page10
SCENE SECTION
01.痛み / 02.潜入 / 03.ジャッジ / 04.焔魔 / 05.偽りの理由 /
06.遺恨 / 07.欠陥 / 08.恋人
「らしくもねぇ…アタマが沸騰しちまうぜ…」
第4エリアと表記されたコンクリートの壁を通り過ぎたあたりで天井に手を伸ばし、通風孔の金網を外して上へ登ると、気配を殺して潜伏する。
目測通りのタイミングで、2つの足音が近づいてきた。
「いないぜ、藤間」
廊下に若い少年の声が響き、ややあって、赤い軍服の2人組が姿を現した。
「ったく。バルタザールのやつ、ガセネタか?」
先ほど声を発した少年が再びぼやくと、もう一方の少年が足を止めて応じる。
「感づかれたらしいな。…戻るぞグウェン」
「ち。メンドくせぇなぁ」
茶髪の少年は、愚痴を零すもう1人の背中を「黙れ」とでも言うように叩くと、踵を返した。
否、返そうとした。
急に動きを止めた少年を訝しげに振り返ったもう一人が、警戒心を抱きつつ彼の名を呼ぶ。
「……。籐間…?」
斜め上方を睨む一哉は、既に殺気を放っている。
暗い通路が急に不気味に思えてきて、もう一人の少年…グウェンダルは両腕をさすった。
「………」
完全に気配を殺しているはずのイヴァに気づいている。
一哉を満足げに見下ろしながら、イヴァはゆっくりと配管の上に手を滑らせ、着地のタイミングを計っていた。
ガキだが――――小物じゃない。
むしろアタリだ。
GAD(ギャド)の藤間一哉(とうま・かずや)。
地の能力者(アース・マスター)、レインと同種の「新人類(ニューヒューマン)」。
「…下りて来い」
威圧を込め、一哉は鋭い視線で天井を射る。
「出てこない気なら…」
一哉が壁に掌を当てると、獰猛なフォースがコンクリートを伝い、電気のように周囲一帯へ走り抜けた。
それが彼の「地」の特性であることを察知したイヴァは、滅していた己の存在を瞬時に解放し、居場所を示した。
一哉にとってその属性の全てが手足であるならば、隠れたところで無意味だからだ。
「遊び心のねぇガキ…どうせなら、もうちょっとソソる挑発をしろよ。日本人はおカタイって、ホントなんだな」
しなやかな身のこなしで、イヴァが地面に降り立った。
足先が地面についても音は立たない。
コートを脱ぎ捨て、飄逸に肩を竦めて見せる。
「ウチにも一人いるぜ。冗談の通じねぇ日本人のガキがさ」
黒い軍服に縫い付けられた紅龍。
不敵な面魂をしたイヴァの只ならぬ風貌を目の当たりにしたグウェンダルは驚愕を露(あらわ)に後退し、さらに、徽章の下に光る星に気付くと、冗談じゃないとでも言うように首を振った。
「ナ、ナイプ…!か、か、幹部…ッ!?」
「あぁ?」
鋭い三白眼に一蹴されたグウェンダルは、あわてて一哉の背後に逃げ込んだ。
「ふん…取って喰やしねぇよ」
イヴァを正面に見据えたまま沈黙を守っていた一哉はふと俯き、忌々しそうに息を吐くと髪をかき上げ、かぶりを振った。
湧き上がる苛立ちと焦燥は、目の前に立つ男の所為ではない。
だが、その黒い軍服は「彼」を想起させる。
――――レイン・エル。
いくら勘がいいとはいえ、気づくのが早過ぎる。
情報がナイプに漏れてる?或いは、初めから内部の人間とレインが繋がってたのか。
どの可能性も濃厚だ。
詭計に長けたあの男娼は、人を惑わせ、籠絡(ろうらく)し、傀儡にする。
レインが張り巡らせているネットワークは既に、中央政府の深部にまで届こうとしている。
これだけ俊敏に、この場所に幹部を送り込んできたということは、今回の件に連動している組織やGUARDIANの動向を、彼がほぼ把握していると考えていいだろう。
謀計に落ちたのは――――俺たちか。
「アルフレッド・シフはてめぇらが…ナイプが先に連れ出したあとだったってことか」
一哉の呟きに、イヴァは瞳を瞬かせる。
「…あ?」
「失態だ。今回ばっかは、最悪の状況をつくっちまったらしい」
「……。へぇ。そりゃ大変だな」
会話は当然噛み合ってなどいない。
イヴァは一哉が口にした人物のことも、その意味も把握していない。
だがそれを、わざわざ相手に問う必要もない。
真正面から向けられる殺意に迷いはない。
沸き上がる快哉を抑えつつ、イヴァは顎先を上げ、挑発をかけた。
「最悪の状況を好転させるにはどうすりゃいい?…簡単だぜ。手伝ってやろうか?」
「……。そうだな」
張り詰めた空気の中に、フォースが滲み出る。
能力者特有の開戦の合図にグウェンダルは慄き、迷わず遁走をはじめた。
「そんじゃ、頼んだぜ藤間!生きて帰れよ!」
遠ざかっていく背中に、一哉は反応を返さない。
イヴァもまた、グウェンダルを追跡する意図をもたなかった。
「いいパートナーだな、藤間一哉」
「……名前は」
イヴァが口角を上げる。
耳に下がったピアスが揺れ、小さな音を立てた。
「――――カナマ・イヴァ。…少将(メジャー)だ」
「らしくもねぇ…アタマが沸騰しちまうぜ…」
第4エリアと表記されたコンクリートの壁を通り過ぎたあたりで天井に手を伸ばし、通風孔の金網を外して上へ登ると、気配を殺して潜伏する。
目測通りのタイミングで、2つの足音が近づいてきた。
「いないぜ、藤間」
廊下に若い少年の声が響き、ややあって、赤い軍服の2人組が姿を現した。
「ったく。バルタザールのやつ、ガセネタか?」
先ほど声を発した少年が再びぼやくと、もう一方の少年が足を止めて応じる。
「感づかれたらしいな。…戻るぞグウェン」
「ち。メンドくせぇなぁ」
茶髪の少年は、愚痴を零すもう1人の背中を「黙れ」とでも言うように叩くと、踵を返した。
否、返そうとした。
急に動きを止めた少年を訝しげに振り返ったもう一人が、警戒心を抱きつつ彼の名を呼ぶ。
「……。籐間…?」
斜め上方を睨む一哉は、既に殺気を放っている。
暗い通路が急に不気味に思えてきて、もう一人の少年…グウェンダルは両腕をさすった。
「………」
完全に気配を殺しているはずのイヴァに気づいている。
一哉を満足げに見下ろしながら、イヴァはゆっくりと配管の上に手を滑らせ、着地のタイミングを計っていた。
ガキだが――――小物じゃない。
むしろアタリだ。
GAD(ギャド)の藤間一哉(とうま・かずや)。
地の能力者(アース・マスター)、レインと同種の「新人類(ニューヒューマン)」。
「…下りて来い」
威圧を込め、一哉は鋭い視線で天井を射る。
「出てこない気なら…」
一哉が壁に掌を当てると、獰猛なフォースがコンクリートを伝い、電気のように周囲一帯へ走り抜けた。
それが彼の「地」の特性であることを察知したイヴァは、滅していた己の存在を瞬時に解放し、居場所を示した。
一哉にとってその属性の全てが手足であるならば、隠れたところで無意味だからだ。
「遊び心のねぇガキ…どうせなら、もうちょっとソソる挑発をしろよ。日本人はおカタイって、ホントなんだな」
しなやかな身のこなしで、イヴァが地面に降り立った。
足先が地面についても音は立たない。
コートを脱ぎ捨て、飄逸に肩を竦めて見せる。
「ウチにも一人いるぜ。冗談の通じねぇ日本人のガキがさ」
黒い軍服に縫い付けられた紅龍。
不敵な面魂をしたイヴァの只ならぬ風貌を目の当たりにしたグウェンダルは驚愕を露(あらわ)に後退し、さらに、徽章の下に光る星に気付くと、冗談じゃないとでも言うように首を振った。
「ナ、ナイプ…!か、か、幹部…ッ!?」
「あぁ?」
鋭い三白眼に一蹴されたグウェンダルは、あわてて一哉の背後に逃げ込んだ。
「ふん…取って喰やしねぇよ」
イヴァを正面に見据えたまま沈黙を守っていた一哉はふと俯き、忌々しそうに息を吐くと髪をかき上げ、かぶりを振った。
湧き上がる苛立ちと焦燥は、目の前に立つ男の所為ではない。
だが、その黒い軍服は「彼」を想起させる。
――――レイン・エル。
いくら勘がいいとはいえ、気づくのが早過ぎる。
情報がナイプに漏れてる?或いは、初めから内部の人間とレインが繋がってたのか。
どの可能性も濃厚だ。
詭計に長けたあの男娼は、人を惑わせ、籠絡(ろうらく)し、傀儡にする。
レインが張り巡らせているネットワークは既に、中央政府の深部にまで届こうとしている。
これだけ俊敏に、この場所に幹部を送り込んできたということは、今回の件に連動している組織やGUARDIANの動向を、彼がほぼ把握していると考えていいだろう。
謀計に落ちたのは――――俺たちか。
「アルフレッド・シフはてめぇらが…ナイプが先に連れ出したあとだったってことか」
一哉の呟きに、イヴァは瞳を瞬かせる。
「…あ?」
「失態だ。今回ばっかは、最悪の状況をつくっちまったらしい」
「……。へぇ。そりゃ大変だな」
会話は当然噛み合ってなどいない。
イヴァは一哉が口にした人物のことも、その意味も把握していない。
だがそれを、わざわざ相手に問う必要もない。
真正面から向けられる殺意に迷いはない。
沸き上がる快哉を抑えつつ、イヴァは顎先を上げ、挑発をかけた。
「最悪の状況を好転させるにはどうすりゃいい?…簡単だぜ。手伝ってやろうか?」
「……。そうだな」
張り詰めた空気の中に、フォースが滲み出る。
能力者特有の開戦の合図にグウェンダルは慄き、迷わず遁走をはじめた。
「そんじゃ、頼んだぜ藤間!生きて帰れよ!」
遠ざかっていく背中に、一哉は反応を返さない。
イヴァもまた、グウェンダルを追跡する意図をもたなかった。
「いいパートナーだな、藤間一哉」
「……名前は」
イヴァが口角を上げる。
耳に下がったピアスが揺れ、小さな音を立てた。
「――――カナマ・イヴァ。…少将(メジャー)だ」
BACK NEXT SECTION
Copyright LadyBacker All Rights Reserved./Designed by Rosenmonat