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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


R-Fortress(フォートレス・アール)を根城にする反中央政府組織Alta Vendettaのボス Vito Vartori(ヴィート・ヴァルトリ)は、眉目秀麗で豪儀な色男だ。今年で26歳になる。

中世後期イタリアの僭主(シニョーレ)として君臨した貴族の末裔で、「ヴァン」という愛称で呼ばれることが多い。

自他共に認める艶福家で、男であろうと美人なら構わないという彼は、「博愛主義」の名目の下、常に美女、美男をはべらせている。

生涯独身を公言していた彼だったが、近頃は結婚を意識し始めたらしい―――レインにとっては猛烈に迷惑な話ではあるのだが―――足元にしなだれる肌も露な女性たちには目もくれず、彼はひたすらレインに魅入っていた。

「黒髪がこんなに美しいなんて知らなかった。なぜいつも完璧なんだ、レイン」

「……。ヴァン…」

何度振り払っても手を解放してもらえないレインの相好が引きつる。
あからさまに当惑した視線をブラッドに向けてSOS信号を送っているのだが、ブラッドも間に入る機を逸してしまったらしく、ただ曖昧に微笑を返すだけだ。

ヴァンの病的な女好きもレインに魅了される気持ちも理解できてしまうだけに、ブラッドの内心は複雑だった。
ヴァンが相手だとレインのペースが乱れてしまう理由というのがそれに加わる。

ヴァンはブラッドに似ているのだ。

2人を兄弟と紹介されたら懐疑の余地がないほど、彼らの面立ちは酷似している。
ヴァンは訳あって左目を眼帯で覆っているのだが、背格好もほぼ同じで趣味嗜好や性質も近いため、レインにはどうにもやりづらい。

関係上素気無い態度を取ることもできず、相手はただ好意をもってくれているだけなので抗議するわけにもいかない。
と言うより、人懐っこく無垢な彼の笑顔にレインが弱い。

無機質な街並みとは対照的なヴァンのプライベート・ルームは支柱も階段も全て大理石でつくられており、壁面に掲げられた彫塑や黄金の室内装飾は贅をつくしたものばかりだ。

壁や天井にも美術的な価値の高い華麗な装飾が惜しげもなく施されている。

黄金の椅子に腰掛けたレインの足元では、ヴァンに群がる裸同然の女たちが腰をくねらせている。

岡目にはなんとも異様な光景だと傍観していたブラッドの背後、豪奢な扉から2人の男が入ってきた。

「ふん…。また来やがったのか、性悪」

褐色の肌に銀髪、紫の瞳をした華奢な男が正面からレインに毒づいた。
くびれた腰を露出した彼はどこか妖艶で、口元を布で覆っている。

ここで会う以前から、ブラッドは彼を知っていた。

スラムでは超有名な「トップアイドル」。
Torah Ballus(トア・バリュス)は売れっ子の男娼だ。

まだ19歳だが、ラテンの血を引くしなやかな身体は男を挑発する術を完璧に会得している。

「カリカリすんなよトア。同属嫌悪か?悪女対決なら他所でやってくれ。雌猫の罵り合いなんざ見たくない」

遅れて隣に並んだ男を険も露に一瞥して、トアが鼻を鳴らした。

「黙ってなジーマ。抱いた男の腸引きずり出さなきゃイけない不感症野郎と俺を一緒にすんじゃねぇ」

ジーマと呼ばれた男が長嘆息と共に肩を竦めた。
トアとは長い付き合いだが、艶麗な見目形にそぐわない彼の罵詈讒謗には滅入ってしまう。

170cmのトアより頭1つ大きいZima O'Hagan(ジーマ・オアガン)はブルーグレーの髪を後ろで束ね、刈り上げたサイドにはバリアートを入れている。
翡翠色の瞳でトアを見つめている彼も19歳で、戦争孤児の2人はスラムでも家族同然に助け合ってきた仲だ。

トアの雑言に曝されたレインだが、彼らの登場は救いだった。
逃げるように立ち上がってブラッドの横に立つと、襟元を正しつつ用件を切り出す。

「詳細はM.eに送信した通りだ。…反転を阻止したい。JUDGEと戦り合えるのはSNIPERとVENDETTAをおいて他にない。力を貸して欲しい」

トアが冷たく一笑した。
大股でレインに歩み寄ると、突然襟元を掴み上げる。

「力を貸してほしいだ?…もっと「らしく」言ったらどうだ? 「貸せ」 だろうが。てめぇは俺たちを金で囲って飼った気でいやがる。――――失せろよクソ売女。てめぇが死ねば万々歳だ」

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