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SCENE SECTION

01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 / 06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人


イギリス人と日本人のハーフである彼女は、元英国情報局秘密情報部(SIS)、MI-6の凄腕スナイパーであった過去をもつ、スーパー女医だ。

「ちょ…、っマジで痛ぇってば…せめて、麻酔とかなんとか、っ…あんだろ〜」
「あるわよ?ほら、ジッとして」
「っ…あんなら、っ…ぐぁ…っう、打ちやがれっ」
「ダメよ。戦場で麻酔なんか打ってもらえると思ってるの?慣れておきなさい」
「ふ、ふざけんなっ――――痛っ…あっ」
「あなたの意識が戻るまで、わざわざ待っててあげたのよ?…ほら痛い?」
「痛ぃっっ……で、 …って、てめぇ――――っ……ぜってぇいつか、犯すっ…〜っ」
「ふふ、可愛いこと言って…そんなにあたしにイジめてほしいの」
「ぁ…っ!…痛…で…っ、ちょ……、っ…マジ…勘弁…っ」

両手両足を拘束された格好で痛みにもがいていたイヴァの頭上。
どすんと、いい匂いのものが置かれる。

コンビニ弁当。
目が覚めてすぐに、食べたいと駄々をこねたモノ。

「っ…シオウ!!」

地獄に仏とばかりに、イヴァが瞳を上げる。
「た、助けてくれ。この女、っ…〜っ……俺を…っあ」

痛みで伝う汗。
生意気なツリ目が、涙に潤んだ上目で見上げてきて…。

「――――。悪くない」

「っ…は?…うぁ…っい、…やめろ、クソ女っ!!」
「可愛いわ、少将って。なんて虐めがいがあるのかしら…」

「…………」 
静かにイヴァを見下ろしたままのシオウに、助けてくれる気配はない。

「っ…あ……っ、ぐ」
「――――瑠璃」

痛みでヘロヘロになりつつあるイヴァの髪を上からつかんで、シオウが静かに息を吐いた。

「終わったら貸せ。ベッドも」
「あら、めずらしいわね中将。あなたがそんなこと言うなんて…いいわよ」

頭上で行われる、おそろしい会話。
荒く息をついたまま…イヴァが脱力する。

こ、この…万年発情期…
危害ばっかり加えやがって…

「じ、冗談じゃ…っ…痛てててっ!…はぁ、もぉ――…」

もぉヤだ…こいつら…。
ドS二人組みに抵抗する気力すら失せだイヴァが、海の底よりも深い溜息をついた。







大西洋に浮かぶ新大陸。
エデンに一哉が到着したのは、沙羅をガーディアン・モスクワ支部に送り届けたあと、夜明けが近い時間帯だった。
ここで会う予定だった聯は、緊急に入った別件で今、シド・レヴェリッジと――――REDSHEEPの幹部たちと会合を行っている。
大きな出窓から白んできた空を見上げて、一哉が小さく、切るように息を吐いた。

――――いつものことだ。

聯はいつだって、核心を教えてはくれない。今度の件だって。
アルフレッド・シフをレインより先に捕らえて、殺すこと。それが任務だった。
だけど実際は…。

――――俺も所詮、コマのひとつだ。

わかってる。
このまま聯の背中を追い続けたところで、聯が振り向いてくれることなんか一生ないことくらい。

「……。どうすっかな」
片手を持ち上げて、掌を――――彼の感触を思い出す。

甘い匂い。
あいつの、相手を煽ってるとしか思えない…エロい表情。

触ると吸い付くような白い肌。
男とは思えないくらい柔らかくて…。

「……。はぁ」

軽く頭を振る――――ダメだ。
考えてるだけで…勃つ。

「もう近いんだろうな…」

いつも聯の行動を見ている一哉には、解っている。
もうすぐ――――「崩れる」日が近いことが。

そうなったら、あいつはどうなるんだろう。
泣くのか、逆上するのか――――それとも屈するのか。

どうなったっていい。
あいつのことなんかどうだって。

――――どうでもいい。
はずなんだけど…。

「そうなったらあいつ、誰から「補給」すんだろ…」

聯は知らない。
自分でフォースの回復が出来ないという致命的な欠陥を、レインがもっていることを。

誰にも気づかれずにその欠陥を隠し通してこれたのは、能力者として類稀なほどの才能とフォースのキャパシティをもった優秀な相棒、ブラッド・ジラが常に、傍にいたからだ。

あいつから喰ってたってことだ。
身体の中に直接入れてた――――セックスで。

エサがセックス。
……。あいつらしいな。

「幹部、か」

あの赤い髪、もしくはあのデカい白いヤツか――――ラウレス、アリとか?
あいつら、レインの膨大なフォース埋められるくらいのキャパ、持ってんのかな。

「俺なら余裕だけどな…」

同じ系統の能力者、「新人類」である一哉なら、ブラッドよりもむしろレインとのフォースの相性はいいはずだ。

――――面白ぇな…

あいつが俺に――――縋りついて、懇願してくる姿なんて。
想像しただけでタマんない。

空が少しずつ、明るさを増してくる。もうすぐ日が昇る。
時間は残酷なくらい、いつも通りに過ぎる。待ってはくれない。

あいつに残された時間はもう、少ない。

ブラッドに殴られた頬に片手を当てる。
もう腫れてはいなかったが…痛みは覚えている。

「せいぜい育んでろよ…アイってやつを」

それが、どれだけ憎しみと酷似した感情なのかってことを。
――――もうすぐあいつは、思い知る。





私たちは死への憂苦によって生を見出し
生への憂苦によって 生を乱す。


――――ミシェル・ド・モンテーニュ
                                     





――――賽は投げられた。







第3章へ。







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