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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
そよ吹く薫風が教室へと吹き込んだ。
夏空に輝く白日は綿菓子のような入道雲に隠れることなく、燦々と輝いている。
私立、成和女学園の教室は、昼食を楽しむ生徒達の賑やかな声で溢れていた。
学食に行く生徒はまばらで、大抵の女の子達は、可愛らしい小さなお弁当箱を広げて友達同士の輪をつくっている。
「いい天気だねぇ」
日の当たる窓際。
一緒にお昼を食べていた水野妙子(みずの・たえこ)が微笑んだ。
つられて沙羅(さら)も一つ、曖昧な笑みを返す。
入学式から三ヶ月、もう夏休みも近い。
四月の当初は、新しい環境や中学生としての生活に戸惑いもあり、落ち着かなかった少女達も、今ではすっかり学園生活に馴染み、教室全体の雰囲気は女の子らしい華やかなものへと変わっていた。
中学生になったばかりの少女達は、多感な時期を迎えている。
恋愛に興味がある子は恋愛系のグループ、運動部の子は体育会系のグループで固まっていて、妙子達はというと、成績優秀、品行方正で、特に目立った事はしない文系タイプ、という集まりだった。
沙羅はそういった、同じ者同士で固まる女の子の心理があまり理解できなかった。
平穏な学園生活を送りたいと考えてはいるものの、女子中学校という環境にはどうも身の置き所がないように思える。
それでも周囲から浮かないよう、何をするにも平均的な行動を模索してしまう。
皆が笑えば同じように笑顔をつくるが、彼女の胸中には常に、漠然とした孤独感があった。
「樹さんて英語ペラペラなんだね。大塚先生が驚いてたよ」
妙子のグループの一人、松崎茜(まつざき・あかね)が、玉子焼きを箸でつまみながら沙羅に顔を向けた。
黄色の可愛らしいそれを、ぱくりと口に放り込む。
「そ、そうかな…」
ぎこちない微笑みを返し、沙羅はコンビニで買ってきたパンの包みを破く。
「帰国子女なの?」
茜の隣、夕月奈々(ゆづき・なな)が、ペットボトルから口を離すや否や、そう切り出してくる。
沙羅は仕方なく、パンを齧るのを少しだけ我慢することにした。
「ううん。そうじゃないんだけど…」
二の句が出ず、どう説明したらいいものかと頭を捻(ひね)る。
「なんて言うか、えっと…」
しかし、うまい言葉は浮かばない。
「ん、…ま、周りの人がみんな、色んな言葉話してるから。…覚えちゃったの」
苦慮の末そう言い、沙羅はようやく一口、大きなソーセージが挟まれたパンを齧った。
「色んなって…」
妙子が瞬く。
「じゃあ、他にも話せるの」
頬張りすぎて口を開けられずに、沙羅はとりあえず頷いた。「ふム」
「すごい。沙羅、数学とか歴史も、運動も得意だよねー。もしかしてお母さん、すごい教育ママ?」
ここへきてようやく沙羅は、妙子達が…一緒に食べている六人全員が、この話題に並々ならぬ関心を抱いているらしい事に気がついた。
もっと前から聞きたかった。
そんな雰囲気で、全員が乗り出し気味に沙羅を注視している。
ここにいるのは皆、何かしらの委員を任されている成績優秀な生徒達である。
そんな彼女達からすれば、委員会にも部活動にも参加せず、特別模範的な学園生活を送っているという印象でもないのに、どの科目でも全クラス5位以内をキープしている沙羅が不思議に映るのは当然だった。
沙羅は返答に窮し、寄せられた好奇の視線に緊張してしまって、パンを喉につかえさせ、咳き込みそうになった。
慌てて掴んだ紙パックの烏龍茶で、強引に流し込む。
妙子達の言う「沙羅の不思議な一面」には、当然ながら、彼女なりの事情があった。
しかし、それをこの場で公表することは出来ない。
かと言って、嘘を吐くような事もしたくない。
そんな葛藤を生じ、沙羅は空になった紙パックを見つめたまま硬直してしまう。
もしもここで適当な言葉を並べたとしても、後々必ずボロを出すのは目に見えている。
沙羅はとにかく、嘘を吐くのが下手なのだ。
「う、うーん…。どうかな…。あたし…お母さんって、いないから…」
「え…?」
とりあえず口にした沙羅の一言で、場の空気が瞬時に凍りついた。
そよ吹く薫風が教室へと吹き込んだ。
夏空に輝く白日は綿菓子のような入道雲に隠れることなく、燦々と輝いている。
私立、成和女学園の教室は、昼食を楽しむ生徒達の賑やかな声で溢れていた。
学食に行く生徒はまばらで、大抵の女の子達は、可愛らしい小さなお弁当箱を広げて友達同士の輪をつくっている。
「いい天気だねぇ」
日の当たる窓際。
一緒にお昼を食べていた水野妙子(みずの・たえこ)が微笑んだ。
つられて沙羅(さら)も一つ、曖昧な笑みを返す。
入学式から三ヶ月、もう夏休みも近い。
四月の当初は、新しい環境や中学生としての生活に戸惑いもあり、落ち着かなかった少女達も、今ではすっかり学園生活に馴染み、教室全体の雰囲気は女の子らしい華やかなものへと変わっていた。
中学生になったばかりの少女達は、多感な時期を迎えている。
恋愛に興味がある子は恋愛系のグループ、運動部の子は体育会系のグループで固まっていて、妙子達はというと、成績優秀、品行方正で、特に目立った事はしない文系タイプ、という集まりだった。
沙羅はそういった、同じ者同士で固まる女の子の心理があまり理解できなかった。
平穏な学園生活を送りたいと考えてはいるものの、女子中学校という環境にはどうも身の置き所がないように思える。
それでも周囲から浮かないよう、何をするにも平均的な行動を模索してしまう。
皆が笑えば同じように笑顔をつくるが、彼女の胸中には常に、漠然とした孤独感があった。
「樹さんて英語ペラペラなんだね。大塚先生が驚いてたよ」
妙子のグループの一人、松崎茜(まつざき・あかね)が、玉子焼きを箸でつまみながら沙羅に顔を向けた。
黄色の可愛らしいそれを、ぱくりと口に放り込む。
「そ、そうかな…」
ぎこちない微笑みを返し、沙羅はコンビニで買ってきたパンの包みを破く。
「帰国子女なの?」
茜の隣、夕月奈々(ゆづき・なな)が、ペットボトルから口を離すや否や、そう切り出してくる。
沙羅は仕方なく、パンを齧るのを少しだけ我慢することにした。
「ううん。そうじゃないんだけど…」
二の句が出ず、どう説明したらいいものかと頭を捻(ひね)る。
「なんて言うか、えっと…」
しかし、うまい言葉は浮かばない。
「ん、…ま、周りの人がみんな、色んな言葉話してるから。…覚えちゃったの」
苦慮の末そう言い、沙羅はようやく一口、大きなソーセージが挟まれたパンを齧った。
「色んなって…」
妙子が瞬く。
「じゃあ、他にも話せるの」
頬張りすぎて口を開けられずに、沙羅はとりあえず頷いた。「ふム」
「すごい。沙羅、数学とか歴史も、運動も得意だよねー。もしかしてお母さん、すごい教育ママ?」
ここへきてようやく沙羅は、妙子達が…一緒に食べている六人全員が、この話題に並々ならぬ関心を抱いているらしい事に気がついた。
もっと前から聞きたかった。
そんな雰囲気で、全員が乗り出し気味に沙羅を注視している。
ここにいるのは皆、何かしらの委員を任されている成績優秀な生徒達である。
そんな彼女達からすれば、委員会にも部活動にも参加せず、特別模範的な学園生活を送っているという印象でもないのに、どの科目でも全クラス5位以内をキープしている沙羅が不思議に映るのは当然だった。
沙羅は返答に窮し、寄せられた好奇の視線に緊張してしまって、パンを喉につかえさせ、咳き込みそうになった。
慌てて掴んだ紙パックの烏龍茶で、強引に流し込む。
妙子達の言う「沙羅の不思議な一面」には、当然ながら、彼女なりの事情があった。
しかし、それをこの場で公表することは出来ない。
かと言って、嘘を吐くような事もしたくない。
そんな葛藤を生じ、沙羅は空になった紙パックを見つめたまま硬直してしまう。
もしもここで適当な言葉を並べたとしても、後々必ずボロを出すのは目に見えている。
沙羅はとにかく、嘘を吐くのが下手なのだ。
「う、うーん…。どうかな…。あたし…お母さんって、いないから…」
「え…?」
とりあえず口にした沙羅の一言で、場の空気が瞬時に凍りついた。
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