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SCENE SECTION
01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /
本部からの帰還命令に従って「HIDEOUT」を後にしたシオウとイヴァは、未だウェストサイドから動けずにいた。
異様な瘴気に包まれた入相の空は昏く、鳥の姿もない。
ホテルから見えた喧騒が嘘だったかのように街は静まり返っていた。
急ぎ足で空港へ向かったがやはり人影は見当たらず、水気を多分に含んだ生暖かい風が時折髪を揺らしていくだけだ。
携帯は圏外、M.eはホテル内で一度通じただけで、外に出てからはERRORの表示が点滅するばかり。
胡乱な表情で眉根を寄せたイヴァが、切るような嘆息を足元に落とした。
転がっている石を足先で小突くと、腰の下まで落としたゆるいトラウザーズの裾がコンクリートに擦れる。
「ホラー映画の撮影か?ジェイクの野郎、相棒(ヘリ)ほったらかしてサラ・ミシェル・ゲラーとデートしてンじゃねぇだろうな」
軽口を叩きつつも、イヴァは自分をここまで運んでくれたSNIPER専属の操縦士、ジェイクの気配を入念に探っている。
周囲に蔓延する淀んだ空気は、人の生息が難しいレベルにまで達している。
魔族との交戦経験があるイヴァでさえ、こんな濃度の瘴気を体感したことはない。
「さっきの情報…M.eが受信したヤツだ。正直信じてなかったんだけどよ。確かにセカイの終わりって雰囲気だぜ…。
――――見ろあの空。炭酸ヌけたペプシみてぇだ」
街並みや草木はまだ恒常を保っているが、息をするだけで肺が瘴気に侵され、フォースの消費を余儀なくされる。
悪心に噎せたイヴァが小さく舌を出した。
「これ以上瘴気が濃くなれば「反転」する」
この状況を事ともしないようなシオウが涼しい顔で呟いた。
どこまでも可愛げのない男だと内心で毒づきつつも、イヴァが応じる。
「反転?どういう意味だ」
「そのままだ。魔界と人界が入れ替わる」
「ハハハ。……。笑えねぇよ、それ…」
ポケットから両手を引き抜いたイヴァがシオウの肩に片肘を乗せた刹那、突き上げるような振動が起き、轟音が響いた。
地鳴りと共にコンクリートが裂け、空港を囲っていたフェンスが倒壊する。
彼らの間を裂くように倒伏した木を二人が躱すと、急に視野が狭くなった。
――――否、暗くなった。
のしかかる重力に耐え切れず膝をついたイヴァは、足元が沈んだのを感取していた。
闇。
一筋の光もない完全な漆黒がイヴァを包む。
落ちたと直感したところで視界が明るくなり、一陣の逆風と共に卒然と色が迫ってきた。
「ッ…!?」
疾風が闇のカーテンを開け放つように、周囲に景色が形成されていく。
次の瞬間、イヴァは高台にあたる細長い帯状の公園に立っていた。
左方向には桟橋が見え、眼下には見覚えのある海岸線が広がっている。
マリンスポーツが好きな彼はプライベートでサンタモニカにはよく訪れるし、軍港のあるロングビーチには日常的に仕事で来ているため、この地には幾度も立ったことがあった。
「パリセード…パーク」
日の高いうちはローラースケートやジョギングをする人の姿も多く見られる遊歩道の先には、入園無料の遊園地がある。
有り得ない現象に己の目を疑うが、橋にかかったゲートには「Santa Monica」の文字がしっかりと見て取れる。
本部からの帰還命令に従って「HIDEOUT」を後にしたシオウとイヴァは、未だウェストサイドから動けずにいた。
異様な瘴気に包まれた入相の空は昏く、鳥の姿もない。
ホテルから見えた喧騒が嘘だったかのように街は静まり返っていた。
急ぎ足で空港へ向かったがやはり人影は見当たらず、水気を多分に含んだ生暖かい風が時折髪を揺らしていくだけだ。
携帯は圏外、M.eはホテル内で一度通じただけで、外に出てからはERRORの表示が点滅するばかり。
胡乱な表情で眉根を寄せたイヴァが、切るような嘆息を足元に落とした。
転がっている石を足先で小突くと、腰の下まで落としたゆるいトラウザーズの裾がコンクリートに擦れる。
「ホラー映画の撮影か?ジェイクの野郎、相棒(ヘリ)ほったらかしてサラ・ミシェル・ゲラーとデートしてンじゃねぇだろうな」
軽口を叩きつつも、イヴァは自分をここまで運んでくれたSNIPER専属の操縦士、ジェイクの気配を入念に探っている。
周囲に蔓延する淀んだ空気は、人の生息が難しいレベルにまで達している。
魔族との交戦経験があるイヴァでさえ、こんな濃度の瘴気を体感したことはない。
「さっきの情報…M.eが受信したヤツだ。正直信じてなかったんだけどよ。確かにセカイの終わりって雰囲気だぜ…。
――――見ろあの空。炭酸ヌけたペプシみてぇだ」
街並みや草木はまだ恒常を保っているが、息をするだけで肺が瘴気に侵され、フォースの消費を余儀なくされる。
悪心に噎せたイヴァが小さく舌を出した。
「これ以上瘴気が濃くなれば「反転」する」
この状況を事ともしないようなシオウが涼しい顔で呟いた。
どこまでも可愛げのない男だと内心で毒づきつつも、イヴァが応じる。
「反転?どういう意味だ」
「そのままだ。魔界と人界が入れ替わる」
「ハハハ。……。笑えねぇよ、それ…」
ポケットから両手を引き抜いたイヴァがシオウの肩に片肘を乗せた刹那、突き上げるような振動が起き、轟音が響いた。
地鳴りと共にコンクリートが裂け、空港を囲っていたフェンスが倒壊する。
彼らの間を裂くように倒伏した木を二人が躱すと、急に視野が狭くなった。
――――否、暗くなった。
のしかかる重力に耐え切れず膝をついたイヴァは、足元が沈んだのを感取していた。
闇。
一筋の光もない完全な漆黒がイヴァを包む。
落ちたと直感したところで視界が明るくなり、一陣の逆風と共に卒然と色が迫ってきた。
「ッ…!?」
疾風が闇のカーテンを開け放つように、周囲に景色が形成されていく。
次の瞬間、イヴァは高台にあたる細長い帯状の公園に立っていた。
左方向には桟橋が見え、眼下には見覚えのある海岸線が広がっている。
マリンスポーツが好きな彼はプライベートでサンタモニカにはよく訪れるし、軍港のあるロングビーチには日常的に仕事で来ているため、この地には幾度も立ったことがあった。
「パリセード…パーク」
日の高いうちはローラースケートやジョギングをする人の姿も多く見られる遊歩道の先には、入園無料の遊園地がある。
有り得ない現象に己の目を疑うが、橋にかかったゲートには「Santa Monica」の文字がしっかりと見て取れる。
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