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SCENE SECTION

01.死焔 / 02.絡想 / 03.砕願 / 04.対撃・救戯・要塞 / 05.喪失 /


横浜市立衆英高校は全国でもトップクラスの偏差値を誇る進学校だが、髪形や服装に強い制約がなく、制服を着崩した生徒の姿も日常的に見られる。

ファッション雑誌で活躍するモデルや芸能人も多く在校し、規則より自主性や個性を重んじるという衆英の方針は若い世代には特に絶大な支持を得ていて、毎年の受験者数では恒常的に全国1位を記録していた。

校門にたどり着くまでの真っ直ぐな並木道には桜が堵列している。
今の季節、11月は肌寒さを感じさせるこの景色も、あと数ヶ月も経てば柔らかな桜色に染まる。

生徒たちが同じ方向に流れるその一本道を、籐間一哉(とうま・かずや)は7日ぶりに歩いていた。

衆英の校章が入ったブレザーにTMTの白シャツ、NEIL BARRETTのシューズ。形だけ一応といった感じで持っている鞄は厚みがなく、なにも入っていないように見える。

「お…一哉。久しぶり」

前を歩いていた眼鏡の少年が、すこし足を止めて一哉を待ってから隣に並んだ。
一哉とほとんど同じくらいの身長で、LOVELESSのシャツに衆英のブレザー、Bell & Ross のクロノグラフにGiacomettiのコインローファーと、シンプルながら高価なアイテムを何気なく身につけている。

挨拶ついでに肩を叩かれた一哉が軽く片手を上げて応じると、眼鏡の少年が親しげな温容をつくった。

「今度の休暇は1週間くらいだったか?おまえはいいよな…。トップ入選の特待生は待遇が違う」
「そっちこそ、だろ。才明(さいめい)」

赤城才明(あかぎ・さいめい)は一哉のクラスメイトだ。
どうも妙縁があるらしく、互いに懇意があったわけでもないのに進学のたび顔を合わせる。
小学校以来ついに今年で11年目、自然と気が置けない関係になってしまった。

「もうすぐ期末だな。おまえ受けろよ、今度こそ負かしてやる」
才明がそれっぽく眼鏡を上げて見せると、一哉が一笑を返す。
「予定が合ったらな。俺、また明後日から日本にいないし」
「奇遇だな。俺も明後日からちょっと出かけるんだ」
「おいおい…ちゃんと登校しろよ、セイトカイチョー」

赤城財閥の跡取り息子である才明は、将来を約束された典型的な「イイとこのお坊ちゃん」なのだが素行がそれらしくなく、俗に言う優等生とはすこし違うところがある。
それでも一応の体裁は繕いたいらしく、黒髪に眼鏡をかけた外貌だけは生徒会長としてのテンプレートに沿っているらしい。

「俺は仮の生徒会長だ。本当はお前がやるはずだった」
才明の仏頂面を側目にかいた一哉が首を傾げる。
「同点1位だったろ、入試。なんで仮」
「お前のほうが2分、書き終わるのが早かったからだ」
「……。どこに目ぇついてんだよ…。俺の前だったよな?席…」

他人と壁をつくるところがある一哉は、クラスメイトとでも会話をしないどころか目も合わせないような徹底ぶりなのだが、才明とだけは軽妙に会話をする。
才明は他者に対して一哉ほど判然とした態度では応じないが、犀利な者ならば彼の示す壁に気がつく。

英邁で他の生徒と線を引く彼らに、周囲の視線が集まるのはいつものこと。
2つの背中は通例の登校風景になんの雑感もなく学び舎へと流れ、吸い込まれていった。

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