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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
元々感情的で、突拍子の無い行動に出る事があるレインだが、今回に限っては事更、その傾向が目立つ――ずっと傍観者的な態度でいたブラッドだったが、さすがにこれ以上の暴走は放置しまいと眼をつける。
当然の理由で面責されたレインはぐうの音も出ないが、それでも気持ちは抑え切れない。
自分でも制御しようのない感情に揺さぶられ、髪を乱し上げ、歯噛み、そして呟く。
「……。解ってる」
「……」
彼の中で起きている葛藤を、ブラッドは理解しているつもりだ。
しかし、そんなものに彼を圧し潰させる 訳にはいかなかった。
彼の身に、心に刻まれた凄惨な記憶(トラウマ)は、彼の奥深くに封じ込められている。
だが、今も確かにレインの中に存在し続ける、過去という名の昏(くら)い波を暴走させれば、理性は決壊し、彼の心は砕かれてしまう…ブラッドはそう思っていた。
何よりも自制が必要だった。
それ以外の手立ては無く、今はただ、こうして彼のストッパーになる事しか出来ない…ブラッドは表情を和らげ、レインの肩をポンと軽く叩いた。
個人的な感情に任せた極言を省みたのか、レインは少し気遣うような視線を沙羅に向け、彼女の様子を窺う。
しかし沙羅は、別の思惑をもって彼に見入っていた。
――違う。
それは、彼女の直感だった。
――この人は…レインは、嘘をついてない。
直情的なレインの言動は、彼が純粋であるが故の不器用さにも思え、完璧に上辺を繕う人間よりも遥かに親近感を抱けると、沙羅は感じていた。
沙羅はレインに微笑みを見せ、自ら彼に話しかける。
「気にしないで」
彼が胸襟(きょうきん)を開いてくれたように、沙羅も至心をもって彼を見つめ、真情を吐露する。
「聯の事…軍事機関とか政府関係の上層部って…あたし、元から…信頼してないの」
「……」
彼女の口上に眉根を寄せ、レインは懐疑的な眼差しを向ける。
欺くか欺かれるかのような駆け引きをし、人の裏を読みながら軍事の世界を生き抜いてきたレインには、相手の中にある真意を量る特性があった。
だが、屈託のない沙羅の笑顔から虚偽は感じられない。
「レインって…素直なんだね。…えっと、へ、変な意味じゃなくて…生意気だったら、ごめんなさい…」
瞠目したレインが、単語を復誦した。
「素直…」
半ば茫然と問いかける。
「…俺が?」
沙羅がこっくり頷いた。
およそ馴染みの無い表現をされたレインは、怪訝な面持ちで髪を掻き上げ、閉口してしまう。
実際はただ困惑しているだけで、気を悪くしたわけではなかったが、こんな時にどんな顔で応じたらいいのかが解らない。
――光。
沙羅の身体を、白い光が包んでいる。
理屈では説明しようのない、第六感とも言うべき彼の感覚が、薄いヴェールのような白光を確かに感取していた。
それはレインが乞い求める「力」に酷似している。
闇を背負う己とは対照的で、羨望さえ覚える光のスピリッツ。
スピリッツとは、能力者のもつ特殊なエネルギーの総称であり、その能力者特有の「命の源」とも換言できる。
指紋と同じように、同色同質のスピリッツは存在せず、個々に独自の色やエネルギーを放っている。
スピリッツを全開にする戦闘時や回復時には、能力をもたない人間の視覚にも映ることがあり、能力者を象徴する超常現象のひとつとされている。
沙羅の放つ純白のスピリッツは神々しく、慈愛に満ちている。
彼女がまるで、柔らかな羽根を持つ天使にさえ思え、レインは陶酔したように沙羅に魅入っていた。
――温かい。
消えてしまった記憶の底を優しく擽(くすぐ)られ、レインは不可解な懐古の念に駆られる。
――懐かしい…?
――どこかで、俺は…この、光を…。
「沙羅。こんなヤツの言う事なんて信じるな」
間に割り入った一哉が、沙羅の肩を抱いた。
「これ以上、沙羅に干渉するな」
肩を揺らし、我に返ったレインが顔を上げた。
敵意を露にした一哉が、二人の間を別(わか)つように隔(へだ)てを投じる。
「あんた達とは今回の仕事っきりなんだ。協力してるとはいえ…俺達は仲間じゃない」
「……」
解りきった事を改めて警告されたレインの口元に、自然と苦笑が滲む。
確かに今の一瞬、彼は放心の態(てい)だった――思っていた以上に煩っているらしい自分が可笑しくなり、レインは自嘲気味に口角を吊り上げる。
元々感情的で、突拍子の無い行動に出る事があるレインだが、今回に限っては事更、その傾向が目立つ――ずっと傍観者的な態度でいたブラッドだったが、さすがにこれ以上の暴走は放置しまいと眼をつける。
当然の理由で面責されたレインはぐうの音も出ないが、それでも気持ちは抑え切れない。
自分でも制御しようのない感情に揺さぶられ、髪を乱し上げ、歯噛み、そして呟く。
「……。解ってる」
「……」
彼の中で起きている葛藤を、ブラッドは理解しているつもりだ。
しかし、そんなものに彼を
彼の身に、心に刻まれた凄惨な記憶(トラウマ)は、彼の奥深くに封じ込められている。
だが、今も確かにレインの中に存在し続ける、過去という名の昏(くら)い波を暴走させれば、理性は決壊し、彼の心は砕かれてしまう…ブラッドはそう思っていた。
何よりも自制が必要だった。
それ以外の手立ては無く、今はただ、こうして彼のストッパーになる事しか出来ない…ブラッドは表情を和らげ、レインの肩をポンと軽く叩いた。
個人的な感情に任せた極言を省みたのか、レインは少し気遣うような視線を沙羅に向け、彼女の様子を窺う。
しかし沙羅は、別の思惑をもって彼に見入っていた。
――違う。
それは、彼女の直感だった。
――この人は…レインは、嘘をついてない。
直情的なレインの言動は、彼が純粋であるが故の不器用さにも思え、完璧に上辺を繕う人間よりも遥かに親近感を抱けると、沙羅は感じていた。
沙羅はレインに微笑みを見せ、自ら彼に話しかける。
「気にしないで」
彼が胸襟(きょうきん)を開いてくれたように、沙羅も至心をもって彼を見つめ、真情を吐露する。
「聯の事…軍事機関とか政府関係の上層部って…あたし、元から…信頼してないの」
「……」
彼女の口上に眉根を寄せ、レインは懐疑的な眼差しを向ける。
欺くか欺かれるかのような駆け引きをし、人の裏を読みながら軍事の世界を生き抜いてきたレインには、相手の中にある真意を量る特性があった。
だが、屈託のない沙羅の笑顔から虚偽は感じられない。
「レインって…素直なんだね。…えっと、へ、変な意味じゃなくて…生意気だったら、ごめんなさい…」
瞠目したレインが、単語を復誦した。
「素直…」
半ば茫然と問いかける。
「…俺が?」
沙羅がこっくり頷いた。
およそ馴染みの無い表現をされたレインは、怪訝な面持ちで髪を掻き上げ、閉口してしまう。
実際はただ困惑しているだけで、気を悪くしたわけではなかったが、こんな時にどんな顔で応じたらいいのかが解らない。
――光。
沙羅の身体を、白い光が包んでいる。
理屈では説明しようのない、第六感とも言うべき彼の感覚が、薄いヴェールのような白光を確かに感取していた。
それはレインが乞い求める「力」に酷似している。
闇を背負う己とは対照的で、羨望さえ覚える光のスピリッツ。
スピリッツとは、能力者のもつ特殊なエネルギーの総称であり、その能力者特有の「命の源」とも換言できる。
指紋と同じように、同色同質のスピリッツは存在せず、個々に独自の色やエネルギーを放っている。
スピリッツを全開にする戦闘時や回復時には、能力をもたない人間の視覚にも映ることがあり、能力者を象徴する超常現象のひとつとされている。
沙羅の放つ純白のスピリッツは神々しく、慈愛に満ちている。
彼女がまるで、柔らかな羽根を持つ天使にさえ思え、レインは陶酔したように沙羅に魅入っていた。
――温かい。
消えてしまった記憶の底を優しく擽(くすぐ)られ、レインは不可解な懐古の念に駆られる。
――懐かしい…?
――どこかで、俺は…この、光を…。
「沙羅。こんなヤツの言う事なんて信じるな」
間に割り入った一哉が、沙羅の肩を抱いた。
「これ以上、沙羅に干渉するな」
肩を揺らし、我に返ったレインが顔を上げた。
敵意を露にした一哉が、二人の間を別(わか)つように隔(へだ)てを投じる。
「あんた達とは今回の仕事っきりなんだ。協力してるとはいえ…俺達は仲間じゃない」
「……」
解りきった事を改めて警告されたレインの口元に、自然と苦笑が滲む。
確かに今の一瞬、彼は放心の態(てい)だった――思っていた以上に煩っているらしい自分が可笑しくなり、レインは自嘲気味に口角を吊り上げる。
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