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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


放課後の屋上に人気はなかった。
5年前、警察沙汰となってしまった生徒の自殺未遂があって以来、昼の時間帯以外は立ち入り禁止にされているためだ。

入相には早く、薄い雲間からはまだ日が射していた。
下校途中の生徒たちの楽しげな喧騒が朔風に乗って歌うように流れてくる。

今日は夕方頃から急速に冷え、夜は1月下旬並みの寒さになると天気予報が言っていたのを思い出す。
贔屓の美人お天気キャスターの顔を脳内回想しながら、一哉は長嘆を落としていた。

先を歩いていた少年が半ばあたりで足を止める。
一定の距離を保ったまま一哉も立ち止まった。

少年の胡桃色の髪が西日に照らされて艶やかな光彩を放つ。
女子と見間違えるほど小柄な彼の身体は一見華奢だが、近づいて見れば不要な肉を削ぎ、隙無く整えられた刃の如きしなやかな体躯をしていることに気がつく。
戦う為に呼吸をしているかのような貫禄は、彼が相当な手練だということを暗に語っていた。

「どこの組織だ」

鞄を無造作に放った一哉が不機嫌な相貌で少年を凝視した。
仕事柄、他機関から暗殺者を仕向けられたり逆恨みを受けたりすることはある。が、学校に乗り込んで来るようなケースは初めてだ――――高校に紛れ込めるような同年代が相手というのが珍しいのかもしれない。

GURDIANの藤間一哉が超一流ランクの能力者だということは、この業界の人間なら誰でも知っている。少しでも裏世界に精通している者ならば命を無駄にはしない。

一哉を狙ってやってくる輩の大半は、自惚れの強い勘違い野郎か、血の滲むような修練を長年積み、練達の域に達した実力者。多くは前者で、稀な後者の場合でも一哉によって返り討ちに合うのが関の山だった。

「こんなとこまで…。俺にだってプライベートってもんが…!?」

少年の右足が鼻先を掠めた。
ぎりぎりのところで躱した一哉が、前方の少年を睨みつける。

「てめぇ、いきなりっ!」
「喧嘩売ってきたのはあんただろ」  

少年の声色が変わり、周囲に殺気が満ちる。

「あの映像…俺以外に流してないだろうな。流出させてみろ、タダじゃおかない」
「映像?なんの話…!」

紫電一閃。
閃光を視界に捉えることはできない。少年がいつ双刀を両手に持ち、それを抜き放っていたのかさえ理解らない。

2つの太刀筋は距離を感得させず、伸縮自在にさえ幻覚(見え)る。

なんだ、こいつ…っ!?。
めちゃくちゃ疾……。

軌道の影すら掴めない。
神業に等しい少年の動きに翻弄される。

距離を詰めて少年の懐に潜り込むのは不可能だった。
信じられないことに彼は刀のリスクをクリアしている。
武具を用いれば利点も生まれるが、欠点もまた負う。刀身のぶんリーチは伸びるが隙もできるのが必定だ。

しかし、攻撃によって生じる隙を、彼はもう一刀で完全にカバーしていた。

闇に溶け、相手がその存在を気取る前に命を奪う漆黒の「昏蛇羅(くだら)」と、主の意思をその指先から一身に集め、決して触れさせまいとする赤の「襲(かさね)」。
時にはその役目を反転させ盾にも刃にもなる変幻自在な2刀は、少年の手足も同然だった。

一哉が放つ攻撃を、柔らかくしなった上身(かみ)が吸収する。
受け止めた衝撃を鋒(きっさき)へ流し、刀身にダメージを負うことすら回避しながら、瞬間的に無効化している。

神速の如きスピードと強烈な一打。
細腕から繰り出される猛攻に一哉が歯を食いしばった。

ハンパねぇ――――強い。
ブラッド、いや…スピードだけならレイン並みか?

白シャツに血が滲む。
躱したつもりでも避けきれていない。逃げるのがやっとだ――――だが、おかしい。

少年から発せられる殺気と威圧には能力者特有のものが混じっていない。
彼からはフォースを感じない。

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