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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
自分達が如何にイレギュラーな能力者だとはいえ、そんなことを試みようという発想自体が、沙羅にはない。
黙々と準備を進めるレインは、細長い透明のプラスチック板を額に装着し、ヘッドレストにコードを繋げている。
周囲がどんなに露骨なリアクションを取ろうとも、ワンマン総帥を地で行く彼の目には入らないらしい。
突飛過ぎるレインの発言を耳にしてもブラッドが無反応なところを見ると、スナイパーでは常識ということなのか、はたまた、総帥の暴走を野放しにしているだけなのか…いずれにしても、レインの周囲には、彼の非常識な思考をツッこむ人間はいないのだと、傍目には推察される。
「侵入中の俺は無防備状態だ。十中八九、向こうはこの隙を狙ってくる。ノーマンは恐らくFIXERと呼ばれる、対能力者用に造られた人工的な遺伝子改変種を送り込んでくるはずだ。お前達は自分の身を護る事だけに集中しろ。交戦経験がないお前等では歯が立たん。FIXERはブラッドが片づける」
口を動かしつつ、レインはコンピュータのシステムを整えていく。
スナイパーのコンピュータは他機関と異なり、レインが直接シンクロできるように造られている。
独自のプログラムが搭載されたそれは、まるで彼の意に応えるかのように、驚異的なスピードで連動していく。
「聞いたことないぜ、そんな連中。…本当にいるのかよ」
一哉が疑わしげに呟いた。
調整終了を告げる自動音声が流れる。
顔も向けずにレインが質した。
「李には聞いていたが…本当に知らないのか? 藤間」
そう言いながらレインは目を閉じ、少しだるそうに椅子へ寄りかかる。
アクセスの準備を開始した脳内に、微弱な電流が流れ込んでいる為だ。
フンと鼻を鳴らした一哉が、横柄な態度で応じる。
「てめぇの戯言はうんざりだぜ。さっきの話もだ。上官でもねぇくせに、偉そうに俺に命令しやがって…」
「何を信じるのかは、お前の自由だ」
――真実は一つしかない…残念ながら 。
瞑目したまま、レインは諳んずるかのように言葉を続ける。
「一般的に認識されている醜悪なものより、もっと狡猾で残忍な存在がある。表面的な戦争(ゲーム)に使われないだけで、それは確かに存在する。…目に見えないものこそが、本当の脅威と呼べるものだ」
「それがFIXER(フィクサー)って連中ってわけかよ」
「俺達もその一つだ」
新人類や能力者という、脅威的な存在。
ここにいる4人は全員、自身の意思とは関係なく、このゲームに参加せざるを得ない運命を背負っている。
「俺達が存在するように、FIXERのような特殊部隊も、REDSHEEPのような連中も存在する。ただ、それだけだ…。…ん…」
レインが小さく喘いだ。
パシンと音を立て、青白い電気が白肌を走り抜ける。
「ッ、…」
力を失ったレインの両腕が、椅子の脇に垂れ下がった。
それを待っていたかのように発現したオレンジ色の光がメイン・コンピュータごとレインを包み込み、キン、と甲高い音を立てながら、巨大な四角柱を成す。
ブラッドが、防壁の印を結んだ両手を下げた。
空中に印を結び何らかの効果を放つのは、一般的な特殊能力者(エレメンツ)なら誰でも使用するポピュラーな技能の一つで、基本スキルとも呼ばれる。
彼が今行ったのは「防壁(シールド)」と呼ばれる補助(アド)スキルで、防壁内の対象を外部から遮断し、保護するために使用される。
「防壁(シールド)……」
沙羅が興奮気味にブラッドを見上げた。
「すごい。こんな大きいの…初めて」
羨望の眼差しを向けられ、ブラッドは擽(くすぐ)ったそうに髪を乱し上げる。
「あんまり得意じゃないんだ、防御は」
彼の言葉は謙遜ではなく、本心だった。
ブラッドが防御系のスキルを習得したのはごく最近で、本来は得意とする分野ではない。
「ウチの防御ナンバーワン、アリ・ウィン少佐なら、この建物ごと、もっと強力な防壁を張ることができるぜ。ま、今回は俺が代わりに出てきちまったから。それなりに…な」
一哉がブラッドに歩み寄る。
「ブラッドはレインと同じ、攻撃型(オフェンス)の能力者だもんな」
そう言いながら一哉は防壁を見つめ、それからレインを一瞥する。
「ナイプの幹部は殆ど全員が能力者で、能力の差こそあれ、基本スキルは全員使えるって聞いてたけど…あれ、マジなんだな」
自分達が如何にイレギュラーな能力者だとはいえ、そんなことを試みようという発想自体が、沙羅にはない。
黙々と準備を進めるレインは、細長い透明のプラスチック板を額に装着し、ヘッドレストにコードを繋げている。
周囲がどんなに露骨なリアクションを取ろうとも、ワンマン総帥を地で行く彼の目には入らないらしい。
突飛過ぎるレインの発言を耳にしてもブラッドが無反応なところを見ると、スナイパーでは常識ということなのか、はたまた、総帥の暴走を野放しにしているだけなのか…いずれにしても、レインの周囲には、彼の非常識な思考をツッこむ人間はいないのだと、傍目には推察される。
「侵入中の俺は無防備状態だ。十中八九、向こうはこの隙を狙ってくる。ノーマンは恐らくFIXERと呼ばれる、対能力者用に造られた人工的な遺伝子改変種を送り込んでくるはずだ。お前達は自分の身を護る事だけに集中しろ。交戦経験がないお前等では歯が立たん。FIXERはブラッドが片づける」
口を動かしつつ、レインはコンピュータのシステムを整えていく。
スナイパーのコンピュータは他機関と異なり、レインが直接シンクロできるように造られている。
独自のプログラムが搭載されたそれは、まるで彼の意に応えるかのように、驚異的なスピードで連動していく。
「聞いたことないぜ、そんな連中。…本当にいるのかよ」
一哉が疑わしげに呟いた。
調整終了を告げる自動音声が流れる。
顔も向けずにレインが質した。
「李には聞いていたが…本当に知らないのか? 藤間」
そう言いながらレインは目を閉じ、少しだるそうに椅子へ寄りかかる。
アクセスの準備を開始した脳内に、微弱な電流が流れ込んでいる為だ。
フンと鼻を鳴らした一哉が、横柄な態度で応じる。
「てめぇの戯言はうんざりだぜ。さっきの話もだ。上官でもねぇくせに、偉そうに俺に命令しやがって…」
「何を信じるのかは、お前の自由だ」
――真実は一つしかない…
瞑目したまま、レインは諳んずるかのように言葉を続ける。
「一般的に認識されている醜悪なものより、もっと狡猾で残忍な存在がある。表面的な戦争(ゲーム)に使われないだけで、それは確かに存在する。…目に見えないものこそが、本当の脅威と呼べるものだ」
「それがFIXER(フィクサー)って連中ってわけかよ」
「俺達もその一つだ」
新人類や能力者という、脅威的な存在。
ここにいる4人は全員、自身の意思とは関係なく、このゲームに参加せざるを得ない運命を背負っている。
「俺達が存在するように、FIXERのような特殊部隊も、REDSHEEPのような連中も存在する。ただ、それだけだ…。…ん…」
レインが小さく喘いだ。
パシンと音を立て、青白い電気が白肌を走り抜ける。
「ッ、…」
力を失ったレインの両腕が、椅子の脇に垂れ下がった。
それを待っていたかのように発現したオレンジ色の光がメイン・コンピュータごとレインを包み込み、キン、と甲高い音を立てながら、巨大な四角柱を成す。
ブラッドが、防壁の印を結んだ両手を下げた。
空中に印を結び何らかの効果を放つのは、一般的な特殊能力者(エレメンツ)なら誰でも使用するポピュラーな技能の一つで、基本スキルとも呼ばれる。
彼が今行ったのは「防壁(シールド)」と呼ばれる補助(アド)スキルで、防壁内の対象を外部から遮断し、保護するために使用される。
「防壁(シールド)……」
沙羅が興奮気味にブラッドを見上げた。
「すごい。こんな大きいの…初めて」
羨望の眼差しを向けられ、ブラッドは擽(くすぐ)ったそうに髪を乱し上げる。
「あんまり得意じゃないんだ、防御は」
彼の言葉は謙遜ではなく、本心だった。
ブラッドが防御系のスキルを習得したのはごく最近で、本来は得意とする分野ではない。
「ウチの防御ナンバーワン、アリ・ウィン少佐なら、この建物ごと、もっと強力な防壁を張ることができるぜ。ま、今回は俺が代わりに出てきちまったから。それなりに…な」
一哉がブラッドに歩み寄る。
「ブラッドはレインと同じ、攻撃型(オフェンス)の能力者だもんな」
そう言いながら一哉は防壁を見つめ、それからレインを一瞥する。
「ナイプの幹部は殆ど全員が能力者で、能力の差こそあれ、基本スキルは全員使えるって聞いてたけど…あれ、マジなんだな」
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