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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
レインが一歩足を踏み出し、それに応じるように、ブラッドも前へ進み出る。
黙したままのレインからは何の感情も読み取れない。
自ら前に進み出た獲物を…ブラッドを視界に映し、まずはそれを狩ることに意識を向けたようだった。
対峙する二人の間に、仮初(かりそめ)の静寂が流れた。
ゆっくりと息を吐きながら、ブラッドは眉間に皺を寄せ、再び瞳を閉じる。
――鼓動が早い…胸が痛い。
――今でも鮮明に覚えてる。
出逢った時はただ、あいつの容姿に目を奪われた。
気がついたら、あいつ以外の何も見えなくなっていた。
男女の恋愛とは違う。
性別がどうだとか、愛がどうだとか…そんな事じゃない。
ただ…
――あいつ以上に大切なものなんて…
――無い。
互いに踏み込み、戦闘の口火が切られた。
始動から攻撃に至るまでのレインのスピードは神速にも等しい。
見切った訳ではなく、本能のままに身体を左へ傾け、ブラッドは彼の焔を躱していた。
レインとの戦闘に於いて、マイナスの思考は死を意味する。
心に僅かな迷いも与えてはならない。
ただ空気を感じ、焦燥を制し、目の前の彼へ全神経を集中させる。
死の局面に立っても尚、虚無の如き精神で向かい合えなければ、恐怖を認識した瞬間に、ブラッドの首は死神の鎌に切り落とされるだろう。
華奢なレインの連撃は大男のそれをも凌ぐ。
身体強化にスピリッツを充(あ)てることで、レインは自身の持つ身体能力を数百倍にまで高める事ができ、そこに焔の追撃も加わる。
スピリッツの許容量(キャパシティ)が尋常ではないレインならではの、大量消費型戦闘スタイル。
だが、彼が天才と呼ばれる所以(ゆえん)は…それだけではない。
奥歯を噛み締めたブラッドは、彼の蹴りを両腕でガードしながら上半身を捩じり、反撃に転ずる。
――手加減は無用だ。
――俺が手加減しようがしまいが、レインは…。
――強い。
「ッ…レイン!」
切願の念を込め名を呼ぶブラッドの姿を、無感情な瞳に映し、爽快な発火音と共に、レインが焔を召喚した。
両腕に巻きついたそれが、唸りを上げながら白肌の上を躍る。
半月形に軌道を描いたブラッドの拳は焔の壁によって阻まれ、放たれた紅蓮から逃れるように、ブラッドが後方に跳ぶ。
焔を何とか躱した瞬間、レインに背後をとられた。
空を切り裂いたレインの右足が、強烈な一撃となってブラッドに迫る。
「っ…!」
鈍い音が室内に響いた。
背中を襲った衝撃で呼吸が止まるが、ブラッドは歯噛みながらも反撃に転じる。
だが、ブラッドの攻撃を阻むように出現した焔の壁がレインを包み、彼を覆い隠してしまう。
主であるレインを、彼の焔はまるで意思を持っているかのように自動的に護る。
戦闘に於いて彼に隙が生じる瞬間は、皆無と言ってもいい。
距離をとって構えたブラッドを焔が襲った。
焔から逃れたブラッドの眼前に現れたレインが、陰惨な笑みをつくる。
猛烈な連撃が繰り出され、防御に徹するブラッドの骨が軋む。
まるで流麗な音楽を奏でるかのように、レインはその音を愉しんでいた。
死の焦燥感が、ブラッドを苛んでいた。
それに負けじと前を見据えるが、撃攘(げきじょう)の術(すべ)は無い。
鮮血が散り、連打に耐えかねた腕の腱が切れた。
顎先を掠めた打撃を何とかやり過ごした瞬間に、別の角度から殴打を喰らう。
恍惚とした表情で、レインが小さく声を漏らした。
「ん…」
快楽を堪え切れない様子で攻撃の手を止め、自らの手で肩を抱くと、ゾクゾクと身を震わせる。
「ふふ…。クク」
肩を震わせ、猛る。
口元に指を当て、濃艶な仕草で大胆に舌を這わせると、返り血のついた人差し指の先端を少しだけ咥え、ブラッドを眇め見る。
正気を逸したレインの、欲望を露にした姿。
それはブラッドにとって、直視するに忍びないものだった。
だが、黒髪を乱し上げ、指を舐めねぶるその様は、見る者の心を惑わせるほどに官能的で禍々しく、彼を「悪魔」と呼ぶに相応しい存在だとすら、ブラッドに錯覚させる。
レインが一歩足を踏み出し、それに応じるように、ブラッドも前へ進み出る。
黙したままのレインからは何の感情も読み取れない。
自ら前に進み出た獲物を…ブラッドを視界に映し、まずはそれを狩ることに意識を向けたようだった。
対峙する二人の間に、仮初(かりそめ)の静寂が流れた。
ゆっくりと息を吐きながら、ブラッドは眉間に皺を寄せ、再び瞳を閉じる。
――鼓動が早い…胸が痛い。
――今でも鮮明に覚えてる。
出逢った時はただ、あいつの容姿に目を奪われた。
気がついたら、あいつ以外の何も見えなくなっていた。
男女の恋愛とは違う。
性別がどうだとか、愛がどうだとか…そんな事じゃない。
ただ…
――あいつ以上に大切なものなんて…
――無い。
互いに踏み込み、戦闘の口火が切られた。
始動から攻撃に至るまでのレインのスピードは神速にも等しい。
見切った訳ではなく、本能のままに身体を左へ傾け、ブラッドは彼の焔を躱していた。
レインとの戦闘に於いて、マイナスの思考は死を意味する。
心に僅かな迷いも与えてはならない。
ただ空気を感じ、焦燥を制し、目の前の彼へ全神経を集中させる。
死の局面に立っても尚、虚無の如き精神で向かい合えなければ、恐怖を認識した瞬間に、ブラッドの首は死神の鎌に切り落とされるだろう。
華奢なレインの連撃は大男のそれをも凌ぐ。
身体強化にスピリッツを充(あ)てることで、レインは自身の持つ身体能力を数百倍にまで高める事ができ、そこに焔の追撃も加わる。
スピリッツの許容量(キャパシティ)が尋常ではないレインならではの、大量消費型戦闘スタイル。
だが、彼が天才と呼ばれる所以(ゆえん)は…それだけではない。
奥歯を噛み締めたブラッドは、彼の蹴りを両腕でガードしながら上半身を捩じり、反撃に転ずる。
――手加減は無用だ。
――俺が手加減しようがしまいが、レインは…。
――強い。
「ッ…レイン!」
切願の念を込め名を呼ぶブラッドの姿を、無感情な瞳に映し、爽快な発火音と共に、レインが焔を召喚した。
両腕に巻きついたそれが、唸りを上げながら白肌の上を躍る。
半月形に軌道を描いたブラッドの拳は焔の壁によって阻まれ、放たれた紅蓮から逃れるように、ブラッドが後方に跳ぶ。
焔を何とか躱した瞬間、レインに背後をとられた。
空を切り裂いたレインの右足が、強烈な一撃となってブラッドに迫る。
「っ…!」
鈍い音が室内に響いた。
背中を襲った衝撃で呼吸が止まるが、ブラッドは歯噛みながらも反撃に転じる。
だが、ブラッドの攻撃を阻むように出現した焔の壁がレインを包み、彼を覆い隠してしまう。
主であるレインを、彼の焔はまるで意思を持っているかのように自動的に護る。
戦闘に於いて彼に隙が生じる瞬間は、皆無と言ってもいい。
距離をとって構えたブラッドを焔が襲った。
焔から逃れたブラッドの眼前に現れたレインが、陰惨な笑みをつくる。
猛烈な連撃が繰り出され、防御に徹するブラッドの骨が軋む。
まるで流麗な音楽を奏でるかのように、レインはその音を愉しんでいた。
死の焦燥感が、ブラッドを苛んでいた。
それに負けじと前を見据えるが、撃攘(げきじょう)の術(すべ)は無い。
鮮血が散り、連打に耐えかねた腕の腱が切れた。
顎先を掠めた打撃を何とかやり過ごした瞬間に、別の角度から殴打を喰らう。
恍惚とした表情で、レインが小さく声を漏らした。
「ん…」
快楽を堪え切れない様子で攻撃の手を止め、自らの手で肩を抱くと、ゾクゾクと身を震わせる。
「ふふ…。クク」
肩を震わせ、猛る。
口元に指を当て、濃艶な仕草で大胆に舌を這わせると、返り血のついた人差し指の先端を少しだけ咥え、ブラッドを眇め見る。
正気を逸したレインの、欲望を露にした姿。
それはブラッドにとって、直視するに忍びないものだった。
だが、黒髪を乱し上げ、指を舐めねぶるその様は、見る者の心を惑わせるほどに官能的で禍々しく、彼を「悪魔」と呼ぶに相応しい存在だとすら、ブラッドに錯覚させる。
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