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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


「……ッ」

一哉の言葉に弾かれたかのように、ブラッドが後方へ跳んだ。
レインから距離をとり、困惑しながらも、とりあえず身構える。

「なんで…」

憂悶の情に心を奪われ、愁苦に顔を歪めながら、ブラッドは呟く。

明らかな脅威の前に立っているというのに、心も身体も、戦闘になど徹せない。

両腕を下げ、静かに佇立している彼が――レインが自分達に殺意を向けているという事実。
それは最早、疑いようがない。

「…レイン」

まるで透明な壁を隔てた向こう側に立っているかのようなレインは、何人の問いかけにも応じない様相だ。

「…レイン!」

それでも手を伸ばそうと名を呼ぶブラッドの声が、室内に虚しく響く。
訴えかけるようにレインを見つめるブラッドは、完全に戦意を喪失している。

対するレインは、敵意と殺意を全身に漲らせ、獲物を前に舌舐めずりする魔物の如き眼光で、二人を縛している。

一哉は舌打ちし、ブラッドへ歩み寄った。

経過や理由はいざ知らず、この状態で戦闘に臨めば凄惨な未来は予測できる。

――いや、予測なんかじゃない。確定だ。
心中でそう言い、一哉は顔を険しくする。

――このまま戦(ヤ)れば、三人共死ぬ。

一哉はブラッドの隣に並ぶと、静かながら強い語調で叱声を飛ばす。

「おい。…戦れねぇとかヌかすなよ。らしくねぇな、怖じ気づいてんのか」

「違う。俺はただ…」

「ふざけんな」

言い逃れは許さないとばかりに眼をつける。

「この期に及んで、あいつの心配してるとか言うなよ。相手を見ろ…レイン(・・・)だぞ。気を抜いたら、間違いなくこっちが瞬殺される。俺達が本気でかかったトコで、どうにかなる相手じゃねぇだろ。…こうなった理由なんざ後だ。今はもう、実力行使しか道はねぇ。違うか、ブラッド」

「……」

未だ後足(しりあし)を踏むブラッドに苛立ち、一哉が言い募る。

「ヤらなきゃヤられる。あんたはそれでいいのか?あいつを信じてんなら、目ぇ逸らすな。俺があんたの立場だったら…あいつが正気に戻った後、悲しむような事だけはしない」

と胸(・・)を突かれ、ブラッドは息を呑んだ。

一哉はそんなブラッドの様子を窺いながら、声のトーンを少し落とすと、今までのきつい口調を一転させ、宥めるように言う。

「殺し合いをしろとは言ってない。何があったんだか知らねぇが、あいつは正気じゃない。そうだろ? レインを戦ってでも止めろって言ってんだ。あんたが今そう決断できなきゃ…後で辛いのは、あいつだ」

一哉の言葉を耳に入れながら、ブラッドは瞑目する。

自分を見つめる時の、面映ゆそうな、いつものレインの表情が、ブラッドの脳裏に浮かんだ。

狂気に支配された今の彼から、自我は感じられない。

内に閉じ込められたレインの痛嘆が聞こえた気がして、ブラッドは堪らずに首を振った。

――あれは、レインじゃない。
見目形は同じでも、彼はそこにはいない。

恐らく、電脳スペースで何かが起こったに違いない…きっと元に戻るはずだ。
そう信じたかった。

二人の背後で、地面に埋もれていたFIXER二体が、ゆっくりと這い上がってくる。

「あんたのボスだろ」

そう言い、一哉がブラッドの肩を叩いた。
ブラッドは失笑を漏らし、瞳を開けると、自嘲気味に呟く。

「お前に諭されるとは…思ってなかったな」

「……。あんたが主力(ホープ)だ。くたばんじゃねぇぞ」

そう言い含め、一哉はオレンジ色の防壁へと目を向ける。
両手を組み、祈るように二人を見つめている沙羅に、一哉は力強く頷いて見せた。

ブラッドが今、レインとの戦闘を拒絶すれば、沙羅を護り切れなくなる…一哉はそう考えていた。

――是が非でも戦ってもらう。
――せめて、沙羅が逃げられる時間だけは稼ぐ。
――沙羅だけは…あいつだけは何としても。
――護る。

「悪いな藤間。そいつらは任せる」

ブラッドは顎先でフィクサーを指し、正面を見据えた。

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