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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
学校から一番近い鎌倉駅は、下校する成和女学園の生徒で溢れていた。
「用事があるから」と妙子達と駅前で別れた沙羅は、鎌倉駅から北鎌倉寄りに30分程歩いた場所にある建長寺の前で、がっくりと肩を落としていた。
「…はぁ」
つくづく、自分が厭になる。
学園生活に馴染み、もっと自分らしく振舞いたいと思えば思うほど、空回りしてしまう。
家族の話、流行りのドラマや芸能人の話、恋愛や部活の話。
そんな他愛もない会話を耳にする度、戸惑ってしまう自分がいた。
皆と仲良くなりたくて、それとなく話を合わせながら過ごしてみても、丸一日無理をしたあと沙羅の心に残るのは、何とも言いようのない寂寥(せきりょう)感だった。
「沙羅?」
沙羅の背後、境内に続く総門から出てきた少年が、心配そうに駆け寄ってくる。
「どうした? …具合悪いのか?」
藤間一哉(とうま・かずや)、15歳。
高校1年生の彼は、今年の8月で16歳になる。
耳にかかる程度の長さで不揃いにカットされた赤茶の髪、色素の薄い櫨(はじ)色の瞳、少し日に焼けた艶やかな肌。
細身だが鍛えられた長躯は、175センチある。
彼の制服は県下一の名門、衆英(しゅえい)高校のもので、夏の時期は白いワイシャツと、グレーを基調にしたタータンチェックのパンツという風体だ。
それを彼なりに着崩し、腰には大きめのオーバルスターが付いたベルトストラップをしている。
沙羅は不貞腐れたように頬を膨らませ、一哉を見上げた。
彼の顔を目にした途端に緊張の糸が切れたのか、見る間に子供っぽい表情になる。
「一哉……」
俄(にわ)かに飛びついてきた沙羅を、一哉が優しく抱き留めた。
恋愛的な抱擁というよりは、まるで家族同士のような雰囲気だ。
「どうした? …何かヤな事あったのか」
一哉は、腕の中にいる少女の瑞々しい肌に触れ、柔らかな髪をそっと撫で梳かす。
大きな鳶色の瞳、ふんわりと風に揺れる亜麻色の髪。
細い顎と折れそうな手足が、何とも頼りない。
今年の9月で13歳になる沙羅は、栗鼠(りす)のように小さな、可愛い顔をしている。
160センチの身長は、すらりと長い手足の為か、もう少しあるように見える。
純真無垢で、天使みたいな沙羅。
両親の顔を知らずに育った一哉にとって、従兄妹の沙羅はかけがえのない、たった一人の肉親だ。
建長寺に訪れていた観光客が、門前で寄り添う二人にジロジロと不審げな視線を投げる。
制服姿の二人がこうして一緒にいれば、第三者には恋人同士にしか見えないだろう。
露骨に向けられた好奇の目を、一哉が険を含んだ眼光で一蹴した。
それに気付いた沙羅は恥ずかしそうに俯き、一哉から静々と身を離す。
いくら学校から距離があるとはいえ、ここは人目が多かった。
そう思い、沙羅は顔を上げると、一哉に微笑みかける。
「ごめんね、一哉…何でもないの」
沙羅を気遣わしげに見遣りながら、一哉は制服のポケットからキーを取り出し、指先をフックに入れてクルリと回転させる。
「無理するな? …今日、行かなくてもいいんだぞ」
車が20台ほど停められる境内の駐車場、そこに置かれた一哉のバイクに目を向けながら、沙羅は首を振った。
「隆(りゅう)さんがね、今日…ミルフィーユ、買ってきてくれるの」
「……」
「すごく、楽しみにしてたから…。今日は行きたいな」
一哉はフゥと息を吐き、眉間を指で押さえた。
呆れた溜息とも取れるそれは、そうではなかった。
「沙羅の為なら、俺…マジで死ねる」
そう言って再度、沙羅を抱き締める。
年下の可愛い可愛い、可愛すぎる従兄妹、沙羅。
度が過ぎる過保護ぶりを誰に窘(たしな)められようとも、彼女を前にすれば、一哉はいつだって鼻血流出5秒前なのであった。
北鎌倉から一哉のバイクに乗り、二人は新宿へ向かう。
都庁の目の前を通り過ぎ、中野坂上の交差点を右に折れ、大久保通りを暫く走って北新宿図書館の前を通過すれば、その横手に、地上320メートル、85階建て、職員約6000人が働く、ガーディアン東京支部が見えてくる。
学校から一番近い鎌倉駅は、下校する成和女学園の生徒で溢れていた。
「用事があるから」と妙子達と駅前で別れた沙羅は、鎌倉駅から北鎌倉寄りに30分程歩いた場所にある建長寺の前で、がっくりと肩を落としていた。
「…はぁ」
つくづく、自分が厭になる。
学園生活に馴染み、もっと自分らしく振舞いたいと思えば思うほど、空回りしてしまう。
家族の話、流行りのドラマや芸能人の話、恋愛や部活の話。
そんな他愛もない会話を耳にする度、戸惑ってしまう自分がいた。
皆と仲良くなりたくて、それとなく話を合わせながら過ごしてみても、丸一日無理をしたあと沙羅の心に残るのは、何とも言いようのない寂寥(せきりょう)感だった。
「沙羅?」
沙羅の背後、境内に続く総門から出てきた少年が、心配そうに駆け寄ってくる。
「どうした? …具合悪いのか?」
藤間一哉(とうま・かずや)、15歳。
高校1年生の彼は、今年の8月で16歳になる。
耳にかかる程度の長さで不揃いにカットされた赤茶の髪、色素の薄い櫨(はじ)色の瞳、少し日に焼けた艶やかな肌。
細身だが鍛えられた長躯は、175センチある。
彼の制服は県下一の名門、衆英(しゅえい)高校のもので、夏の時期は白いワイシャツと、グレーを基調にしたタータンチェックのパンツという風体だ。
それを彼なりに着崩し、腰には大きめのオーバルスターが付いたベルトストラップをしている。
沙羅は不貞腐れたように頬を膨らませ、一哉を見上げた。
彼の顔を目にした途端に緊張の糸が切れたのか、見る間に子供っぽい表情になる。
「一哉……」
俄(にわ)かに飛びついてきた沙羅を、一哉が優しく抱き留めた。
恋愛的な抱擁というよりは、まるで家族同士のような雰囲気だ。
「どうした? …何かヤな事あったのか」
一哉は、腕の中にいる少女の瑞々しい肌に触れ、柔らかな髪をそっと撫で梳かす。
大きな鳶色の瞳、ふんわりと風に揺れる亜麻色の髪。
細い顎と折れそうな手足が、何とも頼りない。
今年の9月で13歳になる沙羅は、栗鼠(りす)のように小さな、可愛い顔をしている。
160センチの身長は、すらりと長い手足の為か、もう少しあるように見える。
純真無垢で、天使みたいな沙羅。
両親の顔を知らずに育った一哉にとって、従兄妹の沙羅はかけがえのない、たった一人の肉親だ。
建長寺に訪れていた観光客が、門前で寄り添う二人にジロジロと不審げな視線を投げる。
制服姿の二人がこうして一緒にいれば、第三者には恋人同士にしか見えないだろう。
露骨に向けられた好奇の目を、一哉が険を含んだ眼光で一蹴した。
それに気付いた沙羅は恥ずかしそうに俯き、一哉から静々と身を離す。
いくら学校から距離があるとはいえ、ここは人目が多かった。
そう思い、沙羅は顔を上げると、一哉に微笑みかける。
「ごめんね、一哉…何でもないの」
沙羅を気遣わしげに見遣りながら、一哉は制服のポケットからキーを取り出し、指先をフックに入れてクルリと回転させる。
「無理するな? …今日、行かなくてもいいんだぞ」
車が20台ほど停められる境内の駐車場、そこに置かれた一哉のバイクに目を向けながら、沙羅は首を振った。
「隆(りゅう)さんがね、今日…ミルフィーユ、買ってきてくれるの」
「……」
「すごく、楽しみにしてたから…。今日は行きたいな」
一哉はフゥと息を吐き、眉間を指で押さえた。
呆れた溜息とも取れるそれは、そうではなかった。
「沙羅の為なら、俺…マジで死ねる」
そう言って再度、沙羅を抱き締める。
年下の可愛い可愛い、可愛すぎる従兄妹、沙羅。
度が過ぎる過保護ぶりを誰に窘(たしな)められようとも、彼女を前にすれば、一哉はいつだって鼻血流出5秒前なのであった。
北鎌倉から一哉のバイクに乗り、二人は新宿へ向かう。
都庁の目の前を通り過ぎ、中野坂上の交差点を右に折れ、大久保通りを暫く走って北新宿図書館の前を通過すれば、その横手に、地上320メートル、85階建て、職員約6000人が働く、ガーディアン東京支部が見えてくる。
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