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SCENE SECTION
01.始動 / 02.対面 / 03.策略 / 04.死闘 / 05.断罪 / 06.終結
「ふん」
一哉が鼻を鳴らす。
「秩序は大国の支配。テロリストってのはそういう考え方だ。Sクラスが全滅とはね…優秀すぎる結果だぜ。現地指揮官の作戦は、よっぽど大したモンだったんだろうな」
現地でガーディアンの調査員とSクラスエージェントの指揮を執っていた人物、陸軍少佐コルツ・シュベールマンの名を資料から見つけ出し、一哉は言い募(つの)る。
「俺ならこんなヘマしねぇ。資料通りなら、現地の連中はクズだ。ご大層な軍法会議(アームチェア・セオリー)とは訳が違うっつーの。現代装備を過信した無防備な近づき方しやがって。相手が強いってより、これは現地の連中が間抜け…」
「一哉!」
沙羅に怒鳴られ、一哉が肩を竦めた。
突如立ち上がった沙羅を怯えたように見上げ、狼狽しながらも己の正当性を訴える。
「な…何だよ沙羅。だってどー考えたって、これじゃ…」
「バカ! 冷血漢!」
「……」
沙羅の怒気に閉口し、一哉はしゅんと下を向いた。
「沢山の人が被害に遭ったんだよ! 何でそんなこと言うの!?」
顔を赤くして激昂する沙羅に両手を合わせ、一哉は素早く頭を下げる。
「…ごめんなさい」
意気消沈した一哉の姿。
沙羅がガーディアンにやって来て一年弱、今やすっかり恒例となってしまった光景だが、それを傍から座視する隆盛は、沙羅という少女の影響力に毎度感じ入ってしまう。
あの 藤間一哉がこんな風に頭を下げているところを、もしも他のエージェントが目にしたなら、確実に腰を抜かすだろう。
一哉は15歳という若さにも関わらず、他機関や軍関係者からは畏怖と敬意を込めて「廃塵の悪魔(アッシュ・イーヴル)」とまで呼ばれる、凄腕のエージェントだ。
残虐非道が売りのはずの一哉が、現在(いま)では自分と全く異なる価値観を持つ平和主義者(パシフィスト)、沙羅とパートナーを組んでいる。
一哉をよく知る者が見れば、このペアは不自然でしかない。
沙羅の任務には必ず同行し、今までの一哉からはとても考えられないくらい謙虚に、彼女を護ることに徹するのだ。
まったく…。隆盛は知らず微笑む。
両親を亡くしてからずっと孤児院で育ち、能力発生をきっかけとしてようやく一緒に過ごせるようになった可愛い従兄妹、沙羅を、一哉は心から大切に想っているのだ。
任務で彼女を一人にするのが厭で、故に彼女から離れない。
優秀すぎるこの少年が、そんな可愛い一面を持っていた事は、隆盛にとって嬉しい発見だった。
「一哉を…こんなの を一人でなんて、絶対行かせない」
沙羅に「こんなの」呼ばわりされたショックに打ちのめされ、一哉は魂が抜けたかのように項垂(うなだ)れている。
しかし沙羅はそんな彼に一瞥もくれず、血気の勇で隆盛を睨んだ。
その勢いに気押(けお)され、たじろぐ隆盛へと、強腰で言い放つ。
「あたし行く。絶対行く、隆さん!」
「し、しかし、沙羅……」
「一哉が一人で行ったら、現地のエージェントに迷惑! 一哉にはあたしがついてた方がいい!」
断言し、決めポーズ。沙羅はガッツリと拳をつくった。
普段は気弱なところがあり、何事にも遠慮しがちな沙羅だが、それでいて実は芯が強い。
可憐な容姿に似合わぬ意志堅固さを見せ、廃塵の悪魔(アッシュ・イーヴル)を圧倒する沙羅を凝視した隆盛は、忽ち吹き出すと、巨躯を揺らして哄笑した。
「はははは。うん、頼もしいなー。我が日本支部の誇る、最強のSクラスコンビは」
「えー。…沙羅は危ないから、いいって言ってるのに」
瀕死の状態ながらもポツリと呟いた一哉へ大股で歩み寄り、眼前で仁王立ちになった沙羅が、止(とど)めの一撃を言い放った。
「一哉のバカ。人でなし!」
「……!」
落胆しきった一哉は、ついにテーブルに突っ伏した。
「ごめんってば…もぉ…」
ガーディアン東京支部が誇る、最強の凸凹コンビ。
特殊能力者の中でも更に稀な力を持つこの二人を緊急で招集したのは、ガーディアン総帥、李聯(リー・ルエン)である。
聯からの指示で、今回の任務に隠された大切な事実を何も伝える事が出来ないまま、隆盛は彼らの背中を見送る事になった。
今回の任務は重要かつ、危険。
だからこそ、彼らを行かせなくてはならない。
二人が去った後の閑散とした室内を一望し、天を仰ぐようにしながら、隆盛は長嘆した。
あの二人は、どうしても逃れられない運命を背負って生まれて来てしまった。
まだ幼くて、あんなにいい子達なのに。
彼らが背負った力は大きすぎて、支配する事に執着する人間には魅力的すぎる。
世界で稀に現れる能力者(エレメンツ)の中の、さらに異端種(ヘレティック)。
――「新人類(ニュー・ヒューマン)」
「ふん」
一哉が鼻を鳴らす。
「秩序は大国の支配。テロリストってのはそういう考え方だ。Sクラスが全滅とはね…優秀すぎる結果だぜ。現地指揮官の作戦は、よっぽど大したモンだったんだろうな」
現地でガーディアンの調査員とSクラスエージェントの指揮を執っていた人物、陸軍少佐コルツ・シュベールマンの名を資料から見つけ出し、一哉は言い募(つの)る。
「俺ならこんなヘマしねぇ。資料通りなら、現地の連中はクズだ。ご大層な軍法会議(アームチェア・セオリー)とは訳が違うっつーの。現代装備を過信した無防備な近づき方しやがって。相手が強いってより、これは現地の連中が間抜け…」
「一哉!」
沙羅に怒鳴られ、一哉が肩を竦めた。
突如立ち上がった沙羅を怯えたように見上げ、狼狽しながらも己の正当性を訴える。
「な…何だよ沙羅。だってどー考えたって、これじゃ…」
「バカ! 冷血漢!」
「……」
沙羅の怒気に閉口し、一哉はしゅんと下を向いた。
「沢山の人が被害に遭ったんだよ! 何でそんなこと言うの!?」
顔を赤くして激昂する沙羅に両手を合わせ、一哉は素早く頭を下げる。
「…ごめんなさい」
意気消沈した一哉の姿。
沙羅がガーディアンにやって来て一年弱、今やすっかり恒例となってしまった光景だが、それを傍から座視する隆盛は、沙羅という少女の影響力に毎度感じ入ってしまう。
一哉は15歳という若さにも関わらず、他機関や軍関係者からは畏怖と敬意を込めて「廃塵の悪魔(アッシュ・イーヴル)」とまで呼ばれる、凄腕のエージェントだ。
残虐非道が売りのはずの一哉が、現在(いま)では自分と全く異なる価値観を持つ平和主義者(パシフィスト)、沙羅とパートナーを組んでいる。
一哉をよく知る者が見れば、このペアは不自然でしかない。
沙羅の任務には必ず同行し、今までの一哉からはとても考えられないくらい謙虚に、彼女を護ることに徹するのだ。
まったく…。隆盛は知らず微笑む。
両親を亡くしてからずっと孤児院で育ち、能力発生をきっかけとしてようやく一緒に過ごせるようになった可愛い従兄妹、沙羅を、一哉は心から大切に想っているのだ。
任務で彼女を一人にするのが厭で、故に彼女から離れない。
優秀すぎるこの少年が、そんな可愛い一面を持っていた事は、隆盛にとって嬉しい発見だった。
「一哉を…
沙羅に「こんなの」呼ばわりされたショックに打ちのめされ、一哉は魂が抜けたかのように項垂(うなだ)れている。
しかし沙羅はそんな彼に一瞥もくれず、血気の勇で隆盛を睨んだ。
その勢いに気押(けお)され、たじろぐ隆盛へと、強腰で言い放つ。
「あたし行く。絶対行く、隆さん!」
「し、しかし、沙羅……」
「一哉が一人で行ったら、現地のエージェントに迷惑! 一哉にはあたしがついてた方がいい!」
断言し、決めポーズ。沙羅はガッツリと拳をつくった。
普段は気弱なところがあり、何事にも遠慮しがちな沙羅だが、それでいて実は芯が強い。
可憐な容姿に似合わぬ意志堅固さを見せ、廃塵の悪魔(アッシュ・イーヴル)を圧倒する沙羅を凝視した隆盛は、忽ち吹き出すと、巨躯を揺らして哄笑した。
「はははは。うん、頼もしいなー。我が日本支部の誇る、最強のSクラスコンビは」
「えー。…沙羅は危ないから、いいって言ってるのに」
瀕死の状態ながらもポツリと呟いた一哉へ大股で歩み寄り、眼前で仁王立ちになった沙羅が、止(とど)めの一撃を言い放った。
「一哉のバカ。人でなし!」
「……!」
落胆しきった一哉は、ついにテーブルに突っ伏した。
「ごめんってば…もぉ…」
ガーディアン東京支部が誇る、最強の凸凹コンビ。
特殊能力者の中でも更に稀な力を持つこの二人を緊急で招集したのは、ガーディアン総帥、李聯(リー・ルエン)である。
聯からの指示で、今回の任務に隠された大切な事実を何も伝える事が出来ないまま、隆盛は彼らの背中を見送る事になった。
今回の任務は重要かつ、危険。
だからこそ、彼らを行かせなくてはならない。
二人が去った後の閑散とした室内を一望し、天を仰ぐようにしながら、隆盛は長嘆した。
あの二人は、どうしても逃れられない運命を背負って生まれて来てしまった。
まだ幼くて、あんなにいい子達なのに。
彼らが背負った力は大きすぎて、支配する事に執着する人間には魅力的すぎる。
世界で稀に現れる能力者(エレメンツ)の中の、さらに異端種(ヘレティック)。
――「新人類(ニュー・ヒューマン)」
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