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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「へぇ。けっこう丈夫なんだな」
そう漏らしたブラッドの瞳が、徐々に元の色へ戻っていく。
足元に倒れた一体は全身を痙攣させており、動き出す気配は無い。
二つに分断されたもう一体の下半身は、もはやピクリとも動かず、地面に落下した上半身だけが長い両腕を伸ばし、地を這っていた。
防壁越しにブラッドの圧倒的なスピードと破壊力を目の当たりにした沙羅は、震えを抑えきれないままゴクンと喉を鳴らし、驚嘆を漏らす。
「す、すごい…一撃で…。これが…能力者の戦いなの…?」
一哉は舌打ちし、悔しさの滲んだ表情で頷く。
「そうだ。ナイプの幹部は…特にブラッドは、攻撃力、スピード共にハンパじゃねぇ。あれで半分以下、ヘタすりゃ10%も出してねぇかもな」
「っ…えぇ…?」
両目を大きく見開き、沙羅は愕然とする。
そんな沙羅を見つめ、一哉はシニカルな笑みを浮かべる。
「あの程度なら俺でもできるぜ。ふん、フィクサーってのも大したことねぇな…レインの野郎、俺を下に見過ぎだぜ」
彼が零した言葉は、虚勢ではなかった。
――ただ、これを防壁越しにじゃなくて…ブラッドと同じフィールドに立って、フィクサーと相対して言えりゃ…文句ねぇんだけど。
そう思い、一哉は苦笑する。
新人類という、能力者の中でも更に稀有な存在である一哉には、目で見た情報を素早く吸収し、それを瞬時に習得できるという自負があった。
フィクサーの動きを熟視していた一哉は、既に彼等の行動パターンを読み、彼等を打ち負かす戦略を虎視眈々と練っていた。
しかし、己の立ち位置と現実を思うと嘆息が漏れる…一哉は首を振り、歯痒そうに髪を掻き乱す。
――くそ。
――俺一人だったら、とっくにフィールドに出てるんだ。
――けど…。
沙羅を抱く腕に力を込め、一哉はまた溜息をつく。
一人葛藤する一哉の肩に顎を乗せながら、沙羅はきょとんと首を傾げた。
「一哉?」
「だって。男のメンツより…沙羅のが大事なんだ」
「え?」
何気なく一哉の呟きを耳にしてしまったブラッドが、防壁の中で抱き合う二人を視界に映し、一笑した。
「意外な一面だな…」
一哉には聞こえない程度の声でそう呟きながら、さっさとフィクサーに止(とど)めを刺して終わらせてしまおうと、足を踏み出す。
だが、片腕を振り上げたところで、ブラッドは肩を揺らし…。
ピタリと、動きを止めた。
それは、背筋が凍りつくような殺気を感知した為だった。
フィールドの空気が一気に氷点下にまで下がる。
ブラッドの本能が告げる。
これは――警鐘(ハザード)だ。
「――!!」
言い知れぬ危機感に襲われたブラッドは、咄嗟にフロア内へ意識をめぐらせるが、フィクサー二体以外に敵の気配は感じられない。
――否。
――背後。
――ごく近い場所から、咽返るような殺気を放つもの。
――これは。
「ッ……?」
竦む身体を軋ませながら、ブラッドはゆっくりと後ろを振り返る。
――悪魔の如き漆黒(レジメンタル・オブ・デス)と血の紅焔(ブラッディ・ブレイズ)。
瘴気にも似た紅(あか)い獰猛なスピリッツは、人間を畏縮させ、それだけで相手を絶望に追い込む。
この力(スピリッツ)を、ブラッドはよく知っている。
知っている、けれど。
「彼」の姿を目に留め、凶事への確信を強めたブラッドは、ただ絶句する。
ブラッドの視線の先には、殺意を漲らせ、紅いスピリッツを放出する、レインの姿があった。
「へぇ。けっこう丈夫なんだな」
そう漏らしたブラッドの瞳が、徐々に元の色へ戻っていく。
足元に倒れた一体は全身を痙攣させており、動き出す気配は無い。
二つに分断されたもう一体の下半身は、もはやピクリとも動かず、地面に落下した上半身だけが長い両腕を伸ばし、地を這っていた。
防壁越しにブラッドの圧倒的なスピードと破壊力を目の当たりにした沙羅は、震えを抑えきれないままゴクンと喉を鳴らし、驚嘆を漏らす。
「す、すごい…一撃で…。これが…能力者の戦いなの…?」
一哉は舌打ちし、悔しさの滲んだ表情で頷く。
「そうだ。ナイプの幹部は…特にブラッドは、攻撃力、スピード共にハンパじゃねぇ。あれで半分以下、ヘタすりゃ10%も出してねぇかもな」
「っ…えぇ…?」
両目を大きく見開き、沙羅は愕然とする。
そんな沙羅を見つめ、一哉はシニカルな笑みを浮かべる。
「あの程度なら俺でもできるぜ。ふん、フィクサーってのも大したことねぇな…レインの野郎、俺を下に見過ぎだぜ」
彼が零した言葉は、虚勢ではなかった。
――ただ、これを防壁越しにじゃなくて…ブラッドと同じフィールドに立って、フィクサーと相対して言えりゃ…文句ねぇんだけど。
そう思い、一哉は苦笑する。
新人類という、能力者の中でも更に稀有な存在である一哉には、目で見た情報を素早く吸収し、それを瞬時に習得できるという自負があった。
フィクサーの動きを熟視していた一哉は、既に彼等の行動パターンを読み、彼等を打ち負かす戦略を虎視眈々と練っていた。
しかし、己の立ち位置と現実を思うと嘆息が漏れる…一哉は首を振り、歯痒そうに髪を掻き乱す。
――くそ。
――俺一人だったら、とっくにフィールドに出てるんだ。
――けど…。
沙羅を抱く腕に力を込め、一哉はまた溜息をつく。
一人葛藤する一哉の肩に顎を乗せながら、沙羅はきょとんと首を傾げた。
「一哉?」
「だって。男のメンツより…沙羅のが大事なんだ」
「え?」
何気なく一哉の呟きを耳にしてしまったブラッドが、防壁の中で抱き合う二人を視界に映し、一笑した。
「意外な一面だな…」
一哉には聞こえない程度の声でそう呟きながら、さっさとフィクサーに止(とど)めを刺して終わらせてしまおうと、足を踏み出す。
だが、片腕を振り上げたところで、ブラッドは肩を揺らし…。
ピタリと、動きを止めた。
それは、背筋が凍りつくような殺気を感知した為だった。
フィールドの空気が一気に氷点下にまで下がる。
ブラッドの本能が告げる。
これは――警鐘(ハザード)だ。
「――!!」
言い知れぬ危機感に襲われたブラッドは、咄嗟にフロア内へ意識をめぐらせるが、フィクサー二体以外に敵の気配は感じられない。
――否。
――背後。
――ごく近い場所から、咽返るような殺気を放つもの。
――これは。
「ッ……?」
竦む身体を軋ませながら、ブラッドはゆっくりと後ろを振り返る。
――悪魔の如き漆黒(レジメンタル・オブ・デス)と血の紅焔(ブラッディ・ブレイズ)。
瘴気にも似た紅(あか)い獰猛なスピリッツは、人間を畏縮させ、それだけで相手を絶望に追い込む。
この力(スピリッツ)を、ブラッドはよく知っている。
知っている、けれど。
「彼」の姿を目に留め、凶事への確信を強めたブラッドは、ただ絶句する。
ブラッドの視線の先には、殺意を漲らせ、紅いスピリッツを放出する、レインの姿があった。
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