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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
能力者は、その能力を使うたびスピリッツと呼ばれるエネルギーを消費する。
使用限度量に個人差はあるが、防壁を二つ張った時点で、普通の能力者なら力尽きてもおかしくない。
だが、防壁の向こうにいるブラッドの様子は、先程までと全く変わっていない。
「スピリッツのキャパシティが尋常じゃねぇ。脳に直接電脳回路を繋ぐような化けモンの部下は、みんなあのレベルだってのかよ…。くそ」
「や、やっぱり普通じゃないんだよね…。レインのあれ」
当然だとばかりに、一哉が大きく頷いた。
「当たり前だろ。あいつ、絶対人間じゃねぇよ。身体の半分くらいナノマシンで出来てんじゃねぇの。いくら能力者って言ったって…何でもアリって訳じゃない」
「あの人は、なんでもアリみたいだけど…」
「だからおかしいんだよ。レインってヤツは色々謎なんだ。得体が知れねぇ。いつか絶対、あいつの謎を暴いて…」
「暴いて?」
言葉に詰まった一哉が、きまり悪そうに顔を背けた。
「何でもねぇよ」
「なぁに? 倒すってこと?」
「……」
――そんな単純な答えじゃない。
沙羅には、一哉がそう言っているように思えた。
一哉は、ガーディアン総帥、李聯(リー・ルエン)が全面的に信頼を置いていると言われるエージェントだ。
沙羅が知らないような非人道的な任務にも関与しているはずで、時折、今のように言葉を濁す事がある。
『李は黒い貴族の末裔…』
ハスキーなレインの声が、沙羅の頭の中で響く。
今回のターゲットであるツォン・バイも黒い貴族と繋がっているのだと、レインは言った。
――黒い貴族…。
沙羅は可惜(あたら)、その名を耳にした事がある程度だ。
古くからヨーロッパを支配してきた彼らが「黒い」と呼ばれる所以(ゆえん)は、彼らが闇工作を駆使して殺人、テロ、悪魔崇拝といった事から、政治、ひいては国をも動かす「黒い」「汚い」事をするからだろう。
フリーメーソンやナイン・シスターズといった、歴史の陰に潜むオカルト信仰組織。
それはただの通説みたいなものだろうと、沙羅は思い做(な)していた。
――もしかしたら、そこに真実への道があるのかもしれない。
沙羅がガーディアンに加入したきっかけは、能力者であるが故に、彼女が他機関に狙われることを心配した一哉の配慮によるものだったが、機縁がそうであったというだけで、沙羅の中には当初から、彼女なりの明確な目的があった。
世界中に広がる戦禍の原因――恐らくは公表されることの無い、真実を知りたい。
それは心の底から平和を願う沙羅の、切なる想いだった。
真実こそが全てを解決できる鍵になり得ると、沙羅はいつも考えていた。
だからこそ、どんなに惨憺たる現実であったとしても目を背けず、酸鼻(さんび)を極める戦場に立ってきたのだ。
――レインは…、どこまで真実に近づいてるんだろう。
沙羅は、椅子に凭れて昏睡している彼に目を注ぐ。
妖艶な横顔。
雪のような白肌のせいか、生気がない人形のようにすら見える。
「一哉は…レインが嫌いなんだね」
独り言ともとれる沙羅の呟きに、一哉が顔を向けた。
片時の沈黙を挟み、嘆息と共に口を開く。
「嫌いだな。だってあいつは…」
言いさし、一哉が俯いた。
「…違うな。だから…」
言葉を選び、換言する。
「聯がレインに執着してるのが気に食わない。俺だってレインと同系の能力者だ。…聯が何であんなにレインに拘るのか…それが理解できない」
「聯が?」
「そうだよ」
一哉が照れ臭そうに頬を掻いた。
「聯は何に対しても結構冷めてるし、なんて言うか…執着とかしないだろ。でもレインに関してだけは違う。まぁ、表面的には仲悪いし、レインは聯を嫌ってるけど…聯はレインを…気に入ってる。それがなんか…気に食わない」
「…。そうなんだ…」
ガーディアンでの任務において一哉が決してミスを犯さない理由は、李聯に迷惑をかけたくないから、彼の信頼を裏切りたくないからだ。
あるエージェントがそう言っていたのを、沙羅は思い出す。
「一哉…」
話しかけようと彼の名を呼んだところで、一哉に腕を引かれた。
「来た」
前のめりになった沙羅を、一哉は両腕でしっかりと抱き締める。
「か、ず…」
「静かにしてろ。あいつらに聞いた通りだ…この気配は普通じゃない」
レインの傍に立っていたブラッドが、一哉と沙羅の方へ歩み寄ってきた。
「動くなよ」
防壁の中で座す二人を見下ろす彼は、鷹揚と紫煙を燻らせている。
能力者は、その能力を使うたびスピリッツと呼ばれるエネルギーを消費する。
使用限度量に個人差はあるが、防壁を二つ張った時点で、普通の能力者なら力尽きてもおかしくない。
だが、防壁の向こうにいるブラッドの様子は、先程までと全く変わっていない。
「スピリッツのキャパシティが尋常じゃねぇ。脳に直接電脳回路を繋ぐような化けモンの部下は、みんなあのレベルだってのかよ…。くそ」
「や、やっぱり普通じゃないんだよね…。レインのあれ」
当然だとばかりに、一哉が大きく頷いた。
「当たり前だろ。あいつ、絶対人間じゃねぇよ。身体の半分くらいナノマシンで出来てんじゃねぇの。いくら能力者って言ったって…何でもアリって訳じゃない」
「あの人は、なんでもアリみたいだけど…」
「だからおかしいんだよ。レインってヤツは色々謎なんだ。得体が知れねぇ。いつか絶対、あいつの謎を暴いて…」
「暴いて?」
言葉に詰まった一哉が、きまり悪そうに顔を背けた。
「何でもねぇよ」
「なぁに? 倒すってこと?」
「……」
――そんな単純な答えじゃない。
沙羅には、一哉がそう言っているように思えた。
一哉は、ガーディアン総帥、李聯(リー・ルエン)が全面的に信頼を置いていると言われるエージェントだ。
沙羅が知らないような非人道的な任務にも関与しているはずで、時折、今のように言葉を濁す事がある。
『李は黒い貴族の末裔…』
ハスキーなレインの声が、沙羅の頭の中で響く。
今回のターゲットであるツォン・バイも黒い貴族と繋がっているのだと、レインは言った。
――黒い貴族…。
沙羅は可惜(あたら)、その名を耳にした事がある程度だ。
古くからヨーロッパを支配してきた彼らが「黒い」と呼ばれる所以(ゆえん)は、彼らが闇工作を駆使して殺人、テロ、悪魔崇拝といった事から、政治、ひいては国をも動かす「黒い」「汚い」事をするからだろう。
フリーメーソンやナイン・シスターズといった、歴史の陰に潜むオカルト信仰組織。
それはただの通説みたいなものだろうと、沙羅は思い做(な)していた。
――もしかしたら、そこに真実への道があるのかもしれない。
沙羅がガーディアンに加入したきっかけは、能力者であるが故に、彼女が他機関に狙われることを心配した一哉の配慮によるものだったが、機縁がそうであったというだけで、沙羅の中には当初から、彼女なりの明確な目的があった。
世界中に広がる戦禍の原因――恐らくは公表されることの無い、真実を知りたい。
それは心の底から平和を願う沙羅の、切なる想いだった。
真実こそが全てを解決できる鍵になり得ると、沙羅はいつも考えていた。
だからこそ、どんなに惨憺たる現実であったとしても目を背けず、酸鼻(さんび)を極める戦場に立ってきたのだ。
――レインは…、どこまで真実に近づいてるんだろう。
沙羅は、椅子に凭れて昏睡している彼に目を注ぐ。
妖艶な横顔。
雪のような白肌のせいか、生気がない人形のようにすら見える。
「一哉は…レインが嫌いなんだね」
独り言ともとれる沙羅の呟きに、一哉が顔を向けた。
片時の沈黙を挟み、嘆息と共に口を開く。
「嫌いだな。だってあいつは…」
言いさし、一哉が俯いた。
「…違うな。だから…」
言葉を選び、換言する。
「聯がレインに執着してるのが気に食わない。俺だってレインと同系の能力者だ。…聯が何であんなにレインに拘るのか…それが理解できない」
「聯が?」
「そうだよ」
一哉が照れ臭そうに頬を掻いた。
「聯は何に対しても結構冷めてるし、なんて言うか…執着とかしないだろ。でもレインに関してだけは違う。まぁ、表面的には仲悪いし、レインは聯を嫌ってるけど…聯はレインを…気に入ってる。それがなんか…気に食わない」
「…。そうなんだ…」
ガーディアンでの任務において一哉が決してミスを犯さない理由は、李聯に迷惑をかけたくないから、彼の信頼を裏切りたくないからだ。
あるエージェントがそう言っていたのを、沙羅は思い出す。
「一哉…」
話しかけようと彼の名を呼んだところで、一哉に腕を引かれた。
「来た」
前のめりになった沙羅を、一哉は両腕でしっかりと抱き締める。
「か、ず…」
「静かにしてろ。あいつらに聞いた通りだ…この気配は普通じゃない」
レインの傍に立っていたブラッドが、一哉と沙羅の方へ歩み寄ってきた。
「動くなよ」
防壁の中で座す二人を見下ろす彼は、鷹揚と紫煙を燻らせている。
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