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SCENE SECTION

01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結




――半世紀前。

テロリストによる生物兵器の使用から起こったウィルス・クライシスによって未曾有(みぞう)の人口激減を経験した世界は、その責任の所在をなすりつけ合い、泥沼化した国際関係から、新たな世界大戦へと発展した。

その結果が現在である。

放射能やウィルスの汚染により、細胞欠損や遺伝子変異、特殊変異を起こす乳児が続出。
そうした中から、遺伝子、細胞レベルの欠陥(ディフェクト)により、常人には見られない特殊な能力を発生した者――特殊能力者(エレメンツ)と呼ばれる特異体質が、稀に発見されるようになった。

彼らの能力発生は様々で、あらゆるケースに及ぶ。

世界で500例程度の発生報告がある特殊能力者の中でも、更に稀少なものが三例ある。

不死の細胞(キュア・セル)を持つその三人は、自己回復とエネルギー変換といった、もはや現代医学では説明不可能な能力を幾つも、限りなく――個体差さえ見せて併せ持っている。

まるで「人外」から来たような脅威の存在。

遺伝子、細胞学の権威は畏怖の念を込め、彼らをこう呼んだ。


「新人類(ニュー・ヒューマン)」
――彼らは全くの未知である。






「あぁ…」

沙羅の前に置かれた、ピンクの小花模様の包み紙。
緑の文字で個々に書かれた表書きは三種類。

Sweet・Milk・Bitter。

沙羅は両手を合わせ、うっとりと机の上を眺めていた。

「美味しそう…」

一哉は、恍惚とする沙羅をよそ目にしながら山積みになったミルフィーユに手を伸ばし、その中から各味一本ずつ、合計三本を掴んで沙羅の前に置いた。

淹れられたばかりの紅茶の湯気が一哉の腕に絡み、ふんわりと縮れる。

「三つにしときなさい」

「ええ――ッ」

一哉は、ピラミッド型に積まれていたミルフィーユを手早く箱に戻し始める。

「ほっとくと、沙羅は全部食べちゃうからな」

これだけ盛大な量を一人で今食べきるなんて常識では考えにくいのだが、彼女ならケロリとやってのける。

それを一哉は知っていた。

「どうしてー。あたし太んないよ?」

沙羅は華奢な体型で、女性にしては丸みの少ない、まるで少年のような体つきをしている。

だが彼女は、成長期という言葉だけでは片づけられない、超がつくぐらいの大食で、甘いものには特に目がない。
食べ物に関してブレーキが無いのだ。

「あのなぁ…。沙羅、今はいいよ。でも年取ったら…マジで太るぞ」

俺はそんな沙羅は見たくない、と一哉が続けたところで、一人の中年男性が入室してきた。

来客用の四角いテーブルを挟み、対面するかたちで羊皮のソファに腰掛けている二人の顔を交互に見つめ、男は破顔する。

「沙羅、一哉。二人共、今日も元気だな」

イタリア製の上質な生地を使ったチャコールグレイのスーツは彼用に仕立てられたものだが、ふくよかなお腹が張り出していて窮屈そうに見える。

少し心許ない黒髪、人の良さそうな笑顔。

ガーディアン東京支部の支部長、赤井隆盛(あかい・りゅうせい)は、沙羅と一哉が最もよく接する上司であり、歳の離れた理解ある友人でもある。

ミルフィーユの箱を抱き締めた一哉と、それを奪還しようと両腕を伸ばした沙羅。

隆盛が二人の間にあたる、いわゆる誕生日席に腰掛けたのをきっかけに、沙羅は不満げな表情のまま、仕方なく両腕を下ろした。

淑(しと)やかに居住まいを正し、一番のお気に入りであるMilkの包みを破る。

「一週間前に帰国したばかりだというのに、またすぐで…すまないね」

隆盛はそう言い、ホチキスで留められた資料を一部ずつ、沙羅と一哉に渡す。

「いいよ全然。隆さんには世話になってるし」

「お菓子もらったし」

二人は受け取りがてら隆盛と目を合わせ、微笑む。

隆盛はしっかりとした眉を申し訳なさそうに下げると、持つ物の無くなった両手を膝の上で組んだ。


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