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SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
「経緯は知らん…が」
一撃。
頬を殴られ、一哉が地面に倒れた。
「こーいう気分だ…悪いな」
「っ…てめぇ…!」
レインを抱き起こして、肩に担ぐようにして持ち上げる。
「好戦的な態度をとらない方が身のためだ。俺は…」
ブラッドの片腕には、禍々しいような刻印が浮かんでいる。
「こいつに関してはブレーキが利かない」
「っ……」
荒い息。
耳元で小さく喘いだレインが、ブラッドの服を掴んだ。
「――――っ、…ラ、ド…」
「黙ってろ」
「っ………、………」
涙が滲んでいる。
白い肌から伝った汗で、黒髪がはりついて…薄く開いた唇を苦しそうに、ブラッドのシャツに押し当てる。
「ふ…、っ……ぅ」
――――限界だな。
息をついて、ブラッドが沙羅に歩み寄った。
「大丈夫か…沙羅ちゃん」
「ブラッド…」
沙羅の傷は、もうほとんど見えないくらいに薄くなっている…が。
心配なのはそれだけではない。
荒く息をついている沙羅の顔は蒼白で、ひどく疲れているように見える。
「…っ、レインに…伝えてあげて」
沙羅がブラッドを見つめた。
頬に、大粒の涙が零れ落ちる。
「沙羅ちゃ…」
「道は必ずあるって。――――きっと…あるから。あたしも」
涙で声が震える。弱いけれど。
しっかりと意志のこもった、言葉。
「あたし…一緒に、探すからって」
「沙羅ちゃん」
「…ごめんね」
涙が止まらないのが何故なのかは、わからない。
共鳴しているからだ――――そう感じはするけれど。
レインの傷が、過去が。ただ痛い。
同情なんかじゃない。
ただ、苦しい。
「あたし、強くなるから」
なにもできない自分をただ責め続けて、なにもしないまま時間を過ごすのは、もう厭だ。
誰かの為になにかをしたいと、こんなに強く思うのに。
――――なにもできないと言い続けるのは――――もう、終わりにする。
「だから待ってて。…待っててくださいって。…なにもできないって、思うかもしれないけど…、だけど強くなるから」
「……」
嗚咽交じりになってしまう。
悔しい。
――――ただ、泣くだけなんて厭だ。
もっと強くなって。
ちゃんと力を、勇気を、自信を持ちたい。
「一人で背負うなんて、無理だよ。…レインが」
「もういい、沙羅ちゃん」
片腕で、ブラッドが沙羅を軽く抱き寄せた。
濡れた髪を撫でる。
「…伝える」
「っ…、…」
ブラッドが立ち上がった。
一哉を振り返らないまま、言葉だけを投げる。
「おまえの護るものはなんだ、藤間」
背中越しに、瞳だけを向ける。
「…沙羅ちゃんを泣かすなよ」
その言葉だけ残して。
転送場所を入力した端末のスイッチを押したブラッドの姿が、レインと一緒に消えた。
静かに、誰もいなくなった空間を睨んでいた一哉が立ち上がった。
「っ…くそ」
忌々しそうに髪をかき上げる。
あと少しだった。
あと少しであいつを…。
「…まぁいい」
弱点はあった。
あいつのことならもう解ってる。…全て。
終わりだぜレイン。
あんたの天下はここまでだ。
「…一哉」
沙羅の声。
我に返ったように、一哉が顔を上げた。
「ごめんな、怪我させちまって」
「………」
「まだ痛むか」
「…ううん」
俯いた沙羅が小さい声で言う。
「大丈夫」
「軍機に戻ろう。今日は…無駄足だったな」
「………」
気遣うように、沙羅の肩に手を伸ばす。
いつもの一哉の手、いつもの体温。
あったかいのに。
一哉が、好きなのに。
言い表しようのない痛みが胸に走って、沙羅が肩を震わせた。
涙が。
止まらない。
「――――沙羅」
一哉が沙羅を抱きしめた。強くて優しい抱擁。
「ごめんな、こわい目に合わせちまって…」
「……、……っ」
きっと、伝わらない。
一哉と自分の間にある深い溝に気づいてしまった。
価値観がまるで違う。きっと、なにもかも。
それでも。
解りあえる道なんて、あるんだろうか…。
それを信じたい。だけど…不安で仕方がない。
解ってる。
彼と、あたしは――――
――――きっと。
「経緯は知らん…が」
一撃。
頬を殴られ、一哉が地面に倒れた。
「こーいう気分だ…悪いな」
「っ…てめぇ…!」
レインを抱き起こして、肩に担ぐようにして持ち上げる。
「好戦的な態度をとらない方が身のためだ。俺は…」
ブラッドの片腕には、禍々しいような刻印が浮かんでいる。
「こいつに関してはブレーキが利かない」
「っ……」
荒い息。
耳元で小さく喘いだレインが、ブラッドの服を掴んだ。
「――――っ、…ラ、ド…」
「黙ってろ」
「っ………、………」
涙が滲んでいる。
白い肌から伝った汗で、黒髪がはりついて…薄く開いた唇を苦しそうに、ブラッドのシャツに押し当てる。
「ふ…、っ……ぅ」
――――限界だな。
息をついて、ブラッドが沙羅に歩み寄った。
「大丈夫か…沙羅ちゃん」
「ブラッド…」
沙羅の傷は、もうほとんど見えないくらいに薄くなっている…が。
心配なのはそれだけではない。
荒く息をついている沙羅の顔は蒼白で、ひどく疲れているように見える。
「…っ、レインに…伝えてあげて」
沙羅がブラッドを見つめた。
頬に、大粒の涙が零れ落ちる。
「沙羅ちゃ…」
「道は必ずあるって。――――きっと…あるから。あたしも」
涙で声が震える。弱いけれど。
しっかりと意志のこもった、言葉。
「あたし…一緒に、探すからって」
「沙羅ちゃん」
「…ごめんね」
涙が止まらないのが何故なのかは、わからない。
共鳴しているからだ――――そう感じはするけれど。
レインの傷が、過去が。ただ痛い。
同情なんかじゃない。
ただ、苦しい。
「あたし、強くなるから」
なにもできない自分をただ責め続けて、なにもしないまま時間を過ごすのは、もう厭だ。
誰かの為になにかをしたいと、こんなに強く思うのに。
――――なにもできないと言い続けるのは――――もう、終わりにする。
「だから待ってて。…待っててくださいって。…なにもできないって、思うかもしれないけど…、だけど強くなるから」
「……」
嗚咽交じりになってしまう。
悔しい。
――――ただ、泣くだけなんて厭だ。
もっと強くなって。
ちゃんと力を、勇気を、自信を持ちたい。
「一人で背負うなんて、無理だよ。…レインが」
「もういい、沙羅ちゃん」
片腕で、ブラッドが沙羅を軽く抱き寄せた。
濡れた髪を撫でる。
「…伝える」
「っ…、…」
ブラッドが立ち上がった。
一哉を振り返らないまま、言葉だけを投げる。
「おまえの護るものはなんだ、藤間」
背中越しに、瞳だけを向ける。
「…沙羅ちゃんを泣かすなよ」
その言葉だけ残して。
転送場所を入力した端末のスイッチを押したブラッドの姿が、レインと一緒に消えた。
静かに、誰もいなくなった空間を睨んでいた一哉が立ち上がった。
「っ…くそ」
忌々しそうに髪をかき上げる。
あと少しだった。
あと少しであいつを…。
「…まぁいい」
弱点はあった。
あいつのことならもう解ってる。…全て。
終わりだぜレイン。
あんたの天下はここまでだ。
「…一哉」
沙羅の声。
我に返ったように、一哉が顔を上げた。
「ごめんな、怪我させちまって」
「………」
「まだ痛むか」
「…ううん」
俯いた沙羅が小さい声で言う。
「大丈夫」
「軍機に戻ろう。今日は…無駄足だったな」
「………」
気遣うように、沙羅の肩に手を伸ばす。
いつもの一哉の手、いつもの体温。
あったかいのに。
一哉が、好きなのに。
言い表しようのない痛みが胸に走って、沙羅が肩を震わせた。
涙が。
止まらない。
「――――沙羅」
一哉が沙羅を抱きしめた。強くて優しい抱擁。
「ごめんな、こわい目に合わせちまって…」
「……、……っ」
きっと、伝わらない。
一哉と自分の間にある深い溝に気づいてしまった。
価値観がまるで違う。きっと、なにもかも。
それでも。
解りあえる道なんて、あるんだろうか…。
それを信じたい。だけど…不安で仕方がない。
解ってる。
彼と、あたしは――――
――――きっと。
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