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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「力量も然ることながら…あいつらグロいんだよな、フォルムが」
豪胆なブラッドですらそう感じるようなモノがこれから現れると思うと、沙羅はもう苦笑するしかない。
「ノーマン博士って、本当にロクでもないみたい…」
そう呟きながら、沙羅はふと、資料に記されていた情報を想起する。
カリフォルニア支部とネバダ支部に所属していたSクラスエージェントは、フーバーダム付近で全滅した。
衛星の攻撃による爆発があったとはいえ、Sクラスほどの能力者ならばその衝撃にも耐えられたはず…日本を発って以来、沙羅は、この悲劇の真相をずっと思索していた。
もしかしたらその時、FIXERと呼ばれる存在が動いていたのかもしれない。
『目に見えないものこそが、本当の脅威と呼べる…』
レインの言葉を反芻し、沙羅はゾクッと背筋を凍らせた。
今までに一体、どれだけの「見えない存在」を看過してきたのだろうと考える。
どれだけのことを知らずに、任務を完了したと思い込んでいたのだろう…。
もしかしたら、今まで目にしていたものは全て真実ではないのかもしれない、などと勘ぐってしまいそうになり、沙羅は小さく溜息をつくと、とりあえず今は目の前の事に集中しようと意識を改める。
「ノーマンはREDSHEEP傘下、バベル研究所のトップだからな。非人道的な実験なんざ、朝メシ食うのと一緒だろうよ」
沙羅の呟きに相槌を打ってから、ブラッドは真剣な表情で二人を見つめた。
「さて…。一度電脳空間にダイブしちまうと、いくらレインでも精神力の消耗が激しい。戻っても、復活するまでは時間を要する。その間俺は、この場とお前達を護り切る。悪いんだが、防壁の中で大人しくしててもらうぞ」
「…気に食わねぇけど」
一哉が沙羅の腕を引いた。
彼女の華奢な肩を抱き寄せ、壁を背に腰を下ろす。
「足手まといだけはゴメンだ。沙羅に万が一があっても困るしな」
「…一哉?」
戦闘に参加せず防壁の中で大人しくしているなんて、一哉は絶対に嫌がるだろうと、沙羅は思い込んでいた。
相手の意向や状況がどうであったとしても、戦力外、足手まといといったような扱いを受ければ、恐らく彼のプライドは傷つけられるだろうし、反発すると考えていたからだ。
――なんか、変だな…。
沙羅と視線を合わせないまま、一哉は目を閉じ、腕を組んだ格好で俯いてしまう。
その心意を質すことも憚られ、沙羅はとりあえずブラッドを見遣ると、異存がないという意思を示すように頷いた。
「冷静だな二人共。…いい判断だ」
ふわりとした浮遊感が、二人を包んだ。
目映い光に、沙羅と一哉は視界を奪われる。
足元から天井へと風が吹き上げた。
地面が無くなってしまったかのような不確かな感覚に不安を覚え、沙羅が無意識に一哉の手を掴むと、一哉は直ぐにその手を握り返してくれた。
「大丈夫だ。すぐ元に戻る」
一哉の言葉通りすぐに風は消失し、沙羅の視界には元のコンピュータ・ルームが映っていた。
オレンジがかった光が四方を囲み、立方体を成して二人を包んでいる。
「スナイパーの連中が使う防壁は、かなり高度なヤツだ。空間をこの世界と一回切り離してから防壁を張ってる。これなら…レインの焔も防げるだろうな」
何気なく、一哉がそう言った。
「き、切り離すって…」
沙羅は目を剥き、食い入るように防壁を凝視する。
レインといい一哉といい、さっきから彼等は「この世界から空間を切り離す」的なことをさも当然のように口にしているが、沙羅はその都度、一驚してしまう。
――それって、物凄いことなんじゃないの?
二人を護る防壁の具合を確かめてから、ブラッドはレインの方へと足を向けた。
歩きながら軍服のポケットに手を入れ、中身のだいぶ減った煙草を取り出す。
「…なんて奴等だ」
驚嘆を込め、一哉が呟いた。
「力量も然ることながら…あいつらグロいんだよな、フォルムが」
豪胆なブラッドですらそう感じるようなモノがこれから現れると思うと、沙羅はもう苦笑するしかない。
「ノーマン博士って、本当にロクでもないみたい…」
そう呟きながら、沙羅はふと、資料に記されていた情報を想起する。
カリフォルニア支部とネバダ支部に所属していたSクラスエージェントは、フーバーダム付近で全滅した。
衛星の攻撃による爆発があったとはいえ、Sクラスほどの能力者ならばその衝撃にも耐えられたはず…日本を発って以来、沙羅は、この悲劇の真相をずっと思索していた。
もしかしたらその時、FIXERと呼ばれる存在が動いていたのかもしれない。
『目に見えないものこそが、本当の脅威と呼べる…』
レインの言葉を反芻し、沙羅はゾクッと背筋を凍らせた。
今までに一体、どれだけの「見えない存在」を看過してきたのだろうと考える。
どれだけのことを知らずに、任務を完了したと思い込んでいたのだろう…。
もしかしたら、今まで目にしていたものは全て真実ではないのかもしれない、などと勘ぐってしまいそうになり、沙羅は小さく溜息をつくと、とりあえず今は目の前の事に集中しようと意識を改める。
「ノーマンはREDSHEEP傘下、バベル研究所のトップだからな。非人道的な実験なんざ、朝メシ食うのと一緒だろうよ」
沙羅の呟きに相槌を打ってから、ブラッドは真剣な表情で二人を見つめた。
「さて…。一度電脳空間にダイブしちまうと、いくらレインでも精神力の消耗が激しい。戻っても、復活するまでは時間を要する。その間俺は、この場とお前達を護り切る。悪いんだが、防壁の中で大人しくしててもらうぞ」
「…気に食わねぇけど」
一哉が沙羅の腕を引いた。
彼女の華奢な肩を抱き寄せ、壁を背に腰を下ろす。
「足手まといだけはゴメンだ。沙羅に万が一があっても困るしな」
「…一哉?」
戦闘に参加せず防壁の中で大人しくしているなんて、一哉は絶対に嫌がるだろうと、沙羅は思い込んでいた。
相手の意向や状況がどうであったとしても、戦力外、足手まといといったような扱いを受ければ、恐らく彼のプライドは傷つけられるだろうし、反発すると考えていたからだ。
――なんか、変だな…。
沙羅と視線を合わせないまま、一哉は目を閉じ、腕を組んだ格好で俯いてしまう。
その心意を質すことも憚られ、沙羅はとりあえずブラッドを見遣ると、異存がないという意思を示すように頷いた。
「冷静だな二人共。…いい判断だ」
ふわりとした浮遊感が、二人を包んだ。
目映い光に、沙羅と一哉は視界を奪われる。
足元から天井へと風が吹き上げた。
地面が無くなってしまったかのような不確かな感覚に不安を覚え、沙羅が無意識に一哉の手を掴むと、一哉は直ぐにその手を握り返してくれた。
「大丈夫だ。すぐ元に戻る」
一哉の言葉通りすぐに風は消失し、沙羅の視界には元のコンピュータ・ルームが映っていた。
オレンジがかった光が四方を囲み、立方体を成して二人を包んでいる。
「スナイパーの連中が使う防壁は、かなり高度なヤツだ。空間をこの世界と一回切り離してから防壁を張ってる。これなら…レインの焔も防げるだろうな」
何気なく、一哉がそう言った。
「き、切り離すって…」
沙羅は目を剥き、食い入るように防壁を凝視する。
レインといい一哉といい、さっきから彼等は「この世界から空間を切り離す」的なことをさも当然のように口にしているが、沙羅はその都度、一驚してしまう。
――それって、物凄いことなんじゃないの?
二人を護る防壁の具合を確かめてから、ブラッドはレインの方へと足を向けた。
歩きながら軍服のポケットに手を入れ、中身のだいぶ減った煙草を取り出す。
「…なんて奴等だ」
驚嘆を込め、一哉が呟いた。
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