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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
そんなブラッドの胸中を慮(おもんぱか)らないレインは、いつもと変わらぬ不遜な態度で、一哉に高言する。
「お前もプロなら、自分の立場を理解しろ、藤間。核や生物兵器なんかより、貴様の個体情報一つの方が重要なんだ。…俺達には、現代兵器の何もかもが通用しないんだからな」
「……」
一哉は閉口し、反抗的な態度でレインを見据えている。
そして、そんな険悪な空気の中にありながらも…ブラッドは再びレインの腰に腕を回し、身体を寄せていた。
周囲の風に無頓着な上、事ある毎に身体に触れてくるのはブラッドの習癖だが、レインにとって、この場に於いては非常に好ましくない。
注意したところで無駄だとは思いつつも、レインは大袈裟に溜息をついて見せ、小さく身じろいで、ブラッドに一応の抵抗を示す。
「……。放せ」
「俺には、連中の狙いは絞られてるように思えるんだけどな」
その言葉に素直に反応し、肩を揺らしたレインの耳元に、ブラッドが唇を寄せた。
「だから俺が来たんだぜ。…お前も解ってんだろ、レイン」
露骨にヤらしい口調。
「っ…! そんなに耳元で言わなくても聞こえる!」
ブラッドの手を払い、彼の顔を押し退ける。
「状況を読め。…ッ、何考えてるんだお前は…」
第三者の手前、総帥たる体裁を崩すまいと、レインは襟元を正し、一つ咳払いをした。
「無駄な心配だ…俺に万が一などない」
「へぇ。…これも李から聞いたぜ、レイン。バベル研究所のノーマン博士も、今回ツォンについてるらしいじゃねぇか」
「!」
予想外の切り返しに動揺を表出したレインが、逃げるように瞳を逸らした。
――今の言葉。
――ただの、言葉…。
――古い傷にほんの少しだけ、軽く触れただけなのに。
――こんなに動揺するなんて。
白い記憶。
何も無いはずの白い空間から感じる痛みが、苦い味を含んで、レインの胸の奥に広がる。
ブラッドの指が、レインの髪に触れた。
内に向いていた意識を呼び戻され、レインはハッとしたように身体を揺らす。
「ッ…」
ブラッドの手を鋭く弾き、レインは一歩、彼から遠ざかった。
「…触るな」
「本当なら、お前には本部で大人しくしててほしいんだ」
しかしブラッドは急に真摯(しんし)な態度を見せ、レインに胸間を打ち明ける。
「これでも…本気で心配してるんだぜ。俺が心配なのは…第一に、お前だ」
瞠目し、ブラッドを凝視したレインは、ぎこちなく顔を背けると、また数歩後ずさってしまう。
――今日のブラッドはおかしい。
――どうして、こんなに…。
赤くなった頬を隠すように片手を当てながらも、とりあえずは平静を保つことに精神を集中させ、いつも通りの強気な口調で切り返す。
「下らん。そんなのは女に言え。俺は…」
まだ言い切らない内に歩き出す。
「俺は任務を遂行するだけだ。二人共行くぞ、乗れ」
そう言い放ち、一人軍機へと向かうレインの背後で、沙羅と一哉が顔を見合わせた。
彼らの内情も現状も、把握しきれてはいないものの…。
「とにかく…ついてくしかなさそうだね…」
「ち…気に喰わねぇな…」
なにが乗れだ、偉そうに…などとボヤきつつ、一哉も軍機に向かい始める。
先を歩いていたレインは既に機内に乗り込み、搭乗口には護衛の戦闘員達の姿があるだけだったが、彼の背中を見つめていたブラッドは未だ、その場でじっと立ち尽くしている。
そんなブラッドの胸中を慮(おもんぱか)らないレインは、いつもと変わらぬ不遜な態度で、一哉に高言する。
「お前もプロなら、自分の立場を理解しろ、藤間。核や生物兵器なんかより、貴様の個体情報一つの方が重要なんだ。…俺達には、現代兵器の何もかもが通用しないんだからな」
「……」
一哉は閉口し、反抗的な態度でレインを見据えている。
そして、そんな険悪な空気の中にありながらも…ブラッドは再びレインの腰に腕を回し、身体を寄せていた。
周囲の風に無頓着な上、事ある毎に身体に触れてくるのはブラッドの習癖だが、レインにとって、この場に於いては非常に好ましくない。
注意したところで無駄だとは思いつつも、レインは大袈裟に溜息をついて見せ、小さく身じろいで、ブラッドに一応の抵抗を示す。
「……。放せ」
「俺には、連中の狙いは絞られてるように思えるんだけどな」
その言葉に素直に反応し、肩を揺らしたレインの耳元に、ブラッドが唇を寄せた。
「だから俺が来たんだぜ。…お前も解ってんだろ、レイン」
露骨にヤらしい口調。
「っ…! そんなに耳元で言わなくても聞こえる!」
ブラッドの手を払い、彼の顔を押し退ける。
「状況を読め。…ッ、何考えてるんだお前は…」
第三者の手前、総帥たる体裁を崩すまいと、レインは襟元を正し、一つ咳払いをした。
「無駄な心配だ…俺に万が一などない」
「へぇ。…これも李から聞いたぜ、レイン。バベル研究所のノーマン博士も、今回ツォンについてるらしいじゃねぇか」
「!」
予想外の切り返しに動揺を表出したレインが、逃げるように瞳を逸らした。
――今の言葉。
――ただの、言葉…。
――古い傷にほんの少しだけ、軽く触れただけなのに。
――こんなに動揺するなんて。
白い記憶。
何も無いはずの白い空間から感じる痛みが、苦い味を含んで、レインの胸の奥に広がる。
ブラッドの指が、レインの髪に触れた。
内に向いていた意識を呼び戻され、レインはハッとしたように身体を揺らす。
「ッ…」
ブラッドの手を鋭く弾き、レインは一歩、彼から遠ざかった。
「…触るな」
「本当なら、お前には本部で大人しくしててほしいんだ」
しかしブラッドは急に真摯(しんし)な態度を見せ、レインに胸間を打ち明ける。
「これでも…本気で心配してるんだぜ。俺が心配なのは…第一に、お前だ」
瞠目し、ブラッドを凝視したレインは、ぎこちなく顔を背けると、また数歩後ずさってしまう。
――今日のブラッドはおかしい。
――どうして、こんなに…。
赤くなった頬を隠すように片手を当てながらも、とりあえずは平静を保つことに精神を集中させ、いつも通りの強気な口調で切り返す。
「下らん。そんなのは女に言え。俺は…」
まだ言い切らない内に歩き出す。
「俺は任務を遂行するだけだ。二人共行くぞ、乗れ」
そう言い放ち、一人軍機へと向かうレインの背後で、沙羅と一哉が顔を見合わせた。
彼らの内情も現状も、把握しきれてはいないものの…。
「とにかく…ついてくしかなさそうだね…」
「ち…気に喰わねぇな…」
なにが乗れだ、偉そうに…などとボヤきつつ、一哉も軍機に向かい始める。
先を歩いていたレインは既に機内に乗り込み、搭乗口には護衛の戦闘員達の姿があるだけだったが、彼の背中を見つめていたブラッドは未だ、その場でじっと立ち尽くしている。
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