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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
思考に耽りながらも、ブラッドは何かを決したように頷き、そして開口する。
「レインは14歳まで、バベルにいたらしいんだ。それからスラムに逃げて来て…俺と出会った」
6年前。
焼死体に囲まれ、血塗れの手を凝然と見つめていたあの少年の事を、ブラッドはよく覚えている。
8月半ば、暑い夏の日。
ブラッドが18歳の誕生日を迎えたその日に――運命のように出逢った。
「逃げてきた、って…」
イギリスにあるバベル研究所は、正式には「行動学研究所」という登録名を持っているのだが、その名とは全くかけ離れた非人道的な研究、実験などが行われているという情報が絶えず、軍事、政治組織との裏関連が噂されている。
戦争や革命、あらゆる歴史のコントロールに欠かせない集団心理的「洗脳」はバベルが全て仕切っているという話も、まことしやかに囁かれている。
「バベルのノーマンは、最低の男だ」
そう言い切ったブラッドの瞳が、見えない敵を威嚇するように鋭くなった。
「あいつがレインに何をしてたかなんて知りたくもないが、今回ばかりは…そうも言っていられない。ツォンの後ろにいるのは、そのノーマンなんだ」
ガーディアンの総帥、李聯は、今回の情報操作やハッキング、各機関の混乱を招くような心理的プレッシャーを計画したのは、バベルのノーマン博士だと断定した。
故にブラッドは、是が非でもレインの傍を離れるわけにはいかないのだ。
「レインはバベルにいた時の記憶が殆どない。何らかの記憶操作がされているのか、何かのはずみで記憶が失われたのかは解らない。たまにその記憶が戻ってきて、一瞬だけ何かを思い出すみたいなんだけどな。そういう時は本当に辛そうで…苦しそうなんだ」
夜中に突然、しがみついてきて。
ひどく脅え、震える彼の姿は、ブラッドしか知らない。
「ノーマンは、レインが再び軍事の世界に出てきてからずっと、あいつを狙ってる。ノーマンはレインを、自分の「所有物(ラット)」だと思ってやがるんだ」
「………」
沙羅が俯く。
「どうして…そんな大切な事、あたしに…」
「俺は、レインをバベルに渡す気はない」
ブラッドの翠の双眸が、真っ直ぐに沙羅を映した。
その真剣さに沙羅はと胸 を突かれ、息を呑む。
「だけど…今回の件に関しては完全に、あいつは冷静さを欠いてる。あのままじゃ心配だ。…俺達の事情に、沙羅ちゃんを巻き込むような形になっちまうのかもしれないんだが…」
少し間を空けてから、ブラッドが言った。
「何でだろうな。…沙羅ちゃんは信用できる…そんな気がするんだ。レインも沙羅ちゃんのこと、一目で気に入っちゃったみたいだし」
「え……」
沙羅はさっきのキスを回想し、その映像をかき消すように慌てて首を振る。
「え、あ…あたしは、べ、別にッ…たた、確かに、その…綺麗な人だなって、お、思ったけど…」
「だろ? 世界一の美人だろ、ウチのボスは」
まるで自分の事のように胸を張り、ブラッドが破顔した。
そんな彼の仕草が可笑しくて、沙羅も顔を綻ばせる。
「ブラッドって、面白い」
「ん? …騙されんなよ、沙羅ちゃん。こう見えて俺は、けっこう非道な男なんだぜ」
「そうなの?」
軍機から顔を出した一哉が、歩き出す素振りすら見せない沙羅とブラッドを見つけ、声を荒げた。
「おい、沙羅! 何してんだっ! てめぇブラッド、沙羅をどうする気だっ」
何とも気の抜けた表情で、二人は一哉に手を振ってみせる。
思考に耽りながらも、ブラッドは何かを決したように頷き、そして開口する。
「レインは14歳まで、バベルにいたらしいんだ。それからスラムに逃げて来て…俺と出会った」
6年前。
焼死体に囲まれ、血塗れの手を凝然と見つめていたあの少年の事を、ブラッドはよく覚えている。
8月半ば、暑い夏の日。
ブラッドが18歳の誕生日を迎えたその日に――運命のように出逢った。
「逃げてきた、って…」
イギリスにあるバベル研究所は、正式には「行動学研究所」という登録名を持っているのだが、その名とは全くかけ離れた非人道的な研究、実験などが行われているという情報が絶えず、軍事、政治組織との裏関連が噂されている。
戦争や革命、あらゆる歴史のコントロールに欠かせない集団心理的「洗脳」はバベルが全て仕切っているという話も、まことしやかに囁かれている。
「バベルのノーマンは、最低の男だ」
そう言い切ったブラッドの瞳が、見えない敵を威嚇するように鋭くなった。
「あいつがレインに何をしてたかなんて知りたくもないが、今回ばかりは…そうも言っていられない。ツォンの後ろにいるのは、そのノーマンなんだ」
ガーディアンの総帥、李聯は、今回の情報操作やハッキング、各機関の混乱を招くような心理的プレッシャーを計画したのは、バベルのノーマン博士だと断定した。
故にブラッドは、是が非でもレインの傍を離れるわけにはいかないのだ。
「レインはバベルにいた時の記憶が殆どない。何らかの記憶操作がされているのか、何かのはずみで記憶が失われたのかは解らない。たまにその記憶が戻ってきて、一瞬だけ何かを思い出すみたいなんだけどな。そういう時は本当に辛そうで…苦しそうなんだ」
夜中に突然、しがみついてきて。
ひどく脅え、震える彼の姿は、ブラッドしか知らない。
「ノーマンは、レインが再び軍事の世界に出てきてからずっと、あいつを狙ってる。ノーマンはレインを、自分の「所有物(ラット)」だと思ってやがるんだ」
「………」
沙羅が俯く。
「どうして…そんな大切な事、あたしに…」
「俺は、レインをバベルに渡す気はない」
ブラッドの翠の双眸が、真っ直ぐに沙羅を映した。
その真剣さに沙羅は
「だけど…今回の件に関しては完全に、あいつは冷静さを欠いてる。あのままじゃ心配だ。…俺達の事情に、沙羅ちゃんを巻き込むような形になっちまうのかもしれないんだが…」
少し間を空けてから、ブラッドが言った。
「何でだろうな。…沙羅ちゃんは信用できる…そんな気がするんだ。レインも沙羅ちゃんのこと、一目で気に入っちゃったみたいだし」
「え……」
沙羅はさっきのキスを回想し、その映像をかき消すように慌てて首を振る。
「え、あ…あたしは、べ、別にッ…たた、確かに、その…綺麗な人だなって、お、思ったけど…」
「だろ? 世界一の美人だろ、ウチのボスは」
まるで自分の事のように胸を張り、ブラッドが破顔した。
そんな彼の仕草が可笑しくて、沙羅も顔を綻ばせる。
「ブラッドって、面白い」
「ん? …騙されんなよ、沙羅ちゃん。こう見えて俺は、けっこう非道な男なんだぜ」
「そうなの?」
軍機から顔を出した一哉が、歩き出す素振りすら見せない沙羅とブラッドを見つけ、声を荒げた。
「おい、沙羅! 何してんだっ! てめぇブラッド、沙羅をどうする気だっ」
何とも気の抜けた表情で、二人は一哉に手を振ってみせる。
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