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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「藤間の過保護ぶりも、結構凄いよな…」
ようやく歩き出したブラッドを追いながら、沙羅が頷く。
「でしょ。なんか一哉って、あたしのお爺ちゃんみたい。あ、えっと、実際にはいないんだけど…いたらあんな感じかなって」
ブラッドが爆笑した。
「お爺ちゃんか。藤間がねぇ…」
「あ、でも…一哉には内緒だよ」
隣に並んだ沙羅を見つめ、ブラッドが瞳を細める。
「可愛いな、沙羅ちゃんは」
「えぇっ?」
再び頬を染めた沙羅が、消え入りそうな声で呟いた。
「…ど、どうも…」
ブラッドの、優しい瞳。
それとは対照的な、冷たく閉ざされたようなレインの紅い瞳を思い出し、沙羅は微かに顔を曇らせた。
レインの事を思うと沙羅の心は騒ぎ、落ち着かなくなった。
――ファーストキスの相手は、あの人かぁ…。
衝撃的だった出来事も、この短時間ですっかり沙羅の意識に溶け、不思議と馴染んでしまっていた。
――なんか…魅力的な人。
カリスマ性があるとは聞いていたけれど、あの引力は、そんな言葉が陳腐に感じるほど凄いと、沙羅は思う。
ブラッドのように、彼を心底敬愛している存在も多いのだろうと、容易に予想がつく。
――あの人とあたしが、同じ新人類だなんて…。
キーンと耳の奥が鳴り、尾骶骨が疼くような浮遊感を覚えながら、沙羅は瞳を閉じる。
離陸した軍機はアメリカ合衆国を離れ、ヨーロッパへと向かう。
ソファに座り俯いているレインへと、沙羅はしきりに顔を向けてしまっていた。
「焔のレイン・エル(ブレイズ・マスター)に、大地の藤間一哉(アース・マスター)。あの問題児二人とご一緒とは。沙羅も大変だね」
落陽に赤く染められた隆盛のオフィスルーム。
コーヒーカップを片手に持った白衣の女性が、面白そうに肩を揺らした。
ドクター・メイズ。17歳。
遺伝子、細胞学の権威であり、若くしてノーベル賞候補者として名が挙がっている、ガーディアンの研究員である。
腰まである長い金髪を後頭部に纏め上げるその仕草が妙に色っぽくて、隆盛は思わず咳払いをした。
豊満な胸と可愛らしい幼顔が魅力的な彼女は、このガーディアンでも数少ない、新人類(ニュー・ヒューマン)研究の第一人者だ。
「どうだろうね…私は心配でならないよ」
落ち着かない様子でソファの周りをウロウロしていた隆盛が、深い溜息をつく。
「あのレインと一緒だなんて…。特に一哉だ。あいつはとにかく、レインと相性が悪くて…」
「不死の細胞、エネルギーの変換」
メイズが、不敵な笑みを浮かべて隆盛を見遣る。
「遺伝子、細胞、脳伝達…あらゆるものに現代医学では有り得ない「欠陥(ディフェクト)」を持つ「新人類(ニュー・ヒューマン)」。体内、または自然界に在る膨大なエネルギーを変換し、別のエネルギーとして放出する事が出来る。ガキの頃、ママが夢中だったスーパーマンよりずっと凄い。ねぇ隆盛。そんなあのコ達をあたしらが心配したところで、どうにもなりゃしない」
メイズが、空になった白磁のカップを持ち上げた。
「だって現代兵器のどれもが、あいつらには通用しないんだ…核だってね」
カップを指で弾く。
「レインの焔は、これを一瞬で溶かす(消す)。一哉の手は、これを一瞬で別の物質に変える。変形させて刃物にすることだって出来るよね。そして、沙羅は…」
メイズが突然、カップから手を放した。
「空気の刃…尋常じゃない風のチカラで、これを砕く」
ヴヴンッ、と、メイズが風の唸る音を真似る。
「っ…おい」
地面に落ちる擦れ擦れでカップはピタリと止まり、宙に浮いたまま静止した。
「…え、ええ!? 」
驚愕を露にする隆盛を横目にしたメイズは眉を吊り上げ、眼鏡をクイと指で押し上げる。
「リュウセイ。…ほら。糸だよ。こんな事で驚くな」
咎めるようなメイズの口調は、明らかに苛ついている。
天才と名高い彼女は気難しく気分屋で、研究者にありがちな、いわゆる「変人」と呼ばれやすい。
「あの三人はね」
少し訛りのある、彼女流の日本語。
「普通の特殊能力者(エレメンツ)…遺伝子混合種(ハイブリット)や遺伝子改変種(ジェネティック)、突然変異(エイ・フリーク・オブ・ネイチャー)とは訳が違う。この研究に携わってる者だったら莫迦でも気づく。あれは人間じゃない」
一哉と沙羅の研究データが入った記録メディアを指で摘み、隆盛の鼻先で揺らしながら、メイズが笑んだ。
「化身さ。悪魔のね(ジィ・インカーネイション・オブ・イーヴル)」
「藤間の過保護ぶりも、結構凄いよな…」
ようやく歩き出したブラッドを追いながら、沙羅が頷く。
「でしょ。なんか一哉って、あたしのお爺ちゃんみたい。あ、えっと、実際にはいないんだけど…いたらあんな感じかなって」
ブラッドが爆笑した。
「お爺ちゃんか。藤間がねぇ…」
「あ、でも…一哉には内緒だよ」
隣に並んだ沙羅を見つめ、ブラッドが瞳を細める。
「可愛いな、沙羅ちゃんは」
「えぇっ?」
再び頬を染めた沙羅が、消え入りそうな声で呟いた。
「…ど、どうも…」
ブラッドの、優しい瞳。
それとは対照的な、冷たく閉ざされたようなレインの紅い瞳を思い出し、沙羅は微かに顔を曇らせた。
レインの事を思うと沙羅の心は騒ぎ、落ち着かなくなった。
――ファーストキスの相手は、あの人かぁ…。
衝撃的だった出来事も、この短時間ですっかり沙羅の意識に溶け、不思議と馴染んでしまっていた。
――なんか…魅力的な人。
カリスマ性があるとは聞いていたけれど、あの引力は、そんな言葉が陳腐に感じるほど凄いと、沙羅は思う。
ブラッドのように、彼を心底敬愛している存在も多いのだろうと、容易に予想がつく。
――あの人とあたしが、同じ新人類だなんて…。
キーンと耳の奥が鳴り、尾骶骨が疼くような浮遊感を覚えながら、沙羅は瞳を閉じる。
離陸した軍機はアメリカ合衆国を離れ、ヨーロッパへと向かう。
ソファに座り俯いているレインへと、沙羅はしきりに顔を向けてしまっていた。
「焔のレイン・エル(ブレイズ・マスター)に、大地の藤間一哉(アース・マスター)。あの問題児二人とご一緒とは。沙羅も大変だね」
落陽に赤く染められた隆盛のオフィスルーム。
コーヒーカップを片手に持った白衣の女性が、面白そうに肩を揺らした。
ドクター・メイズ。17歳。
遺伝子、細胞学の権威であり、若くしてノーベル賞候補者として名が挙がっている、ガーディアンの研究員である。
腰まである長い金髪を後頭部に纏め上げるその仕草が妙に色っぽくて、隆盛は思わず咳払いをした。
豊満な胸と可愛らしい幼顔が魅力的な彼女は、このガーディアンでも数少ない、新人類(ニュー・ヒューマン)研究の第一人者だ。
「どうだろうね…私は心配でならないよ」
落ち着かない様子でソファの周りをウロウロしていた隆盛が、深い溜息をつく。
「あのレインと一緒だなんて…。特に一哉だ。あいつはとにかく、レインと相性が悪くて…」
「不死の細胞、エネルギーの変換」
メイズが、不敵な笑みを浮かべて隆盛を見遣る。
「遺伝子、細胞、脳伝達…あらゆるものに現代医学では有り得ない「欠陥(ディフェクト)」を持つ「新人類(ニュー・ヒューマン)」。体内、または自然界に在る膨大なエネルギーを変換し、別のエネルギーとして放出する事が出来る。ガキの頃、ママが夢中だったスーパーマンよりずっと凄い。ねぇ隆盛。そんなあのコ達をあたしらが心配したところで、どうにもなりゃしない」
メイズが、空になった白磁のカップを持ち上げた。
「だって現代兵器のどれもが、あいつらには通用しないんだ…核だってね」
カップを指で弾く。
「レインの焔は、これを一瞬で溶かす(消す)。一哉の手は、これを一瞬で別の物質に変える。変形させて刃物にすることだって出来るよね。そして、沙羅は…」
メイズが突然、カップから手を放した。
「空気の刃…尋常じゃない風のチカラで、これを砕く」
ヴヴンッ、と、メイズが風の唸る音を真似る。
「っ…おい」
地面に落ちる擦れ擦れでカップはピタリと止まり、宙に浮いたまま静止した。
「…え、ええ!? 」
驚愕を露にする隆盛を横目にしたメイズは眉を吊り上げ、眼鏡をクイと指で押し上げる。
「リュウセイ。…ほら。糸だよ。こんな事で驚くな」
咎めるようなメイズの口調は、明らかに苛ついている。
天才と名高い彼女は気難しく気分屋で、研究者にありがちな、いわゆる「変人」と呼ばれやすい。
「あの三人はね」
少し訛りのある、彼女流の日本語。
「普通の特殊能力者(エレメンツ)…遺伝子混合種(ハイブリット)や遺伝子改変種(ジェネティック)、突然変異(エイ・フリーク・オブ・ネイチャー)とは訳が違う。この研究に携わってる者だったら莫迦でも気づく。あれは人間じゃない」
一哉と沙羅の研究データが入った記録メディアを指で摘み、隆盛の鼻先で揺らしながら、メイズが笑んだ。
「化身さ。悪魔のね(ジィ・インカーネイション・オブ・イーヴル)」
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