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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「…要らない。……。アリの方が…動きやすい」
しかし、そんなレインの口から発せられた声は、何とも弱々しいものだった。
顔を背けたまま微動だにもしないレインの横顔を暫く眺めていたブラッドは、髪を乱し上げると、両手でそっと彼の肩を掴んだ。
ブラッドの双眸を視界の端に捉えたレインは、静かながらも怒気を含んだその瞳に気付き、微かに唇を噛むと、逃げるように俯いてしまう。
素直すぎるレインの反応に、とある確信を抱いたブラッドは、自分がここに来た理由を、やや低めのトーンで述懐する。
「事情は李総帥から聞いた。全部だ 。…お前がまさか、俺に隠し事とはね…。今回ばかりは…黙認するわけにはいかないな」
「…!」
苦い怒りが胸に込み上げ、レインは思わず顔を上げる。
――李…。
――余計な事を…!
言葉に詰まり、しばし黙していたレインだったが、とりあえず何か言おうと開口し、ごく小さな声を発する。
「それは…。…隠していた…訳じゃない」
動揺を悟られまいと再び目を逸らすが、相手が相手なだけに調子のいい詭弁(きべん)が思い浮かばず、言葉を繋ぐ事が出来ない。
今回の事件に関して、レインは最も重要な「核」とも言える部分をブラッドに伝えず、真相から彼を遠ざけようとした。それは事実だった。
情報が錯綜し、混乱する上層部にブラッドを置き、現場から隔てようと企図した。
だが、それには勿論理由がある――沈黙に耐えかねたレインは溜息を漏らすと、それと同時にポツリと呟く。
「話さなくてもいいと思っただけだ。これは…俺の問題だから」
彼らしくもない、意志薄弱とした苦し紛れの弁解に、ブラッドは思わず失笑する。
登場から今に至るまでのブラッドの態度からして、彼が怒っているという事を、レインは理解しているはずだった。
それが解っているだけに顔を上げる事すら出来ず、うまく言い逃れる事も出来ないでいる――彼らしい不器用な反応は何とも素直で、ブラッドには心底可愛らしく感じられたが、それでも、今回のレインの行動だけは懲戒しなくてはならない。
ブラッドは胸中で襟を正し、努めて冷たい素振りを決め込むと、レインから素気無く顔を背けた。
「…そうか」
ごく短い、ブラッドの返答。
それがまるで突き放されたようにも感じられただろうレインは、案の定、弾かれたように顔を上げると、小さな嘆息を漏らし、また俯いてしまう。
腕を組み、憮然と佇立しているレインは、傍目には不機嫌そのもので、怒っているようにしか見えないだろう。
心配そうに事態を見守っているSA達には、少なくともそう見えているはずだ。
だがブラッドは、意地っ張りで人一倍プライドの高いレインが、謝罪と感謝の出来ない性格なのだということを知っていた。
こうして黙り込んでいる時の彼は狼狽し、そして葛藤しているはずだ――ブラッドは肩を竦めると、嘆息混じりに髪を乱し上げた。
「…要らない。……。アリの方が…動きやすい」
しかし、そんなレインの口から発せられた声は、何とも弱々しいものだった。
顔を背けたまま微動だにもしないレインの横顔を暫く眺めていたブラッドは、髪を乱し上げると、両手でそっと彼の肩を掴んだ。
ブラッドの双眸を視界の端に捉えたレインは、静かながらも怒気を含んだその瞳に気付き、微かに唇を噛むと、逃げるように俯いてしまう。
素直すぎるレインの反応に、とある確信を抱いたブラッドは、自分がここに来た理由を、やや低めのトーンで述懐する。
「事情は李総帥から聞いた。
「…!」
苦い怒りが胸に込み上げ、レインは思わず顔を上げる。
――李…。
――余計な事を…!
言葉に詰まり、しばし黙していたレインだったが、とりあえず何か言おうと開口し、ごく小さな声を発する。
「それは…。…隠していた…訳じゃない」
動揺を悟られまいと再び目を逸らすが、相手が相手なだけに調子のいい詭弁(きべん)が思い浮かばず、言葉を繋ぐ事が出来ない。
今回の事件に関して、レインは最も重要な「核」とも言える部分をブラッドに伝えず、真相から彼を遠ざけようとした。それは事実だった。
情報が錯綜し、混乱する上層部にブラッドを置き、現場から隔てようと企図した。
だが、それには勿論理由がある――沈黙に耐えかねたレインは溜息を漏らすと、それと同時にポツリと呟く。
「話さなくてもいいと思っただけだ。これは…俺の問題だから」
彼らしくもない、意志薄弱とした苦し紛れの弁解に、ブラッドは思わず失笑する。
登場から今に至るまでのブラッドの態度からして、彼が怒っているという事を、レインは理解しているはずだった。
それが解っているだけに顔を上げる事すら出来ず、うまく言い逃れる事も出来ないでいる――彼らしい不器用な反応は何とも素直で、ブラッドには心底可愛らしく感じられたが、それでも、今回のレインの行動だけは懲戒しなくてはならない。
ブラッドは胸中で襟を正し、努めて冷たい素振りを決め込むと、レインから素気無く顔を背けた。
「…そうか」
ごく短い、ブラッドの返答。
それがまるで突き放されたようにも感じられただろうレインは、案の定、弾かれたように顔を上げると、小さな嘆息を漏らし、また俯いてしまう。
腕を組み、憮然と佇立しているレインは、傍目には不機嫌そのもので、怒っているようにしか見えないだろう。
心配そうに事態を見守っているSA達には、少なくともそう見えているはずだ。
だがブラッドは、意地っ張りで人一倍プライドの高いレインが、謝罪と感謝の出来ない性格なのだということを知っていた。
こうして黙り込んでいる時の彼は狼狽し、そして葛藤しているはずだ――ブラッドは肩を竦めると、嘆息混じりに髪を乱し上げた。
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