのは御免だ。
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