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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結


「は、初めまして…。樹沙羅です。えっと。…」

緊張で唇が乾き、潤いを失った喉から発せられる声は掠れている。
すぐに言葉に詰まってしまい、押し潰されそうなプレッシャーに耐えかねた沙羅は、ついに彼から顔を背け、横を向いてしまった。

「樹沙羅…お前は知っている」

不意に名を呼ばれた沙羅は、反射的にレインを見上げる。
足元に落とした煙草を、レインが無造作に踏み潰した。

「ガーディアンご自慢の、俺と同系の能力者(エレメンツ)だ」

畏縮し、顔を強張らせながら、沙羅が頭(かぶり)を振った。

「ど、同系なんて。…あたし、全然」

「それは何だ」

「…。え?」

突然レインに腕を掴まれ、沙羅は息を呑む。
一哉が何か叫んでいるが、沙羅の耳にその声は届かない。

刹那的な恐怖に襲われた沙羅はギュッと目を閉じ、死の戦慄に身を凍らせる。
沙羅の長い髪が揺れ、それに触れたレインの指が、ゆっくりと頬へ流れた。

「…?」

硬く閉じていた瞼を少しだけ開けた沙羅の瞳に、紅(あか)い光彩が差した。

唇が触れ合いそうな位置にレインの吐息を感じ、大きく目を見開いた沙羅は、濃艶な彼に魅入られ、ただ息を呑む。

「お前が纏う…光。それは何だ」

眩しそうに双眸を細め、レインは沙羅を注視している。

動悸を隠すように胸元を押さえながら、沙羅はぼんやりと単語を復誦した。

「光…?」

「そうだ。そんなものは…見たことがない。お前は…俺や藤間とは違う」

甘くハスキーなレインの声は、音として耳には入ってくるものの、どうにも頭に入ってこない。
困惑しながらも、沙羅は必死に口を開く。

「わ、解りません…。えっと…」

「欲しいな」

レインがそう、耳元で囁いた。

「お前かもしれない…俺の求めていたものは」

「ッ…?」

柔らかいものが沙羅の唇を覆い、そして離れた。
あまりの心地良さに瞳を閉じかけたが、沙羅はハッと肩を震わせる。

――今…今のって。
――く、口と口が…。

「…!」

驚愕で声が出ず、沙羅は口だけをパクパクと動かす。

――今、あたし、この人と…!?

制止しようとする戦闘員を押し退け、一哉がレインに詰め寄った。

「な、何した今っ!」

「喚(わめ)くな。…ただの挨拶だ」

平然としたレインの言葉を聞き、沙羅は、たった今自分の身に起きた椿事(ちんじ)への確信を強めていた。

――あたし、今、この人と…。
――この人、あたしに。

……キスした。

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