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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


ジャングルに生える蔦(つた)の如く天井から垂れ下がった夥(おびただ)しい数の電子コードは、壁や配電盤からも這い出しており、それらは全て、中央に聳え立つ巨大なメイン・コンピュータへと繋がっていた。

軍人のものとは思えないほど華奢なレインの指が、丁寧にそれらを選り分けていく。
何気ない雑務的な所作まで丁寧で美しいのが、何とも彼らしい。

室内中央まで進んだ沙羅は、改めて周囲をぐるりと流し見る。

メインとなる柱状のコンピュータと、そこから突き出すように設えられた椅子、長短様々なコード以外に目につくものは無く、壁は配線や電子パネルで埋め尽くされ、赤や黄色、緑のランプが時折点滅している。

仰いでみても天井は見えず、闇の中でランプが星のように瞬くばかり。
窓は無く薄暗くて、辺りには重苦しい閉塞感が漂っている。

「ナイトメアのbQ、ツォン・バイは、REDSHEEP(レッドシープ)と呼ばれる闇崇拝的組織の一員だ」

淡々としたレインのハスキー・ヴォイスが、ひんやりとした空間に響く。

「ツォン家は代々、REDSHEEPの中軸である「黒い貴族」…ELEOS(エレオス)と呼ばれるメンバーと繋がり、その手足として従属してきた。同じ境遇にあるバベルのノーマンとは、さぞ息が合うだろうな」

何の前触れもない唐突なレインの発言に、沙羅は瞳を瞬かせる。
冗談で言っているのかと彼を窺い見るも、レインは至って平然とした様相だ。

――黒い貴族?
――REDSHEEP、ELEOSって…。
――オカルト?

REDSHEEP――「生贄」もしくは「犠牲」「血の賛歌」の意を持つその名は、沙羅も耳にしたことがある。

この業界で仕事をしている人間なら、一度は耳にすることがある言葉だ。

一般的にも有名な秘密組織、フリーメーソンの奥の院とされるREDSHEEPは、最高階位として魔王ルシファーを崇めている。

いわゆる悪魔崇拝の母体であり、厳しい戒律と階位を定めているらしい。

その中の13の血族、ないしグループ…選ばれたほんの一握りの者達が、ELEOSと呼ばれる存在だ。

人類の繁栄を「憐れむ(エレオス)」とする彼らは、人類全般を「家畜(ストック)」と呼ぶ。
彼らの序列は極めて厳格で、血族は悪魔崇拝を実践している。
そしてその目的は、人類を奴隷支配し、「死の帝王(マスター・オブ・デス)」に捧げること…

という、沙羅にとっては噂の範疇でしかない、都市伝説のようなものだ。

彼らが架空のものではなく、実際に存在すると、レインは言っているのだ。

コンクリートの壁に背を凭れた一哉が、沙羅の疑念を代弁するかのように口を開いた。

「闇崇拝? …悪魔信仰ってやつか。フリーメーソンとか、イシス=オリシスとかっての? ずいぶん胡散臭ぇな」

部屋中に充満した重い電磁波。
ジワジワとした不快感を覚え表情を曇らせる一哉に顔を向け、レインが片眉を上げた。

挑発的で艶っぽいこの表情は、レイン特有のものだ。

「同朋団(ブラザー・フッド)の教えを受けたREDSHEEP系秘密結社のメンバーは、政府や軍関係の上層部では珍しくない…お前もよく知っているはずだ(・・・・・・・・・・・・・)、藤間」

「……」

僅かに首を傾げた一哉が、肩を竦めた。

――お前はよく知っている。
――お前と、李聯(リー・ルエン)は。

レインが言った何でもない返しの中に含まれたその言葉は、一哉にとって忌々しいものでしかない。

しかし、その苛立ちを表に出すことは赦されない。
沈黙は掟であり、絶対の約束事。

――吠えてろよ、レイン。
――何も知らないくせに(・・・・・・・・・)

レインに対する反抗心。それ以外、一哉の表情からは何も読み取れない。
暫く一哉を見咎めていたレインは厭わしそうに顔を背け、胸中で舌打ちする。

――藤間一哉(とうま・かずや)。

地の能力者(アース・マスター)であるとはいえまだ幼く、実力面では到底レインには及ばないが、現在15歳の彼が数年後どれほど強くなるかは、誰にも予想がつかない。

ガーディアン総帥、李聯の最も傍に仕える腹心の一人である彼が、聯の闇について(・・・・・・・)何も知らないはずはないとレインは確信していたが、一哉の口から真意が漏れる事は無く、確証は握れずにいた。

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