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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


コンクリートにめり込んだ二体のすぐ近くに下り立つと、興醒めだとでも言うように嘆息し、ラフなブロンドを乱し上げる。

「ったく…。ノーマンの奴、相手を計り違えたな」

そうボヤき、一方的な展開になりそうな戦況に落胆する。
正直なところ、この二体では愉しめない――役不足だった。

――ここにいるのが当初の予定通りアリだったなら、多少の時間稼ぎにはなってただろうが…。

アリは防御に長けた能力者だが、こういった力押しのタイプには弱い。
逆にブラッドは、接近戦に持ち込めるような攻撃型の相手、この二体のような手合いには、まず敗けない。

彼が比較的苦手とする遠距離攻撃型のフィクサーと補助系のフィクサーが対で投入されるものだと、ブラッドは勝手に思い込んでいた(期待していた)のだが、どうやらそれは藪睨(やぶにら)みだったらしい。

紅いフィクサーは軟体化してダメージを吸収するようだが、回復には必ずスピリッツを消費するはずだった。

能力者である限り、人の形を保っていなかろうと、その鉄則は人と変わらない。

続けざまに攻撃を浴び、致命傷を負い続ければ、回復より消費の方が上回り、いずれスピリッツは尽きるだろう。

フィクサーが動けなくなるのは時間の問題だった。

ブラッドはつまらなそうに顔を顰めつつも、発揚を込めて踏み込み、肘を曲げ、拳をつくる。

左腕を少し下げたデトロイト・スタイルで構え、割れたコンクリートの間から未だ這い出せずにいるフィクサーを見据える。

――さて…。
手早くイくか。

防護服から覗くブラッドの右腕に黒い刻印が浮かび上がり、次の瞬間、翠のスピリッツを帯びた手首の部分から、指先の方向に向かって、鈍色の鉤爪(クロウ)が突き出した。

「…え…っ!?」

目を疑うような展開の連続に驚く事しきりな沙羅だったが、ブラッドの身体に起きた驚異的な異変に、またもや吃驚してしまう。

手の甲と同じ位の幅の鉤爪は50センチ程の長さで、人間の心臓であれば一突きで破裂させてしまいそうな強固さを窺わせる。

先端は鋭く、さながら刀匠によって研ぎ澄まされた刃のようにヌラリと光っている。

「獣化(ビースト・アップ)。あいつの能力(スキル)の一つだ」

そう呟いた一哉の声は自若としている。

任務中に、何度か彼の能力を目にする機会があった一哉にとって、目の前で起きた現象は、さして一驚に値するものでもないらしい。

「能力…」

呆然としながらも、沙羅が単語を復誦(ふくしょう)した。

「俺も詳しくは知らねぇけど、あいつは細胞内のレセプターを活性化させて、身体に組み込まれた幾多の生物の遺伝子スイッチを切り替えることが出来るらしい。それで、普段はヒトのカタチを形成しているはずの身体の一部を、一時的に獣化させる…人の事は言えねぇけど、信じらんねぇ体質だよな。…鳥とか雑(ま)ざってたら、羽生えたりして」

「と、飛べるってこと!?」

適当に発した言葉だったにも関わらず、痛々しいほど素直に反応する沙羅を見て、一哉は何だか罪悪感を覚えたらしい。

彼女の頭を撫でると、「いや…。ごめん」 と呟く。

「冗談だよ。あいつがパタパタ空飛んでたら…なんかヤだろ?」

二人の掛け合いを尻目に、ブラッドは狙いを定めるように瞳を細め――その瞳も獣化されているのか、いつもの翠色ではなく、澄んだブルーに変色し、瞳孔は細くなっている――右腕にスピリッツを漲らせると、紅い一体を強(したた)かに打擲(ちょうちゃく)した。

ブラッドの攻撃を躱そうとフィクサーは変形し、身体をうねらせたが、それが完全に形を変えるよりも前に、風を切った鉤爪が歪な胴体へと深く喰い込んだ。

その一撃でフィクサーの身体は分断され、上半身は上空(そら)に、下半身は横手の壁へと叩きつけられる。

白い体液を撒き散らし、ビクビクと痙攣する肉片を視界に映しながらも、ブラッドは既に、背後に迫るもう一体の気配を感知していた。

鉤爪を横ざまに払い、滴る白い体液を振り落とすと、首をめぐらせる事もなく、一気に背後へと爪を突き立てる。

紫のフィクサーには口がなく、悲鳴を上げる事はなかったが、不均衡な身体を激しく震動させ、ブラッドが鉤爪を抜いたと同時に、ドタンと地面へ倒れた。


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