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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
レインは視界の端に一哉を映し、口を動かしながらも、注意深く彼の様子を窺う。
「本来は陰から動かす力であって、表立つようなことはない。姿を隠し続けることが、組織の定めた唯一の道だ。REDSHEEPの参入儀式(イニシエーション)では、永遠の沈黙、絶対的な忠誠、服従と…脱退者、秘密漏洩者に対する残忍な掟を、自ら唱えさせられると聞いている。今回のように表立った行動をとれば、ツォン・バイは組織的にも謀反者ということになるんだろうな」
事態を全く呑み込めず、手持ち無沙汰に俯いていた沙羅に歩み寄った一哉が、わざとらしく両手を肩まで上げて見せた。
「ふん、下らねぇ。多神教の国(日本)で育った俺らには、全然理解できない。な、沙羅?」
曖昧に微笑んだ沙羅は、遠慮がちに首肯する。
選んだ幾つかのコードを手に、レインが嬌笑した。
「なるほど。…俺も、日本人は理解できないな」
髪が黒く、そんなに彫りの深くない顔立ちであることから、外見はアジア人に近い雰囲気があるレインだが、育った国はもちろん一神教(キリスト)の国アメリカで、気質や話し方、思考はやはり欧米的だ。
レイン自身は無神論者だが、多神教には馴染みがない。
「オカルトというのは本来、人間の生活を枝葉末節(しようまっせつ)に至るまでコントロールする為につくられた、政治経済のシステムを指す…支配思想だな」
レインに直視された沙羅が、反射的に顔を赤らめた。
そんな二人の様子が気に食わず顰め面をした一哉が、苛立ちを含んだ少し低めの声で言う。
「まるで他人事だな。知ってるってことは、あんたも片足突っ込んでるのと同じだろ」
一哉に顔を向けたレインが、失笑しながら首を傾げた。
不快感を示しながらも、その口元には強気な笑みを浮かべている。
「生憎俺は、従うのがきらいだ」
単語を一つずつ離すようにしながら、レインはそう言い放つ。
一哉とレイン、向かい合う二人の距離は、双方の確執によって、実際の長さよりもずっと遠くに感じられる。
互いに察する隔たりの大きさ。
「思想にも人間にも…悪魔にも支配されるつもりはない。特権階級にも興味はないな。本当の支配者というのは、そんな風に望まずとも…全てを総攬(そうらん)できる」
腕を組み、一哉が鼻を鳴らした。
「ふん…。それがあんただって?」
「さぁな。少なくともお前達のボスは、支配することに興味があるようだ」
落ち着かない様子で二人を見つめながらも、遠慮がちに事態を静観していた沙羅だったが、聞き捨てならない発言を耳にしたことで、衝動的に口を挟む。
「聯(ルエン)が? 聯は…その、REDSHEEPのメンバーなの?」
「……」
沙羅に視線だけを遣り、レインが嘆息した。
――李聯。
その名を聞くだけで…胸が悪くなる。
漠然と襲い来る恐怖と苦痛の正体を、レインはまだ知らない。
「あいつはメンバーじゃない」
険を込めた口調でそう言い、沙羅と一哉の方へ歩み寄る。
安堵の息をつく沙羅の正面に立ち、レインは片時、彼女に無言の警鐘を鳴らしていた。
しかし意を決した彼は、俄かに真実を明言する。
「李聯はREDSHEEPの最高位、13血流(エレオス)と呼ばれる黒い貴族の末裔だ。メンバーなんてレベルの男じゃない」
「…え?」
沙羅は愕然とレインを凝視する。
それとは対照的に、一哉は何の反応も示さない。
彼の静寂こそが、REDSHEEPの存在を表していた。
組織の掟は――「沈黙(サイレンス)」。
「李は「信仰される側」の人間だ。強大な李財閥の力は、一般的に有名なロックハート財団をも凌ぐ。善と悪のバランスを主とするグノーシス主義のあいつの善の部分が、お前達の所属するGUARDIAN(ガーディアン)だ。あの男の本来の目的はガーディアンとは180度異なる。REDSHEEPの…エレオスの連中の歪んだ思想は、知るたびに…」
切れ長の瞳に静かな怒りを漲らせ、レインが一哉を睨めつける。
「…虫唾が走る」
「レイン!」
戒めるように名を呼び、ブラッドがレインに歩み寄った。
乱暴な程の勢いでレインの細腕を掴み、諫言(かんげん)する。
「彼等はガーディアンの…李の部下だぞ」
ブラッドの手をもどかしそうに振り払い、一瞬だけ彼を睨んでから、レインが顔を背けた。
レインは視界の端に一哉を映し、口を動かしながらも、注意深く彼の様子を窺う。
「本来は陰から動かす力であって、表立つようなことはない。姿を隠し続けることが、組織の定めた唯一の道だ。REDSHEEPの参入儀式(イニシエーション)では、永遠の沈黙、絶対的な忠誠、服従と…脱退者、秘密漏洩者に対する残忍な掟を、自ら唱えさせられると聞いている。今回のように表立った行動をとれば、ツォン・バイは組織的にも謀反者ということになるんだろうな」
事態を全く呑み込めず、手持ち無沙汰に俯いていた沙羅に歩み寄った一哉が、わざとらしく両手を肩まで上げて見せた。
「ふん、下らねぇ。多神教の国(日本)で育った俺らには、全然理解できない。な、沙羅?」
曖昧に微笑んだ沙羅は、遠慮がちに首肯する。
選んだ幾つかのコードを手に、レインが嬌笑した。
「なるほど。…俺も、日本人は理解できないな」
髪が黒く、そんなに彫りの深くない顔立ちであることから、外見はアジア人に近い雰囲気があるレインだが、育った国はもちろん一神教(キリスト)の国アメリカで、気質や話し方、思考はやはり欧米的だ。
レイン自身は無神論者だが、多神教には馴染みがない。
「オカルトというのは本来、人間の生活を枝葉末節(しようまっせつ)に至るまでコントロールする為につくられた、政治経済のシステムを指す…支配思想だな」
レインに直視された沙羅が、反射的に顔を赤らめた。
そんな二人の様子が気に食わず顰め面をした一哉が、苛立ちを含んだ少し低めの声で言う。
「まるで他人事だな。知ってるってことは、あんたも片足突っ込んでるのと同じだろ」
一哉に顔を向けたレインが、失笑しながら首を傾げた。
不快感を示しながらも、その口元には強気な笑みを浮かべている。
「生憎俺は、従うのがきらいだ」
単語を一つずつ離すようにしながら、レインはそう言い放つ。
一哉とレイン、向かい合う二人の距離は、双方の確執によって、実際の長さよりもずっと遠くに感じられる。
互いに察する隔たりの大きさ。
「思想にも人間にも…悪魔にも支配されるつもりはない。特権階級にも興味はないな。本当の支配者というのは、そんな風に望まずとも…全てを総攬(そうらん)できる」
腕を組み、一哉が鼻を鳴らした。
「ふん…。それがあんただって?」
「さぁな。少なくともお前達のボスは、支配することに興味があるようだ」
落ち着かない様子で二人を見つめながらも、遠慮がちに事態を静観していた沙羅だったが、聞き捨てならない発言を耳にしたことで、衝動的に口を挟む。
「聯(ルエン)が? 聯は…その、REDSHEEPのメンバーなの?」
「……」
沙羅に視線だけを遣り、レインが嘆息した。
――李聯。
その名を聞くだけで…胸が悪くなる。
漠然と襲い来る恐怖と苦痛の正体を、レインはまだ知らない。
「あいつはメンバーじゃない」
険を込めた口調でそう言い、沙羅と一哉の方へ歩み寄る。
安堵の息をつく沙羅の正面に立ち、レインは片時、彼女に無言の警鐘を鳴らしていた。
しかし意を決した彼は、俄かに真実を明言する。
「李聯はREDSHEEPの最高位、13血流(エレオス)と呼ばれる黒い貴族の末裔だ。メンバーなんてレベルの男じゃない」
「…え?」
沙羅は愕然とレインを凝視する。
それとは対照的に、一哉は何の反応も示さない。
彼の静寂こそが、REDSHEEPの存在を表していた。
組織の掟は――「沈黙(サイレンス)」。
「李は「信仰される側」の人間だ。強大な李財閥の力は、一般的に有名なロックハート財団をも凌ぐ。善と悪のバランスを主とするグノーシス主義のあいつの善の部分が、お前達の所属するGUARDIAN(ガーディアン)だ。あの男の本来の目的はガーディアンとは180度異なる。REDSHEEPの…エレオスの連中の歪んだ思想は、知るたびに…」
切れ長の瞳に静かな怒りを漲らせ、レインが一哉を睨めつける。
「…虫唾が走る」
「レイン!」
戒めるように名を呼び、ブラッドがレインに歩み寄った。
乱暴な程の勢いでレインの細腕を掴み、諫言(かんげん)する。
「彼等はガーディアンの…李の部下だぞ」
ブラッドの手をもどかしそうに振り払い、一瞬だけ彼を睨んでから、レインが顔を背けた。
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