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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


全き力への渇望は、聯だけでなくREDSHEEPの、選ばれし血族(エレオス)の意志でもある。

――あれ(・・)は私のものだ。
ツォン・バイは計らずも、聯の所有物(・・・)に目をつけてしまった。

恐らくはノーマンが「彼」を取り戻そうと画策し、ツォンを誑かしたのだろうが、そんな経緯など、聯にはどうでもよかった。

――彼から自由を奪う事は赦さない。

彼を捕らえ、自由を奪い、自我を失わせ従えることなど容易だった。

――だが、それでは意味がない。

かつて――気が遠くなるほどの昔――光として君臨しながらも、血と混沌をその身に纏い、闇の存在を残忍に凌駕し続けた焔神(フレイラ)。

彼の犯した「大罪」は因果となり、魂は神界から追放された。

そして、彼は再び現れた。

聯にとって、人間という脆弱な器しか持てぬ今の彼を堕としめ、手中に収めるのはあまりにも――哄笑してしまうほどに簡単だった。

哀れで愚かな、美しい焔。

彼が足掻き苦しみ悶える様を――足元に縋りつき屈する姿を想うと、聯の心は狂おしいほどに猛った。

永遠とすら感じられた永い時を経た彼への執着は、憎悪にも等しい。

破壊衝動すら伴う欲求を満たすのに、束縛程度では物足りなかった。

至高からの転落を経ても尚、倣岸不遜な魂。
ただ壊してしまうには、彼はあまりに魅力的すぎる――。

少しずつ壊し、彼の手にする何もかもを奪い尽くす。

正気を失わないように…
大切に扱うと、聯は決めていた。

REDSHEEPの多くの者達が望むように、彼を――レイン・エルをルシファーの器とし、絶対的な力として崇める気など、聯には毛頭ない。

組織に楯突き、野良犬のように死んでいった愚かな亡き父の遺産、GUARDIAN(ガーディアン)。

GAD(ギャド)を父から奪い取ったのは、レインを最も近くから牽制する為だった。

――まだ時は熟していない。
収穫の時期を早められては、折角の愉しみが無くなってしまう。

「李総帥、貴関(ガーディアン)から緊急の報告が入っております」

米陸軍特殊部隊の制式戦闘服を着た若い男が、急告を報せにやって来た。

「ありがとう」

軽く片手を上げて聯が応じると、男は頬を紅潮させる。
聯に声をかけた時から、男の心臓は高鳴り、興奮していた。

本部入口へと向かう聯は悠揚とし、混乱の最中にあっても堂々たる風格と気品を失わない。

高才ながら冷血と呼ばれるレインとは対照的に、聯は温厚篤実であり、柔和な慈善家と評される。

青雲の志をもって軍に入隊した若者達にとって、李聯は最も尊敬すべき軍人であり、目標とも言える存在だ。

彼とこうして対面できる機会はもう訪れないかもしれないと思うと、男は矢も盾もたまらず、横を通り過ぎようとする聯へ顔を向け、勇気を持って微意(びい)を示した。

「先程の会議での御言葉、感服致しました。貴官のような声望高き勇将と、同じ時代で共に戦えることは…我々にとって、何よりの栄誉です」

肩越しに男を顧みた聯が足を止めた。

「中国語か。…とても上手だね」

男の肩に触れ、華のような巧笑(こうしょう)を浮かべる。

「軍は若い君達に支えられている…期待しているよ、グレン准将」

遠ざかる背中にすら見惚れ、立ち尽くしていたグレン准将を、同僚の男達が囲んだ。

「な、名前を…呼ばれた…」

よろけながら壁に背を当て、グレンは大きく息を吸うと、たどたどしく深呼吸を繰り返す。

「一度だけ…まだ尉官だった時分に、お会いした事があったんだ。…まさか、覚えていて下さったなんて」

グレンはそう呟き、同僚達は感嘆を漏らす。

「本当に素晴らしい方だ、ガーディアンの李総帥は」

支配者たる風格があり、気品に満ち、寛厚で義理堅い人物。

それが李聯に対する、一般的な評価だった。

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